005 悪人冒険者とボスエリア
「待ってくれ! そのゴブリンたちは俺の仲間だ!」
「あっ? 知るかよ!」
「ははっ、こいつテイマーだぜ!」
そう言って男たちは、瞬く間にゴブリンたちを倒してしまった。
だがここでカードに戻られると召喚したと気付かれるため、カードに戻らないように意識してみる。
すると願いが通じたのか、ゴブリンたちは消えることなく、死体のまま残った。
「ちっ、どういうつもりだ」
俺がそう言うと、男たちはニヤニヤしながら口を開く。
「どういうって、助けてやったんだぜ?」
「そうだぜ。報酬は有り金すべてと装備で許してやるよ」
くそ、こいつら悪人か。断れば殺そうとしてくるだろう。
であれば、答えは決まっている。
だがヘンな動きをすれば、先に斬り捨てられるかもしれない。
なら、アレを試してみるか。
現状やられたゴブリンは六匹と、罠とベックたちに倒されたのを合わせて九匹。
そしてここまでで集まったゴブリンのカードは二十六枚。
つまり、使用可能なゴブリンのカードは十七枚だ。
俺はポケットに入っているゴブリンのカード十七枚を意識して、声に出さず召喚を試みる。
「な、なんだこの数は!?」
「どこから出てきやがった!?」
結果として願いが叶い、十七匹のゴブリンが男たちを取り囲む。
「やれ!」
「「「ごっぶ!」」」
そして俺の命令と共に、ゴブリン達が二人の男に襲い掛かる。
「ぐあぁ!? ちくしょう! 舐めるな!」
「くそがっ! ゴブリン如きが調子にっ!?」
「俺を忘れないでくれるか?」
二人がゴブリンの群れに慌てている隙に、俺の剣が二人を襲う。
また命令は口に出さなくても通じるらしく、ゴブリンたちが通り道を作ってくれる。
「まっ待て! キュフッ――」
「嘘だろ!? ゆ、許して――」
男たちの命乞いを聞かず、俺は二人の喉を斬り裂いた。
「なんだ。こんなものか」
人を殺したこともそうだし、実力もたいしたことがない。
突然だったから、俺も焦っていたようだ。
軽く息を吐くと、動かなくなった男を一応カード化しようとしてみる。
だが人はモンスターではないので、やはりカード化することができなかった。
まあ、これは何となく分かっていたからいいか。
人までカード化できたら、それこそチートすぎるだろう。
さて、こいつらの死体はどうしたものか。取れる物は取るか。
「お前ら、こいつらの身ぐるみを剥げ」
「「「ごぶ!!」」」
ゴブリンたちが男たちの死体から装備などを剥ぎ取っている間、俺は一人休憩をする。
水を飲み、干し肉を噛む。
どうやら人を殺した直後でも、肉を食べられるようだ。
俺の精神が異常なのか、それともデミゴッドの種族が関係しているのだろうか?
半分とはいえ神であるのだし、悪人が死んだところで何とも思わないのかもしれない。
これからのことを考えると、これはこれでアリだろう。
いちいち気にしていたら、生きていけそうにない。
そうして休んでいると、ゴブリンたちが剥ぎ取った装備などを持ってきた。
うーん。微妙だ。
装備はサイズが合わないし、金もほとんど持ってないな。
こいつらが持っていた水や食料は気持ち悪いし、碌なものを持っていないぞこいつら。
剣二本と短剣二本は、ゴブリン四匹に配って持たせるか。
他は使えそうなものだけ手に入れて、あとは捨てていこう。
村で売ろうとして、面倒になるのは避けたいしな。
それからゴブリンを六体にまで減らし、宝箱探しを再開することにした。
だがどういう訳か、ゴブリンが案内を開始しない。
どうやら、先ほどの宝箱で最後だったみたいだ。
それなら、ダンジョンの最奥を目指すことに切り替える。
「ごっぶ!」
するとゴブリンはそれなら分かるというように声を上げると、歩き出す。
ちなみに隊列は剣持ちゴブリン二匹と、短剣持ちのゴブリン一匹が前衛。
無手のゴブリン二匹と短剣持ちのゴブリン一匹が後衛である。
武器を持っているだけで、かなり違う。
敵のゴブリンなど、もはや相手にはならない。
そして道中目標のゴブリンのカードが三十枚になったので、ここからは右耳と石を取り出す事にした。
取り出す作業は、短剣持ちのゴブリンにやらせる。
また袋を二つ取り出して、右耳と石と分けて入れさせた。
ちなみにこの袋は、あの男たちが持っていたものである。
中にはゴブリンの右耳と石が入っていたので、ちょうど良い。
それといい加減この石が何なのか、鑑定してみるか。
名称:ゴブリンの魔石
説明
ゴブリンから採取された魔石。
僅かだが魔力が籠っている。
なるほど。これは魔石というのか。
魔力が
そうしてゴブリン討伐と採取を続けながら、ダンジョンの最奥に辿りついた。
「ここが最奥か」
目の前には、大きな両開きの扉がある。
どう考えても、この先に何かいるだろう。
おそらく、ボスモンスター的な何か。
行くべきか止めるべきか少し悩んだが、行くことを決めた。
そして俺が扉に手を触れると、扉が勝手に開き始める。
扉の先には十匹のゴブリンと、他よりも体格の良い棍棒を持ったゴブリンが一匹いた。
入らなければ動かないみたいなので、鑑定をしてみる。
種族:ホブゴブリン
種族特性
【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】
【腕力上昇(小)】
エクストラ
【ダンジョンボス】
スキル
【棍適性】
おおっ。エクストラがあるぞ! どんな効果なんだ?
続けて、ダンジョンボスというエクストラを鑑定をしてみる。
名称:ダンジョンボス
効果
通常個体よりも生命力や魔力、身体能力が大幅に上昇する。
即死効果が無効になる。
強い。つまりこのホブゴブリンは、通常個体のホブゴブリンより強いわけだ。
これは、カード化して手に入れるしかないな。
そうと決まれば、やるしかない。
俺は追加で出せる十五匹のゴブリンを召喚すると、ボスエリアに侵入した。
すると背後の扉が閉まり、退路が塞がれる。
だがどのみち倒すことになるので、問題はない。
まずは剣持ちと短剣持ちのゴブリンを含めた、計十匹で敵ゴブリンに向かわせる。
相手のゴブリンも十匹であり、こちらは剣持ちと短剣持ちがいるので優勢になるだろう。
他のゴブリン達が頑張っている間に、こちらもホブゴブリンへと向かう。
棍適性というスキルを所持しているので、棍棒には気をつけたい。
ホブゴブリンは二メートルの巨体をしており、筋骨隆々である。
攻撃が当たれば、ただでは済まない。
ここはゴブリンを
「ゴブッ!」
「ぐぎゃっ!?」
するとさっそく、味方ゴブリンがホブゴブリンにやられてしまった。
棍棒の一撃により、まるで潰れたトマトのようになってしまう。
ダンジョンボスのエクストラ効果は、想像以上に強力なようだ。
だがその隙に、俺は背後からホブゴブリンを斬り裂いた。
多少の血しぶきが飛ぶが、軽傷だ。
「ゴブ!?」
「くっ」
加えて痛みから、俺に向けてホブゴブリンが棍棒を振るう。
重鈍そうに見えて、意外にその攻撃は素早い。
それを何とか回避すると、続けざまに斬りつける。
「ゴガァ!」
するとホブゴブリンは完全に、俺を標的にしたようだった。
これでは、ゴブリンの囮など意味をなさない。
そこで俺はゴブリンたちを、他のゴブリンたちの援軍に向かわせた。
ホブゴブリンと一対一になるが、問題ない。
避けるだけなら、意外と何とかなる。
「どうした? 当たらないぞ?」
「ゴガァア!」
デミゴッドの肉体は、本当に優秀だ。
加えて直感のエクストラ効果が、良い仕事をする。
次にホブゴブリンがどのような攻撃をしてくるのか、何となく分かってしまう。
もちろんそれに過信することなく、攻撃の軌道を確認している。
ここまで来れば確信するが、ホブゴブリンでは俺に攻撃を当てることはできない。
そして同時に、俺は気が付く。
「この剣、俺には力不足だな」
俺は持っていた剣を放り投げた。
「ゴア?」
ホブゴブリンも俺の行動に首をかしげるが、その一瞬の油断が命取りになる。
俺は跳躍すると、ホブゴブリンの首に回し蹴りを喰らわす。
すると面白いように、ホブゴブリンが地面を転がっていった。
そして、少しするとピクリとも動かなくなる。
「まあ、そうなるよな」
初心者冒険者セットの剣を使うより、デミゴッドの身体能力をフル活用した回し蹴りの方が強いのは、当たり前だ。
力任せに剣を使えば、簡単に折れてしまうことだろう。
剣の技術が無いことを考えると、純粋な己の肉体が最強の武器になる。
俺がそんなことを考えていると、味方ゴブリン達も勝ったようだった。
するとボスエリアの敵をすべて倒したからか、奥の扉が開く。
当然行くが、その前にやることを済ます。
ホブゴブリンに手をかざすと、カードへと変換される。
「ボスホブゴブリン。ゲットだ」
これで俺の軍団が強くなった。
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