第20話 イリス

「あら、エドあんたおばあちゃんのところに来てたの?」


ダンジョン攻略から帰ったばかりのイリスの頭にスプーンが飛んでくる。


イリスの戦闘スキルならけっして当たるはずのないスプーンが普通にコーンと頭に当たる。


「おばあちゃんと呼ぶなと言っているだろう。」


「えー、だってわたしのお母さんなんだから、エドワンクにとってはおばあちゃんじゃないの。」


大聖女エリミリアがティーカップを片手に持ってこっちを見ている。


静かなまま急速に周囲の気温が下がっていくのがわかる。教会の天井からつららが下がってくる。


吐く息が白い。


「エリミリア大聖女様、王都が氷ついてしまいます。」


「エドワンク、あなたは母と違って口のきき方がわかっているのね。」


「私のしつけよ。お母様。」


イリスは唇を薄くにーっと伸ばして笑う。


「何を呑気な事言ってんだよ母さん。他の王家の人達はみんな死んじゃったんだよ。ハイデギアがみんなを殺したんだよ。」


「あのボンボンが?おおかた誰か権力志向の強い奴にはめられたんじゃないの?」


「王様もみんな死んじゃったんだよ。」


「範囲魔法で一撃だったってエリアが言っていたよ。」


「あのお人好しの王様だけは少し惜しかったかもね、あんたにも優しかったでしょう?」


「後はどうかしら?あんたも同じでしょう?」


「とはいえ、あの差別主義のアホボンに国を任せる訳にもいかないわね。」


それにそんな魔法が使えるのって?

ペトロニウス?

まさかね。


イリスは変人の叔父の事を思い浮かべるが今回の件とは結び付けられない。


「素早く勇者を取り込み、書簡を送って自分の陣営を固めたのはあんたにしては上出来ね。」


「あれは魔王に言われてやっただけさ。」


エドワンクは憮然として答える。


「やっぱり。」


子供が判断して出来る事じゃないわね。


「でも、あなたが魔王の意見に従うとはね。」


「母さんが言ってた事だよ。魔王は敵じゃないって。」


「そう、魔王も勇者も手の内なら何も問題じゃないわね。じゃ、反撃ね。」


「王位を簒奪した逆賊ハイデギアを成敗するのよ。カルナガリア王国第28世エドワンク王。」

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