10.21.逃走失敗
ベレッド領内が騒がしくなってきた。
早い段階で制圧を始めたのが不幸中の幸いだっただろうか。
無関係の領民の避難が行われており、騎士や兵士が各々の割り振られた物件に突撃している。
それを防ごうと躍起になっている者たちもいた。
幾度か目の爆発音。
爆薬を取り扱っていた店を早い内に買収し、それらを教会の息のかかった者たちに運ばせて爆破させているらしい。
ようやく店を特定したのでそこに突入しようとしている最中ではあるが、中にどれだけの火薬が詰められているか分からないのでむやみやたらに突撃することができないようだ。
火を放って爆破させるべきだ、という案もあったが危険すぎることに反対意見も多く出ている。
制圧を任された者たちが爆発物に苦しめられている時、刃天とチャリーは敵の本拠地である教会の扉をけ破ったところだった。
無駄に豪勢な内装と、無駄にデカすぎる空間に呆れながらジルードとか言う男を探す。
教会の中に入った瞬間、大量の武器をこちらに向けられた。
既に内部で戦闘が始まっているということもあってもうめちゃくちゃである。
やはりこの教会にヘイトが向くのは仕方がない。
それぞれ大なり小なりこの教会に恨みを持って突撃してきているのだから、戦い方が荒くなるのも無理はないのだ。
「ふむ。既に兵をここに集中させていたか。手こずるのも無理はない」
「確かにそうですね。まぁ一応目の前に居る敵を何とかしますか」
「そうしよう」
パッと消えてしまったチャリー。
すると、武器を構えている集団の一番右側にいた男が悲鳴を上げた。
全員が横を向けば腹部と胸部に短剣が深く突き刺さっている。
いつもの初見殺しだ。
そして視線がこちらから外れたところを刃天は見逃さなかった。
その瞬間にすぐさま床を蹴って飛び出し、すれ違いざまに一人の首を斬り飛ばす。
ここで一気に動揺が広がった敵はもはや烏合の衆だ
刃天は斬り飛ばした男の頭をキャッチして背後に居た男に投げつけた後、すぐさま踵を返して武器を向けていた女の腹部を栂松御神で貫く。
ギュリッと捻じり込んで刃を横にし、峰を殴りつける様にして切り抜けば胴体の半身が千切れた。
自由に動かせるようになった栂松御神に付着した血液を軽くふるい落とし、次の敵に目を向ける。
だがチャリーは魔法を使うので処理速度が速い。
刃天が二人仕留めた間に、彼女は四人仕留めてしまった様だ。
「よしっ」
「魔法は違うな」
「相手も使ってくると面倒なんですけどね」
その瞬間、刃天とチャリーの間を火球が通り過ぎた。
若干燃えた髪の毛に驚きながら手でそれを払って消し飛ばす。
「ああっつ!!」
「あっち! ちょっとぉ!」
「お前がそんな事を言うからだろうが!」
「知りませんて!」
一瞬で移動したチャリーは、その魔法使いを一撃で仕留める。
そして蹴り飛ばしながら短剣を引き抜いた。
「はぁ~。さすがにベレッドは無血とはいかねぇか」
「敵がはっきりしていましたからね! それに随分怨みも持たれてたみたいですし?」
「まぁそうだな……。と、いうか……」
教会を襲っている人間の動きに、刃天は見覚えがあった。
連携を取っているようには思えない。
だがこの既視感はなんだ、と考えていると一つの結論に辿り着く。
(こいつら、賊か)
爆発や兵士たちの動きに合わせ、折を見て金になるものを奪いにやってきた賊共だ。
傭兵や冒険者なども混じっているので戦い方にムラがある。
通りで兵士より先に戦っているわけだ。
そんな相手に絡まれているこの教会はさぞ厄介だろう。
なにせ、逃走する時間を逃してしまったのだから。
「……あれかぁ……?」
「え、どれですか?」
「あそこにいる奴。他の奴に比べて華やかだ」
「うっわ、あからさまぁ……」
刃天の視線の先には、確かに他の者たちとは違う格好をした男が多くの資料を抱えて逃走を図っていた。
しかし入って来た賊に対応しているので中々進めないでいるらしい。
あれが主犯格だろうか?
分からないが、とにかく追いかけた方がよさそうだ。
刃天は走り出すと次第に姿勢を低くして速度を乗せる。
時折飛んでくる魔法や斬撃を掻い潜りながら接近し、バッと飛び込んで上段から斬撃を繰り出した。
キィンッ!!
間に飛び込んできた剣士に、この一撃を止められてしまう。
派手な男は目を瞠って驚いたようだが、すぐに逃走を図った。
「そいつを殺せ!」
「そのつもりです」
ぐっ……と力が込められた拳を見て、刃天は両手で栂松御神を支えた。
すると無理矢理力を込めて押し戻される。
男は何度か剣を手の中で回してから再び構えを取った。
「ジルード様には指一本触れさせん」
「……ああ。あいつがそうなのね。チャリー!」
「承知しました~」
「!?」
男の横に出現してから言葉を発し、即座に姿を消したチャリー。
声に反応して大降りを見舞ったがそこには既に誰も居なかった。
男がジルードの方を見てみると、瞬間移動をして攻撃しようとしている女の姿が目に入る。
「ジルード様!」
「よそ見たぁよかねぇなぁ……」
「ぐ!」
下段からの切り上げ。
その一撃は不意打ちということもあってなかなかの衝撃だった。
一歩よろめいたところを刃天は見逃さずに追撃をかます。
籠手で何とかその攻撃を防いだが、一撃が重く手が一瞬で痺れて暫く使い物にならなくなった。
だらんと脱力したまま片腕だけで剣を操る。
本来であれば両手剣ではなく片手剣に切り替えたいところだが……この男を相手に武器を切り替えることは出来そうもない。
剣を肩に担いで攻めて来るのを待つ。
さすがに受けに徹しなければこの場を潜り抜けられないだろう。
刃天は脱力しながら近づいた。
間合いに入った瞬間切ってやとう、と構えた男は腕に力を籠める。
あと一歩で間合いに入る……といったところで刃天が先に動いた。
それに反応して男も剣を大きく振るう。
次の瞬間、凄まじい一撃が手首を襲った。
「!?!?」
「あんま時間かけてられねぇから本気でやるぞ」
「ゲォ……」
籠手を狙った刃天の間合いはいつもより長い距離にある。
一撃で片手を叩き落し、その流れで切っ先を喉元に突き刺した。
この一連の動きはほぼ一瞬だ。
瞬きしている間に動作が終っているように男は感じた。
「やはり籠手落としからの突きは馴染むな」
この技は刃天が最も得意としている動きだ。
今回は片手だったので確実に成功させられると踏んで繰り出したが、案の定ぶっささった。
他にもやり方はあるが、基本的な動きはこれである。
栂松御神を横に動かしながら死体を転がし、引き抜く。
チャリーの方を見てみると数名が四苦八苦しながら彼女を足止めしていた。
だが次々に脱落者が出ているのであの時間稼ぎも長くは持たないだろう。
「どこ行った?」
刃天はジルードを探す。
目だけをギョロギョロと動かして標的を探せば、目立つ格好だったのですぐに見つけられた。
人ごみに紛れて教会の地下階段を下りて行った様だ。
抜け道を使われると厄介だ。
そう考えた刃天は様々な攻撃を掻い潜りながら階段を飛び降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます