第7話 お断り

 ――――上手く話せない。

 俺は廊下から鈴森と例の女の子に呼び出されてとある空き教室に入ったが、ここには俺達三人以外いないので、鈴森と銀髪の子の良い匂いが充満していて頭がクラクラしてくる。それに、目の前に美人がいたら普通に緊張して話せなくなる。


「――それで、何の用ですか?」

「えーっとね、君にお願いがあって来たの」

「お願い?」


 銀髪の子は朝見た時と同じような感じで、陽気に話してきた。


「うん。赤月くんさえよければファッション部に入って欲しいの。君はとても才能があると思うんだけどなぁ〜」


 彼女は両手を合わせて、その手をほっぺにつけて、顔を傾ける。ていうかこの前鈴森にも同じ事言われたぞ。

 ――でもこんなお願いの仕方をこんな美人にされたら男ならだれでも首を縦に振ってしまう。だが、俺は違う。俺には部活動に時間を割く余裕もないしなによりお金もない。だからファッション部が嫌というより、お金がかかることが嫌なのでここは丁重にお断りさせてもらおう。


「――すみません。僕は部活動に入る余裕が無いので、今回はお断りさせて頂きます」


 俺は少しかしこまって、軽く頭を下げる。

 このくらい重い感じで断れば、さすがにあの鈴森でさえもう誘ってこないだろう。


「――――そっか。ちなみに余裕ってなに?」

「お金の面とか、あと自分バイトもいくつかしているので、そんなに部活動に顔を出せないと思うので」

「じゃあ、合間を縫ってやればできるじゃん。それとも今でさえも時間ギリギリでバイトとかしてるの?」

「――――はい。今も学校が始まる前と終わった後は常にバイトです」

「じゃあ、バイトの時間をずらして、部活終わった後に夜とかにバイトすればいいじゃん」

「――――いや、そんな体力は……」

「まだ若いのに何を言ってるの? 私よりまだ一つ若いんだから、私より体力あるでしょ?」

「まぁ、確かに自分の方が若いですけど……」


 この人、しつこいな。そんなにファッション部は部員がほしいのか? あんなに百人以上部員がいるというのに、まだ部活を大きくしたいのだろうか?


「でも、とにかくすみません。もし時間ができたら検討させてください」


 俺は今度は顔を上げて、彼女の目を見つめて言う。いつもは整った顔を見るたびにアタフタして、それをなんとか抑えていたが、今回は不思議と彼女を真っ直ぐに見ることができる。


「――――うん。分かった。でも、それじゃあいつまで経ってもやりたいことできないよ?」

「――――はい」


 やりたいことができないか。

 そんなことは俺も重々承知だ。恐らく今もこれからもこのお金に追われる生活を送ることなんてそんなこと嫌というほど分かっている。でも、避けられないんだ。


 ――たしか中学校の時も同じようなことがあった。俺が中学三年生の時、同じように金銭面の問題から、修学旅行に行かないと先生に言ったとき、先生から「でも、これは今しかできないことなんだよ?」と言われた。それに、それを聞きつけた同じクラスの優しい奴が「俺らと一緒に京都回ろうぜ」と声をかけてくれた。

 だが、その時もどうしてもお金がないから仕方ないと断ってしまった。俺の本心は勿論行きたかったが、お金の事情はどうしても拭えない問題だ。




「それじゃあ、また」


 俺は軽く手をふり、その教室を後にした。


 俺は帰りの廊下でいたたまれない残念感というかなんというか、そういうモヤモヤを抱えながら、ポケットに手を突っ込んで小物のヤンキーのように普段はしない歩き方で教室に戻った。



 




 




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