御伽噺の裏方やってます

神月 葵

桃太郎①

仕事ってのはこっちの事情を考えずに発生する。

新人社員である俺はバトルゲームをしつつも、遠くから聞こえてくる足音に耳を澄ませていた。

そろそろドアが開くか……。どうせ依頼が来たとかそんなんだろ。

そう思うと同時にドアの隙間から上司が顔を出した。


「おーい島崎、仕事だぞ」

「ちょ、さとー先輩!今無理です!いいとこなんすよ!」

「何やってんだか……」


ほら見たことか。こっちは連続勝利の記録が更新されるところで忙しいのに。

横で呆れられた気がしたが気にしない、気にしない。


「それで、先輩。今回はどんな依頼なんすか?」

「やる気はあるんだな……。んじゃ、説明するよ。そのままでいいから耳だけ傾けておけよ」

「はーい」


先輩からの説明を要約するとこうだ。


今回の依頼は桃太郎。桃太郎が正規の物語通りに鬼を倒す未来へ運ぶのが目標。


なんか小難しい言い回しをしてたけど癖なんかな。

まあ偏見だけど理系って面倒くさい喋り方しそうだしなあ。


_______________________________________________


支度を終え、俺と先輩は奥の部屋へと進む。

部屋の中には扉がぽつんと佇んでいる。いつも思うけど、この部屋の風景って寂しいよな。

そんなことを考えてながら先輩の後に続く。


普段俺らがどうやって御伽噺に干渉しているのかというと、それは全てこの扉のおかげだ。

絵本なり文庫本なり、入りたい話の資料を持ちドアを開けるとその先は入りたい話の世界へと続いている。原理は正直誰もわかってないらしく、1人で使うのはちょっと憚られる……よな。怖いし。


先輩がドアを開けると強い光が差し込んできて思わず目を閉じる。

次に目を開くとそこは――とんでもないド田舎だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る