第75話 最強少年は神代の式神に出会う。



 転移した先は林の中だった。すぐに転移環から退き場所を空けると続いて葵と瞳さんが2人で抱き合って転移してきた。

 輪っかの中の存在を移動させるので、上手くすればこのように2人同時にで移動することも不可能ではない。


「えっと、ここは?」


「調布の飛行場だとよ。見ろ、あそこに陽介達がいる。もうここから先は何が起きても不思議はない。気を引き締めろよ?」


 俺は用を終えた転移環を<アイテムボックス>に仕舞うと、小型ジェットの近くにいる数人の男女を手で指し示した。


「覚悟はできてきます。参りましょう」


 瞳さんが決意を感じさせる声音でそう答え、頷いた俺は足を踏み出した。




 北里さんがスマホを通話状態にしてくれているのでそこで行われている会話が聞こえてきた。

 

「小夜子、話とは一体なんだ? 君が2日、役目を放棄したことは問題になっているぞ。加茂のご当主も君の事を心配なされている。無論、ご両親もだ」


「ご当主さまはともかく、両親が心配などするはずがないわ。あの2人は弟をいかに優秀な術士にするかしか眼中にないもの」


「小夜子……」


「お小夜、そのようなことを言うものではない」


「まあ、伽耶さま……陽介と共に動かれていたのですね。これは都合が良いことです」


「お小夜? お主、何かあったか」


「伽耶さま、小夜子は本当の力というものを知ったのです。陰陽師が、世の術者がいかに矮小で愚かしいものなのか、理解したのですわ」


 そう叫んだ北里さんがこれまで抑えてきた力を開放した。


 その魔力は下手をすると今の葵以上だ。俺がユウキに魔力を起こしてもらったときなんかとは比べ物にならない強大な力を纏っている。


「なんじゃと?」「こ、この力、唯事ではないぞ!」


 北里さんが悪役ムーブ全開で完全に場を支配している。気配を極力殺して歩く俺達を、彼女の存在感に圧倒されて陽介やその隣にいる婆さんは気にも留めていない。


「うそ、あれ北里さん? なんか別人みたいになってない??」


「そうね、去年会合で見かけた時はあのような力はなかったわ」


 隣を歩く葵と瞳さんが俺を見るが……やったのは俺じゃないからな。あれは俺も説明できん。リリィ曰く自分の魔力を相手に流し込んで体内の回路を覚醒させるらしいんだが、そもそも相手に魔力を流すとかどうやるんだのレベルだしな。


 しかし大した力だな、まだまだ粗削りで洗練さの欠片もないが昨日初めて”起きた”とはとても思えない。



「2人とも、余計なことに気を回すな、集中しろ」


「後で説明してよね!」「是非ともお願いします」


 それを俺に言われても困る。しかし北里さんの件はマジで早まったかと思うが、でもこうしないと頑なな彼女を動かせなかったとも思えるので判断は難しい。




 まもなく陽介たちの背後に辿り着くが、スマホから流れてくる会話はまだ続いている。


「なんたることじゃ。お小夜、お主魔性に魅入られたか?」


「目を覚ませ小夜子! 邪な手段で手に入れた力は身を滅ぼすだけだぞ!」


「魔性? 邪なる力? 陽介ならいざ知らず伽耶様までよくそんなことを。これは私本来の力、あのお方が目覚めさせてくださった本当の力なのです。妖魔などにこの霊力が生み出せましょうか」


「小夜子、お前に一体何があったのだ……」


「何があったですって? その言葉を誰よりも問いたい方が陽介、貴方の後ろにいるわよ」



「人の電話には出ようぜぇ? 陽介よう、一体こっちが何回かけたと思ってんだよ、おい」


 二人を残し、気配を消して近寄った俺は陽介の後ろから肩を組んだ。もちろん思いっきり体重をかけてやったぞ。


「うおっ、は、原田! いったいどうして……なるほど、小夜子だな」


 苦々しい顔で自分たちを裏切った北里さんを見据える陽介だが、当の彼女は涼しい顔だ。これまでの全てを捨て去る覚悟でユウキが齎す力に縋ったと聞くから、陽介にどう恨まれ憎まれようが知った事じゃないらしい。

 彼女に惚れているらしい陽介はご愁傷さまという奴だ。



「ああ、お前が全然捕まえらんないからな、彼女に段取りを頼んだのさ。でよ、お前俺になんか言うことあるよなあ?」


 協力関係の相手に突然約束を反故にされた俺はこいつに激怒してもいいはずだ。さらにその理由を尋ねようにも電話に出ないときたからな。


「言えぬ。原田には悪いとは思っているが、これは決して口にできぬのだ」


「おいおい誰が話を聞いてるってんだよ、ここにいるのは俺達だけだろうが」


「……」


「俺達はまだ知り合って大した時間が経ってるわけじゃないが、これまでうまくやってきたはずだ。そんな相手に突然裏切られたんたぞ俺は。お前にも何かあったのは見りゃわかるが、せめて事情の一つも話すのが筋ってもんじゃないのか?」


「すまぬ。こればかりは口外出来んのだ。何も説明できなくて悪いと思っている」


「それなのに葵は自分たちに引き渡せってか? どんな無理筋だよ」


 あかん、思った以上に話にならない。何がこいつをここまで頑なにさせるんだ? それが理解できない限りこの話は平行線を辿ることになるな。

 折角、策を弄してここまで来たのに”何も解らないことが解った”なんて冗談じゃない。




「ほう、お主が原田玲二殿か。ふむ、大した面構えじゃの」


 無言で対峙する俺達を見かねたのか、小柄ではあるが物凄く貫禄のある老婆が口を開いた。

 ……この婆ちゃん、相当な実力者だな。日本でこれまで出会った中でもトップ5には入るぞ。


「確かに俺は原田ですが、そういう貴女は?」


 俺の問いかけにその婆ちゃんは目を見開いた。そんな変な質問をした思えはないんだが。


「ほほ、これは失礼した。この皺だらけの顔を見知らぬ者と会話をするのは随分と久方ぶりゆえ、驚いてしもうた。この陽介の祖母をやっておる伽耶と申す者じゃ」


「原田様、こちらの方は土御門家の先代のご当主様で、国内の術師に絶大な影響力をお持ちの方です」


 北里さんが俺のために解説をしてくれたのだが、土御門の二人は驚愕の視線を彼女に向けている。


「お、お前、本物の小夜子なのか? とてもそうは思えんぞ」「あの勝ち気なお小夜が、このような……」


 何を驚いているのかと思えば、豹変した北里さんの態度に目を丸くしている。確かに突然敬語を使われ出して非常に気持ち悪いのは確かだ。


「私とて伽耶さまのように敬意を払うべき相手には相応の態度をいたします。原田様は我が主のお仲間であらせられます。こうべを垂れ、礼を示すのは当然の事かと」


 調子狂うから本気で止めてほしいんだが、今それを言い出すと話が更に脱線する。はやいとこ軌道修正しなくてはならない。


「先代と現当主が揃ってるのか、一族総動員して葵を追いかけまわしていることに無関係とは思えないな」


「……我等の窮状を察してくれとしか言えんのだ」


 苦渋の顔でそれしか絞り出さない陽介だが、むしろ困ってるのは俺だっての。


「あんたら以外の2家も血眼になって葵を追いかけまわすし、一体何があったんだよ……」




「我等が他家の護り巫女様方をお預かりしておりますので、その奪還に必死なのでしょう」



 は忽然と俺達の前に現れた。


「なっ! お主、雲雀ひばりか!」「くそ、我等に気配さえ感じさせぬとは!」


 土御門の二人は警戒心も露に突如出現した子供を睨みつけているが、二人のものではない奇妙な魔力があるのは最初からわかっていた。

 見た目で言えば小学校低学年のような子供だが、その姿は宙に浮いている。


 一目で解る、こいつ普通じゃない。



「玲二さん、見た目に騙されてはなりません! この雲雀は式神、それも十二神将に並ぶ神の位階に位置する最高位の式神です!」



 俺から離れた距離にいる瞳さんが警戒の叫びをあげ、俺に情報を与えてくれたが子供の姿を取っているだけで中身は相当な存在らしい。



「土御門の当主を追っていれば友人である原田は必ず姿を現すと確信していました。そしてそのすぐ近くには行動を共にする巫も存在するはず……そこですか」


 その子供は葵の姿を見極めると目にも止まらぬ速さで移動し、俺の<結界>に阻まれる。


「ほう、我が力をもってしても守りの破壊が叶わぬとは、少々誤算ですね」


「お前、突然乱入してきやがって。何者だ、名を名乗るくらいしろよ」




「原田、そいつは芦屋の切り札だ! 当主道満の最強の式神で、あの家の最高戦力の一つ!」


 陽介の悲鳴に近い叫び声がこの場に響き渡った。


 こうして思わぬ伏兵の登場により、この場の混乱は加速してゆく。



「これはとんだご無礼を。私としたことが皆様にご挨拶を怠るとは、失礼をいたしました。私、芦屋道満さまの式神にして”芦屋八烈”にて第二席を拝命しております雲雀、と申します。皆様の命ある短い期間ではございますが、どうかお付き合いのほどを」





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