冬の北岳で死にかける short ver
最時
第1話 モルゲンロート
北岳ルート池山吊尾根の中間部標高2600mあたり。
平で風の来ない樹林帯にテントを張った。
4時に起床。
-15度くらいかな。
熟睡は出来ないけど休めた。
お湯を沸かすのにバーナーを点けるとすぐにテント内の気温が上がる。
念のため換気のベンチレーションと窓を少し開ける。
フリーズドライカレーと豚汁にお湯を入れて、とりあえず温まる。
少しテント内を片付けて身支度をする。
全身のダウンを脱いで、グローブを厚手のウールと革のアルパイングルーブにする。
ピッケルを握ると意外と手が冷える。
この装備なら長時間悪天候にさらされなければ凍傷から指は守れる。
すでに登り始めている人の足音が聞こえた。
5時少し過ぎたところで隣のテント内で動いているミユに声を掛ける。
「おはよう。
もう少し待って」
電波のよく届くところで天気予報を確認する。
やはり午後から悪くなる予報。
遅れてくれれば良いのだが、早まったら無理だなと。
「お待たせ」
5時半。
時間通りと言えばそうなのだが、少しでも早く出れれば良かったなと
尾根上まで身体を慣らしながらゆっくり登っていく。
一時間くらいで尾根を上がると少し風があった。
尾根に上がると傾斜は緩くなるが、ミウは遅れていく。
昨日の疲れが残っているか。
少し歩くと空は赤くなり富士山を浮かび上がらせる。
良い天気。
この時期ならではの澄んだ空気。
富士山にはレンズ雲が付いている。
強風の時に出るやつで天気の変わり目だ。
この場合やはり悪くなるんだなと。
ミユとの差がだいぶ開いてしまったので一休み、だがこのくらいのペースで歩かないと登頂は無理だろう。
少し出発が遅かったかと。
「ごめん。
私調子悪いかも」
「しょうがない。
行けるとこまで行きましょう」
ミユは厳しそうだ。
僕一人ならなんとか行けるかな。
そして日が出て北岳を赤く染める。
美しい朝焼けモルゲンロートだ。
この景色を見れただけでもここまで来た価値はあったと思った。
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