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 「……シュンさん?」

 無言の間の後、健少年がごく小さな声でシュンを呼んだ。

 もう健少年は眠ってしまったと思い込んでいたシュンは、びっくりして弾かれるように右手を引っ込めた。

 「どうしたんですか? もしかして、他人が部屋にいると、眠れないタイプですか?」

 まさか、そんなわけがない。これまでずっと、ヒモとして他人のベッドで眠り続けていた身だ。今更そんな繊細なことを言えるはずがない。

 シュンは答えあぐね、暗闇の中でじっと息を潜めた。

 すると、黙ったシュンの気配をしばらく無言で探っていたらしい健少年が、不意に言った。

 「俺なら、生きてますよ。」

 それはあまりに唐突に発せられた言葉だった。シュンはぎょっとして、もしや健は、美沙子からシュンの妹たちの話を聞いているのかも知れない、と思った。しかしその直後、自分が美沙子に妹たちの話などしていないことを思い出す。

 だったら、なんで、急に。

 驚きすぎて固まるシュンに、健は笑いを一つよこした。

 「なんとなく、ですけど、シュンさんは、大事な人をなくしたみたいな匂いがします。」

 大事な人?  

 あの、ただ冷たい肉の塊と化してしまった妹たちが? 

 違う。彼女たちは、誰かの大事な人になる前に死んだのだ。だからシュンは、彼女たちのために泣いたことがない。

 死が、早すぎた。とても。

 ベッドの下で、健少年がごそごそと体を動かす物音がして、その後、ぎしりとベッドがきしんだ。

 固まったままのシュンの頬に、暖かなものが触れる。

 「大丈夫ですよ。俺は生きてるし、シュンさんも生きてますから。だから、大丈夫。」

 シュンの頬を手のひらでくるみ、健少年はそんな事を言った。

 彼の手のひらは薄くて大きい。多分、これからうんと背が伸びるのだろう。シュンは、この状況に全く関係のないことを考えながら、目を伏せた。

 「俺じゃ、姉ちゃんの代わりにはなれないですけど……。」

 健少年はもう片方の手で、シュンの右手を握った。そっちの手も、当たり前のように暖かかった。

 シュンさんが眠るまで、このままいます。

 健少年の声は、穏やかに低かった。それは、そのまま眠りを誘うくらいに。

 美沙子の代わり。

 いつも、俺は美沙子の横で、半分眠れないまま夜を越している。

 その事実を少年には伝えられず、シュンはじっと目を閉じた。

 


 

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