第9話 治安の悪いドライヤー

 どれだけ振り回してもなかなか乾かない縦ロール。それもそうか、ドライヤーの類も無いし、香峯子の髪の毛は伸縮自在の縦ロールである。毛量もかなり多く、ドライヤーを使っても乾くまでに時間がかかる。


 そしてそれは唐突な出来事だった。


 空気を切り裂きながら縦ロールを振り回していた香峯子、森林が揺れたかと思うと、瞬時に灼熱の衝撃波が駆け抜ける。


 香峯子は縦ロールを身体に巻き付け、防御体勢をとる。


 別にこの程度なら、防御する必要はないのだが、せっかくの温かい空気である、髪の毛を乾かさないという手はない。


「治安の悪さも役に立ちますのね」


 綺麗に乾いた縦ロールを手で確認した香峯子、満足そうに息を吐く。


 しかし香峯子は無事であっても、周りの森林は殆どが溶け消え、あんなに綺麗だった泉の水も全て蒸発していた。


「……過ごす場所が無くなりましたわね」


 この場所で助けが来るのを待とうかと思っていたがこの惨状、早々に別の場所へと移動しなければならなくなった。


 どのような方法で助けに来るのか、香峯子には分からないため、できるだけ動きたくなかったのだが致し方ない。


「この治安ですと、仮に留まれそうな場所を見つけても期待できそうにないですわね」


 呆れるほど治安の悪い世界に来たもんだと、香峯子は元の世界へ思いを馳せる。


 今すぐにでも帰りたい、そして彼にただいまと言いたい。優しい彼のことだ、香峯子が死んでしまったことに悲しんでいるだろう。


「とりあえず安全そうな場所を探しましょうか」


 そう言って香峯子は、縦ロールで地面を蹴り、猛スピードで移動を始めるのだった。

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