落ちこぼれのダンジョンマスターが現代地球に転生してダンジョンを創造したら何か騒ぎになってるけど俺のせい?【体験版】

猫月九日

第1話 世界を変えてやる!

 何の脈絡もないけど、転生した。

 物語なんかだと、中世ヨーロッパを魔法がある世界に転生したりするんだけど、僕の場合は逆で、現代日本に転生した。

 元々の僕は、魔王様の部下の魔族として、異世界……ここで言うとファンタジーの世界で、人間を倒すためのダンジョンを作る役目をしていた。


 しかし、僕の作ったダンジョンは、非常に評判が悪く、最終的には勇者を通した罰として僕は処刑されてしまった。

 まぁ、責任者の僕だけの首で助かって、後輩を助けられたのは良かったかな。

 処刑の間際、最後に願ったことは、もう一度ダンジョンを作りたいということだった。


 そう、僕はダンジョンが好きだった。


 ダンジョンを作ることが、それを攻略する人間を見ることが、僕の生きがいだった。

 まぁ、それで攻略難易度を絶妙にしすぎて、結果、勇者が攻略してしまったのが、僕の失敗だったんだけどね。


 ともかく、僕は異世界で死に、この世界に転生した。

 僕が生まれたのは、地球という星の、日本という国に住む、平凡な家庭の子供だった。

 最初は、僕が元魔族なんて知られたらどうしようなんて思っていたけど、そもそも、魔族も魔法すら存在しないこの世界では杞憂だった。

 この世界では、魔法は存在せず、科学と呼ばれるものが発達している。

 コンピューター? インターネット? なにそれ? 便利すぎない?

 魔法……いらなくね?


 この日本という国は、世界でも有数の平和な国だ。

 普通に暮らしていく分にはなんの不満もない。

 そう、普通に暮らしていく分には……


「この世界にはダンジョンがない!?」


 物心ついた時、世界のことを調べて僕は愕然とした。

 僕の大好きだったダンジョンが…‥ない。

 えっ? ダンジョンからの物資がなくて、君たち、どうやって暮らしてるの?

 全部自給自足? それって、大変じゃない?

 魔素から色々と変換したほうが、色々と作れるし、便利じゃない?


 あ、そうそう、この世界、魔法はないんだけど、それを使用するための魔素は存在するんだよね。

 しかも、誰も魔法を使っていないから、魔素は使い放題! やったね!


 ちなみに、僕は魔法を使える!

 前世でも使っていた、ダンジョンを作成する魔法が使いたい放題だ!

 魔法レベルこそ下がってしまったけど、それでも使える!

 僕の大好きだったダンジョン……この世界にダンジョンを作ってやるぞ!


-----

 この世界に転生して、16年が経った。

 僕は高校生として、普通に学校に通っている。


「ねぇ、お兄ちゃん、宿題手伝って!」


「しょうがないなぁ、答えは教えないからな」


 前世の知識もあるからか、勉強は得意だ。

 前世ではろくに勉強なんてしなかったから、今世では学ぶことが楽しくてたまらない。

 こうして双子の妹に教えることすらも僕にとっては楽しい時間だ。


 妹の宿題を教えつつ、自分の作業も進めていく。

 パソコンを操り、最終調整だ。


「お兄ちゃん、宿題終わったよ」


「おう、ちょっと待っててくれ」


 一旦作業を中断して、妹の宿題を確認する。

 その間、暇になったのか妹は僕のパソコンの画面を覗き込んでいる。


「お兄ちゃん、今日もまたダンジョン作ってるの?」


 パソコンの画面には、ダンジョンの設計図が表示されている。


「うん、次のイベントのための企画にね」


「そっか! 楽しみにしてるね!」


 イベントというのは、僕が作ったゲームのイベントのことだ。

 勉強がてら、ゲームを作っていたら、いつの間にかそのゲームが話題になって、一財産を築いてしまった。

 画面に表示されているのは、次回のイベントで使う予定のダンジョンの設計図……ということになっている。


「お兄ちゃん、今日はもう寝るから、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 妹が部屋を出て言って、僕は再びパソコンに向かう。

 そして、今度は魔力を込めて、パソコンを操作する。

 10年のも及ぶ研究の末、僕のダンジョン作成魔法とコンピュータープログラムを連動させることに成功した。


 先程は、ゲームのダンジョンの設計図と言ったが、あれは嘘。

 実際には、今度テストする予定のリアルダンジョンの設計図だ。

 そう、僕はこの世界でダンジョンを構築することに成功したのだ。


 スマホアプリと連動し、とある位置に行くとそこからダンジョンに入ることができる。

 ダンジョンの内部はランダムで生成され、モンスターやアイテムもランダムで配置されている。

 いわゆるローグライクという形だ。

 一番最終にあるボスを倒すと、ダンジョンはクリアとなって報酬がもらえる。

 ちなみに、ダンジョンの中ではHP制になっていて、HPが0になるとダンジョンから強制退出となる。

 死ぬことはないという安心設計だ。


 うん? これだと普通のゲームと何が違うのかなって?

 ふふ、確かに、これはゲームっぽいけど、ちゃんとリアルに還元できるシステムになっているんだよ!

 ダンジョンに入るプレイヤーは、ダンジョン内で敵を倒したり、アイテムを入手したりして、ダンジョンポイント、DPを獲得する。

 そのDPを使って、自身のリアルのステータスを上げることができるのだ!

 つまり、ダンジョンを攻略すればするほど、運動能力や頭の良さが上がっていく!

 なんと素晴らしいシステムだろう!


 ちなみに、このDPはお金にも換算することができる。

 このお金は不正なお金でもなんでもなくて、単純に僕がゲーム開発で稼いだお金だから何の問題もない。

 もっとも、すぐにお金が尽きちゃうから最初の換金レートは大分控えめにするつもりだけどね。


 ともかく、このDPを使って、リアルのステータスやお金、または次のダンジョン攻略に役立つアイテムを買うことができる。

 どう? やりたくなったかな?


 システムはできた、あとはテストをして、問題がなければ運用開始だ。

 そして、テストまではもう少しだ!

 ダンジョンに入るプレイヤーたちの楽しむ顔が目に浮かぶ!


-----

 そして、ついにテストの日がやってきた。

 今回テストプレイヤーとして選んだのは、僕のゲームをプレイしている人たちから募集し厳選した4名の男女だ。

 4名の男女には、オフ会と称して、僕がダンジョンを設置した場所に集合してもう。

 今回は、東京スカイツリーにした。

 渋谷のスクランブル交差点と迷ったんだけど、人が多すぎると入り口に入れない可能性があるから諦めた。

 アプリを起動して、ダンジョンに入場申請し、スカイツリーの入り口から入ることでダンジョンの中に入ることができる。


 ちなみに、僕はそこには参加せず、遠目から彼らの様子を窺うことにした。

 16歳の若造が開発者なんて信用されないだろうしね。


 彼らに指示をして、アプリをインストール。彼らには位置連動型のゲームだと伝えてある。

 途中、入り口がどれだったか迷子になるというトラブルはあったものの、無事に全員ダンジョンの中に入ることを確認できた。


 さぁ、ここからはダンジョンの神視点で見ていくことにしよう。

 あ、ちなみに、4人は一人ずつダンジョンを攻略してもらうことになっている。

 パーティでもいいんだけど、いろんなパターンが見たいからね。

 出てくるモンスターやアイテムの種類は同じだけど、どこで何が出てくるかはランダムだよ。


『これは!?』


 ダンジョンに入った瞬間、彼らは驚き、呆然とし、周りを見回している。

 まぁ、そうなるよね。

 スカイツリーに入ったと思ったら、急にダンジョンの中だもん。


『おい、なんだこれは!? 俺をどうするつもりだ!』


 男の人が叫んでいる。おっと、落ち着かせないと。


「落ち着いてください。これはあくまでもゲームです。皆さんの身の安全は保証します」


 騒ぐ4人に対して、僕はルールを説明する。

 当初は落ち着かない様子の4人だったが、ルールを説明していくうちに、落ち着いてきた。


「というわけで、新技術を利用したゲームとなっています」


 新技術、まぁ、嘘はついてない。魔法っていう要素はこの世界では新技術だからね。


『なるほど? つまり、自分で画面越しにダンジョンを攻略するんじゃなくて、この身で攻略するってことか!』


『そんなことができるなんて凄い!』


『怖い……けど、頑張る!』


『モンスターもいるんですよね!』


 4人は各々の感想を言っている。

 ちなみに、彼らの声は僕には届いているけど、お互いには届いていない状態だ。


『本当に無理でしたら、リタイアも可能です。ただし、リタイアした場合は、クリア報酬はもらえませんのでご注意ください』


 さて、皆の準備は整ったかな?


『それでは! ダンジョン攻略の開始です! 頑張ってください!』



 さてさて、まず動き出したのは、さっき一番最初に叫んでいた男の人だ。

 仮にAさんとでも呼んでおこうかな。

 Aさんは……おっと、早速モンスターに接敵した!


『スライムか!』


 スライムに接敵したAさんは、すぐに木の剣を構えた。

 今回は、初期アイテムとして、木の剣とポーションを配布してある。

 構え的に、流石に剣の心得はないかな?


『でりゃあああ!』


 それでも、Aさんは勢いにまかせて、スライムに剣を振り下ろした。

 スライムは、剣によってダメージを受け、そのまま消え去った。


『よし!』


 Aさんは、スライムを倒したことに満足気に歩みを進めた。


 もう一人の男性、Bさんもスライムに接敵した。

 おっと? 腰が引けているぞ?

 って、あっ!? 逃げた!?

 相手は最弱モンスターだよ!?

 Bさんは結局、スライムに追い詰められて、震える手でスライムと戦いなんとか勝利した。

 その後もビクビクとしながら進んでいく。


 次は、女性の一人Cさんだ。

 Cさんはもスライムに接敵、さぁ、どうする……って何をしてる……スマホを取り出した?


『やばばっ!』


 スマホを取り出したCさんは、スライムに背を向け……まさかの自撮り!?

 随分余裕だな!

 って、その間にスライムがCさんに体当たりだ!


『ひゃっ!』


 最弱モンスターだし大したダメージはないけど、驚いたようで悲鳴を上げた。

 すぐさま、振り返って木の剣を振り下ろした。


 自撮りはどうかと思ったけど、無事に倒せたね。

 おっ? スライムがアイテムを落とした。

 アイテムは宝箱に入っている、ちなみに今回の中身はコイン。

 こいつは、ダンジョンを出た時にDPに換算される。

 っと、またスマホを取り出して、宝箱とパシャリだ!

 楽しそうにしてるなぁ。


 さて、最後の女性、Dさんもスライムと接敵……あれ? なんか様子がおかしい?

 武器も出さずに、スライムに近づき……あっ!? スライムを抱きしめた!?

 スライムは、腕の中でジタバタしている。

 ちなみに、それは攻撃判定になっていて、Dさんにダメージを与えている。

 Dさんもそれに気がついたのか、名残惜しそうにスライムを離し、木の剣で倒した。

 一体、何がしたかったんだろう?


 と、まぁ、紆余曲折あったけど、4人とも無事にスライムを倒した。

 その後も、アイテムを拾ったり、モンスターと戦ったりして、ダンジョンを進んでいく。

 やがて、4人はダンジョンの最奥にあるボスの部屋に到達した。

 今回用意したボスは、ビッグスライム。

 通常のスライムよりも大きく、攻撃力も普通のスライムよりは強い。

 とはいえ、ここに来る間に、4人はレベルも上がっているし、アイテムも潤沢だから、そこまで苦戦することはないだろう。

 ほどなく、4人共ビッグスライムを倒した。

 テストとは言え、簡単すぎたかな? このあたりは課題にしておこう。


 さて、最後はお待ちかねの、ボス討伐報酬!。

 次に使える装備アイテムや、ステータスアップアイテム、お金など何が出るかはランダムだ。

 とはいえ、今回はテストだから、報酬の種類は限られている。

 それでも、彼らはワクワクしながら、宝箱を開けていく。


 おっ! Dさんが、レア報酬のDP5倍を当てた!

 ダンジョンの運用が開始されたら、今回のテストで使用したDPはそのまま引き継がれるからこれは大きなスタートダッシュになるぞ!

 ちなみに、テストで引き継がれるのはDPだけの予定。

 それ以外に入手したアイテムは自動的にDPに換算される。


 さて、4人とも報酬を確認したところで、ダンジョンからの脱出だ。

 おっと、その前に感想を聞かないとな。


『モンスターと戦うのが楽しかった! もう一回やりたいぞ!』


『こんな凄い体験できるなんて凄いわ! 開始されたら絶対やるわ!』


『モンスターと戦うのは怖かったけど……でもアイテム拾ったり、冒険したりするのは楽しかった!』


『もっといろんなモンスターが見たいです!』


 ざっくりと感想をまとめるとこんな感じ。

 うむ、概ね好評と言ったところかな?

 全員が全員、開始されたら間違いなくやると言ってくれた。


 さて、テストはこれで終了だ。

 今回のテストを元に気合を入れて、最終調整をしないとね!


-----

 そんな感じで、気合を入れて、最終調整に挑んだんだけど……


「ねぇ、お兄ちゃん! ダンジョンだって! ダンジョン!」


 妹が僕の部屋に入ってくるなり、叫んできた。


「ダンジョン?」


 なにかのゲームの話か? そう思ったのだが、妹は僕にスマホの画面を押し付けた。


「リアルな体験ができるダンジョンゲームだって!」


 妹の画面にはとある動画が表示されている。

 それは、スライムと戦うシーンや、宝箱を開けるシーンといった、迷宮を冒険する映像だった。

 リアル過ぎて、ゲームとは思えない。


「ねっ! 凄いよね! 新技術によって開発されているんだって!」


 妹は無邪気にそんなことを言っているけど、僕はそれどころじゃない。

 ……これ、僕のダンジョンじゃ?

 動画投稿サイトに投稿された、その映像はすでに投稿から1日も経っていないのにすでに100万再生回数を超えている。

 そのコメントも、


『リアルでダンジョンが体感できるゲーム!?』

『こんなのを待ってた!』

『これゲーム画面じゃなくてリアルって、ま!?』

『地球始まったな!』


 なんてコメントが打たれている。


「ほらっ! なんかネットニュースにも取り上げられてるよ!」


 妹は、スマホを操作して、ニュースサイトを開いた。

 そこには、参加した人間へのインタビューが載っていた。

 集合して、ダンジョンに入ったこと、冒険について、その報酬について。

 さらに、DPが現実の色々なアイテムに換算できる予定なことが書いてあった。


「ゲームでの出来事が現実に反映されるのって凄くない!」


 内容からして、間違いなく僕のダンジョンシステムだ。

 つまり、あの動画はテストに参加した人の物だろう。

 そういえば、テストの内容は口外しないようにと口頭で言っただけで、特に契約はしていなかった。

 そういえば、Bさんが自撮りしてたっけ……そこで止めなかった僕の完全なミスだ……


「本当にそんなことができるんだったら、世界が変わるよね! 大騒ぎになってるよ!」


 妹は無邪気に笑っている。

 確かに、自分のSNSを見てみても、大騒ぎになっている。


 これは僕のミス……でも、同時にチャンスだ!


「あ、お兄ちゃんも楽しみ? 本当にやるなら一緒にダンジョン行こうね!」


「ああ……楽しみにしておけよ」


 僕は笑っていた。

 これほどまでに僕のダンジョンは望まれている。

 だったら、それに応えないわけにはいかないよね!


 地球にダンジョンを! そして、世界を変えてやるぞ!



 そうして、僕のダンジョンはこの世界にダンジョンというシステムを導入していく。

 それが、どんな世界、僕にどんな影響を与えていくか、


「先輩……今、会いに行きますからね……」


 さらに、元の世界にまで影響が……?

 それは、まだ誰にもわからない。



------

この作品は長編にする予定の体験版的な扱いになっています。

どんな評価であろうと、自分の中で長編化は確定しているのですが、ハート、星などつけていただけると励みになります。

その分、長編版が早まるかも?

是非ともよろしくお願いいたします。

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