閑話① TRPGとマーダーミステリーの違いと駄シナリオ

 私はTRPGを10年くらい遊んできた人間だ。いろんなシステムで遊んだ。クトゥルフ神話TRPGをはじめ、12のシステムでGMをやったことがあるし、そのうち7システムは自作シナリオも作ったことがある。

 始まりがニコニコ動画の有名なリプレイ動画で、周りもそうだった。だからGMをやろうにも、公式やネットで拾ってきたシナリオは誰かがリプレイ動画を見ており、遊べないということが多発した。故に、シナリオは自分で作るものだという認識がある。

 私がマーダーミステリーに足を突っ込んだのも、TRPGをやっていた集まりでやることになったからだ。当初私はそのメンバーではなかったのだが、友人Aが前日に辞退したため、お鉢が回ってきた。

 初回募集でやりたいと手を挙げたものでもなかったので乗り気ではなかったのだが、調べたところどうやらTRPGと違ってきちんと取り組まないとゲームが崩壊する恐れがあるとわかったので、配布されたハンドアウトを隅々まで読み尽くした。

 その会は無事何事もなくおわり、私はマーダーミステリーというコンテンツは面白いと感じた。TRPGと違って、明確にPvPゲーム(対人ゲーム)であることが、一番うれしかった。TRPGにもPvPのできるシステムはあるが、システムで規定された戦闘によって雌雄を決するものがほとんどだ。その点、マーダーミステリーは話し合いという、プレイヤーの自由で柔軟な発想による実力が反映される、上質な殴り合いの場であると感じた。


 このマーダーミステリーの初回プレイが終わった瞬間に、私はマーダーミステリーのシナリオを書き始めていた。初プレイした作品が基本に忠実かつ様々な要素を含んでいたので、どんなゲームであるかはすぐに理解できた。

 尚且つ、TRPGで似たようなシステムをつかってシナリオを作ったことがあるのも大きかった。シノビガミやインセインはPvPかつ初期ハンドアウトや追加の情報によって誰が味方か、問題をどう解決するかの糸口を見つける、というのが基本設計だ。

 マーダーミステリーのほうがもっとゲーム的である以上しっかりと作りこまなければならないが、そこは腕の見せ所であると意気込んだ。ボードゲームを作っていたこともあるので、感覚的にはTRPGとボードゲームの間の子をつくっているような気分だ。

 

 そうこうしてでき上がった『夜行列車に銃は踊る』だが、テストプレイ初回はまあひどいもので、根本のルールから変更した点がいくつかあった。協力いただいた方々には感謝の念が堪えない。

 このシナリオが作り終わった段階で、いろんなシナリオを遊ぶに至った。有名どころの公募に参加したり、続きものを身内でやったり。一番意識したのは、テストプレイを探して積極的に参加したことだ。自身のシナリオ作成のときもそうだったが、いろいろ考えて作ったシナリオでも、いざ実践してみると全然違うモノになっていたりする。文章が想定外の捉えられ方をしたり、思わぬ方向から犯人が多数になってしまったり。こうした想定外は無いように、というのが本章の主張であったが、自分ひとりでそれを確認するのは限度がある。テストプレイはやりすぎかな、と思えるくらいにやったほうがいい。




 マーダーミステリーを遊ぶようになって思ったことがある。駄目なシナリオ、駄シナリオが多いなあ、ということだ。

 駄目な理由は多岐にわたる。ルールが整備されていない、世界設定に不明点がある、キャラクターが知っていていい情報を知らされない、明らかに不毛な議論時間が存在する、推理のための情報に穴がある……等々。

 最近、私がマーダーミステリーを始めるきっかけとなった卓抜けの友人Aが、マーダーミステリーを遊び始めた。3,4つ公募で遊んだようだが、彼の感想は「これならTRPGで良い」だった。

 私は彼の遊んだシナリオのラインナップを聞いた。どれも遊んだことが無い(そもそも私はここ半年以上マーダーミステリーをプレイヤーとして遊んでいない)シナリオだったのだが、概要文を読んでこれはマズいシナリオだぁ、と思えるものばかりだった。そんな危機意識が働くくらいには、私の中で駄シナリオの傾向というものを見出せていたので、言語化したい。

 

 まず、基本的な構成でないマーダーミステリーは多くが駄シナリオである。犯人捜しでなさそうなシナリオ、犯人ではないと確定しているキャラクター(いわゆる”確白”)がいるシナリオ、ペアマダミス。

 これらのゲームは、まず作成が難しい。この天才作家である私ですら、手を出していない。バランス調整も難しければ、それを楽しませるように作るのはもっと難しい。

 バランス調整が難しいというのはそこまで重大な問題ではないものの、このようなシステムを導入するような輩は、大抵この問題についてあまり深く考えていない。結果、駄シナリオと呼べてしまうものが出来上がる。

 楽しませる、というミッションを背負えば、もはや凡人が手を出していい領域ではない。もちろんやっていて楽しくないキャラクターばかりではないだろうが、ハズレを引いた時のリスクがあまりに大きすぎる。ルール上でキャラクターごとに重み付けを異にするということは、軽んじられるキャラクターが必ず生まれるということだ。ルールというかなり上位のゲーム設定に対して、キャラクター設定だけで対抗できるかと言われれば、これは大変なことである。


 そして、プレイ時間がやたら長いもの、壮大な物語性を示唆している紹介文、独自世界設定のファンタジーもの、ホラーシナリオ、ロールプレイを重視していますという文言。このような、いわゆる「物語重視」「ロールプレイ重視」なシナリオも危ない。

 前書きの章で語った通り、マーダーミステリーは物語を駆動するのに向いていない。もちろん工夫次第でどうにでもできる弱点であるとは思うが、マーダーミステリーというフォーマットで、自分が思う最高の物語を紡ごう! と意気込むような作家はそこまで考えていない。これまで私が論じてきたような基礎の基礎すら何も考察しておらず、適当なルールをつぎはぎしている駄シナリオが多すぎる。そんなことでは、まともなゲームになろうはずがない。

 そもそも通常マーダーミステリーでは、そのキャラクターの気持ちになって議論中ロールプレイをしながら話し合うのだから、ロールプレイ重視とは一体これ以上どうしろというのだ、という突っ込み待ちレベルの駄文だ。作家の思考が慣例主義に徹してしまい、その場で停止して前に進んでいない証左である。


 シナリオ制作においての私の感想は、TRPGは「ゲーム要素のある物語」。マーダーミステリーは「物語がおまけに載っているゲーム」だ。

 どちらが難しいか、というのは人それぞれだろうが、私にとってはTRPGのほうが生みの苦しみが大きい。要するに一番考えなければならない要素の比重が違うのだ。TRPGなら入り込む物語がどう面白くなるかを頑張って考えなければならないし、マーダーミステリーなら投票ゲームとしてどう面白くするかを考えなければならない。

 ゲームは他の物を真似しても、面白さは損なわれない。しかし物語は、既知の物語をただ焼き直しても面白くはならない。何かしらの工夫がそこになければ、体験して面白い物語になることはない。これがTRPGシナリオの難しさだ。TRPGにおいてゲーム部分はルールブックが全て担保してくれるため、作家は考えずに済む。プレイヤーの行動もかなり自由度が大きく、そもそもルールで全てを統制するのは困難だからこそ、GMの裁量はルールブックを超えて大きなものになっている。だからこそ、自由で躍動的な物語体験となりうる。


 これをはき違えている作家が多いのだ。体験としての物語性を高めるのであれば、マーダーミステリーなどという不自由なフォーマットに頼るべきではない。

 マーダーミステリーとTRPGは似通ったゲーム性を持つ。マーダーミステリーをやっている人間でTRPGをやってみて、TRPGのほうがおもしろくてマーダーミステリーをその後やらなくなってしまった、という方に出会うことがある。友人Aも、そんなことでマーダーミステリーを遊ばなくなってしまった。 

 気持ちはわかる。ゲームとして成立していないマーダーミステリーが、あまりに多すぎる。そんな成立していないゲーム盤面上で、他人とギスギス話し合うのは精神の健康に悪影響だ。

 責任の一旦はプレイヤー側にもある。シナリオ作者への敬意が過剰で、ネタバレを避けようとしすぎる文化から、シナリオ批判が大変しづらい空気が、このマーダーミステリー界隈には流れている。

 既成シナリオが数十程度ならいざ知らず、毎週毎日のペースで新作が発表されているような現状、あふれかえるシナリオが厳選されていないというのは新規プレイヤーやライト層にとっては駄シナリオにあたってマーダーミステリーから離れる大きな要因になる。

 これだけ多くのシナリオがあれば、批判を行って遊ばれなくなるシナリオが出てくるという問題以前に、大半のシナリオはあまり遊ばれずにBoothやUZUのシナリオ欄の中で埋もれていく運命だ。であるなら、もっとシナリオへの評価を真摯に行っていいのではないだろうか。

 ネタバレを恐れて「おもしろかった」「遊んだ」くらいしかネットに書き込めないこの状況が果たして健全なのだろうか。私も一時期は、面白かったシナリオには「面白かった」、つまらなかったシナリオには「遊んだ」しか書かなかったことがあるが、今考えると愚かにも程がある。プレイヤー目線でもシナリオに対する批判的な思考を持たなければ、作家としてそれを持っている意味がないではないか。

 無料で頒布されているものなら作家への敬意から批判的コメントを控えるのはわかるが、今多くのシナリオは有料で、とても安い値段とは言えないものばかりだ。金を払っている以上、「買ってよかった」「買って損した」の両方の意見は当然来るものとして考えるべきだろう。そして、どう面白くなかったのか、というのもネタバレにならない程度に記述できるくらいの筆力が、プレイヤーの人々にもほしいものだ。


 私の作ったシナリオには全て、下記の文言が入っている。


 「本シナリオについてネガティブな発言を行う際は、必ずシナリオタイトルを明言したうえで行ってください。その場合、シナリオ内容のネタバレになりうる情報を記載することを容認します。」


 私は自分のシナリオの一個や二個、ネタバレ批判がバズって誰もかれもが遊べないものになっても良いから、シナリオに対する批判が肯定される土壌を作りたかった。        

 私のシナリオは0円という高額な料金をとっており、ゲームの拘束時間も1〜2.5時間と非常に長い。そりゃあ、現存する多くの、2000円だの4000円だの取って、4時間も拘束されるシナリオとは、一線を画すようなクオリティのシナリオにしないと非難囂々というものだ。

 

 SNSで強い口調を使ってヒール役に徹しているのも、シナリオ批判へのハードルを下げるためだ。そう、これは計算ずくの言動だったのだ。決して性格が悪いわけではないのだ!

 残念ながらその目標が達成されることはなかった。であるなら、天才作家もくはずし大先生無き今後について、せめて質の良い作品が少しでも増えるようにと祈りを込めてこの文章を書いている。私は性格が善いので。

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