あらすじとキャラクター

あらすじとキャラクター① 世界設定

 あらすじを作る。あらすじは、全体のおはなしの要約みたいなものである。

 あらすじに必要なのは以下の要素。

 

① 世界設定

② 局所的な舞台設定

③ 事件の見た目

④ キャラクター


 ①から順に説明していく。


 世界設定とは、そのシナリオをとりまく世界がどんなものかである。初めてシナリオを作る場合、現実世界と同じが最も好ましい。他にもハイファンタジー、ローファンタジー、SF、時代物等があり、おおまかにどんな世界でやりたいかを考える。


 世界設定でなぜ今我々がいる現実世界と同じものがよいかといえば、常識の共有がなされているからだ。

 マーダーミステリーにおいては、プレイヤーは事前に作製されているキャラクターを演じることになるので、当然その世界に生きているキャラクターが知っていることを知っていなければならない。

 もちろん、その世界の常識すべてをキャラクターとプレイヤーが共有する必要はないが、最低限ゲームに必要な情報は共有する必要がある。ここで問題なのが、どこからどこまでが共有する必要のある情報か、ということを全く考えられていない既成シナリオが多すぎるということだ。すでに何本もシナリオを作っているような先達が、そんな体たらくなのだから、いまからつくろうという人間が間違ってもハイファンタジーなどに手を出すべきではない。


 

 マーダーミステリーにおいて、必要な常識とは何なのだろうか。これはシナリオによっても大きくかわる。残念ながら、拙作には純粋にバックボーンが存在しないフィクション世界設定のシナリオは存在しない(すでにTRPGとして成立している世界設定を借りたものはあるが、それはあらかじめプレイヤーに常識が共有されているとみなされる)ので、例示に使用できない。


 例として以下のような導入のシナリオを考える。 

 『真夜中の城内で、悲鳴が上がった。騎士、魔法使い、聖職者が駆け付けると、そこには腹部から血を流したシーフが倒れていた。彼ほどの実力者を殺せるのはこの中の誰かに違いない。3人は誰が犯人であるかを話し合い始めた。』


 こんな短い文の中でも、我々からすると解釈がわかれそうな語彙や、事件に対する推理に必要だけれどどうなっているかわからない概念がたくさんある。

 

〇 城内の光源は? 

 真夜中であるからして何かしらの光源をもとにキャラクターは動いていると考えられるが、目視による情報がどれだけ信用できるレベルの光源なのか。そしてそれはどこに存在しているのか。


〇 騎士、魔法使い、シーフは何ができるのか?

 ファンタジー世界は人間のできることに制限ができない。ルールの項で後述するが、これはマーダーミステリー上もっとも設定の難しいルールである「議論中、嘘をつくことが可能かどうか」というところにかかわってくる。

 

 騎士はどれだけの身体能力があるのだろうか。魔法に対抗できるレベルの剣術は我々からすればもはやそれも魔法である。到底届かない距離の人間を斬る、目視できない速さの剣さばき、歪曲する切っ先。これらのことが想定できれば、どのようなアリバイがあろうと反抗が可能である。

 魔法使いの魔法は我々に定義できるのだろうか。この世界に無いルールで働く力を、プレイヤーが完璧に理解できる形にできるだろうか。魔法が出てくる世界設定など、どんな形の殺人もおてのもの、というような創作ばかりである。どうやってその可能性をプレイヤーは否定すればいいのだろうか。

 聖職者が信仰する宗教とは。その力が存在すると(少なくともその世界内では)されているから、実力のあるものと記述しているのだろう。ならば、魔法と神の力は何が違うのか。そして魔法使いの項と同様、不可能を定義することは可能か。

 シーフとは何か。その世界観によってシーフの立ち位置やできることはまちまちである。よくいるシーフは潜伏や偽装が得意であるが、彼がいる場合の目撃証言や状況証拠の情報はどれだけ信用を勝ち取れるのだろうか。


〇 彼を殺せるほどの実力者とは?

 殺害について”実力”というものが必要な場合、それはどのような原理なのか。さらに、それを実現する原理があってなぜ攻撃した人間を知る術が、彼らに存在しないのだろうか。


〇 犯人が誰かを話し合う。そのあとは?

 犯人が誰かを決めるのが、マーダーミステリーにおける投票の第一意義である。現実世界であれば基本的には犯人として投票多数になったものは警察につかまり、法の裁きを受けることになる、というのがキャラクターの思考として想定される。

 この思考はたとえその通りの結末にならなくとも、犯人として指名されたキャラクターがどのような裁きをうけるか、が認識されていないと犯人捜しへの動機付けが全然変わってきてしまう。

 上記を読んで「そんなことはない」と考えるものは法律や紛争解決の歴史を勉強すべきである。無知なものが空想の物語を書くな。

 その世界の中で殺人を起こした人間を身内で処刑してしまうのか、公的な機関があってそこに任せるのか。殺人という罪はどの程度の重さに捉えられていて、罰則はどの程度なのか。犯人の身分や職業などでそれが変わるのか。被害者の関係者から報復を受ける可能性があるのか、その報復の度合いがどの程度予想されるのか。

 このような常識無しに、殺人について議論することはできない。状況によっては犯人捜しなどどうでもよく、やるべきことが別にある、という世界観は現実世界にも存在するし、した。


 導入の文章だけでも、非常に面倒くさい4つの情報をつくりこみ、プレイヤーに共有しなければならない。ハンドアウトや殺人についての情報を作りこんでいくと、さらに増えていくだろう。共有すべき情報が増えすぎると、事前に覚えなければならない事柄が多すぎるゲームになってしまう。

 一度しか遊べないマーダーミステリーというゲームにおいて、これは致命的な欠陥だ。プレイヤーがやりたいのはあなたの作った世界設定資料を読むことではなく、議論や推理である。無為なことに時間を割くべきではない。


 こうした常識の共有について完璧にできる、もしくはすっとばす革命的な方法が思いつく天才諸君は、思い思いの世界設定で作るとよい。しかし、そうでない限りはなるべく現実世界と違わない世界設定でつくるべきだ。

 魔法を入れる、というのであればできることは一つに絞り、それは絶対的であると明示しよう。『目標を目視し5秒念じると、手で動かす程度の力が加えられる』といったようなものだ。条件、コスト、効果を明確に示し、それ以外の事柄は現実世界と同じ、というのであれば、常識共有の作りこみはたいして必要ないだろう。


 以上の点を踏まえて、どのような世界設定でゲームを作るかを決める。

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