第59話 ユティさんとの語らい

「シアについてはよく分かりました。今度はオーロラちゃんについて聞いてもいいですか?」


「はい、構いませんよ。ノヴァさんはオーラの魔法についてどう思っていますか?」


 ユティさんにオーロラちゃんの魔法について聞かれて、俺は考える。実際に彼女の魔法を何度も見たわけじゃないけど、周りからの評価を聞いていると14歳っていう年齢が信じられないくらいには優秀なんだと思う。

 本人はシアと比べて落胆していたけど、シアは別というか、なんというか。


「あくまでもイメージですが、天才ですかね? オーロラちゃんの魔法を見たことはそんなにないんですけど、それでもゲートの魔法は素人目から見てシアのとほとんど変わらなく見えました」


「そうですね。アークゲート家の中でも、オーラはそのように言われることも多いです。もちろん今の状態で彼女と力比べをしたら、オーラに勝てるであろう人物はいます。私もそうですし、分家の者や従妹たちも何人か当てはまるでしょう。

 ですがオーラが成長して私と同じくらいの年齢になったとき、彼女はきっと私を越えます。少なくとも14歳の時の私は、今のオーラのようなことは出来ませんでしたから」


「……なんていうか、ユティさんから聞くとやっぱりオーロラちゃんはそうなんだなって思いますね。シアに聞いても同じような答えが返ってくるんですけど、ちょっと違うというか」


 もちろんシアが嘘を言っていないことは分かっているけど、冷静に状況を分析できて言葉で伝えられる、頭のいいユティさんに説明されるとより納得するというか。いや別にシアの事をそう思ってないわけじゃないけど……ちょっと言葉にするのが難しい。


「ああ……きっと自覚しているかの違いだと思います。私も当主様もオーラを天才だと思っていますが、私は数年でオーラに抜かされると思っている一方で、オーラが当主様を抜かすことはないでしょうから」


「……なるほど」


 つまりは価値観の違いというか、見ている視点の違いってことか。そう考えるとシアって本当に凄いっていうか、こういうふうに考える場合はやっぱり例外として捉えないといけないんだろうなぁ。


「ちなみに、もうすでに防御魔法に関してはオーラの方が私よりも上ですからね」


「オーロラちゃんは防御魔法が得意なんですか?」


「はい、より強固な魔法を思い描けるらしいですよ。これに関しては彼女の先生であるグレイスや当主様も高く評価していますね」


「自分や皆を護れる防御魔法が得意……何というか、オーロラちゃんらしいですね」


あの底抜けの明るさは皆を明るくしてくれる。もちろんオーロラちゃんが抱えているのも重く暗いものだけど、彼女はそれに負けないくらい輝いている子だ。

同じような事を思っているのか、ユティさんも少しだけ口角を上げていた。


「もしも当主様がいなければ、アークゲート家の当主になっていたのはオーラだったでしょうね。あ……ですがそうすると……」


「?」


「……いえ、何でもないです。まだ拙いところもありますが、これから先が楽しみな天才児がオーラってことですね」


「はい、ありがとうございました」


 少しだけ頭を下げて、ふと思う。ここまでシアとオーロラちゃんの話を聞いてきて、比較対象として出してくれたけど、ユティさん自身については聞いたことがなかったなと。


「あの……ユティさんはどうなんですか? 得意な魔法とかあるんですか?


「私ですか?」


 少し驚いた様子のユティさんに頷いた。


「はい、シアやオーロラちゃんについては聞きましたけど、ユティさんについても聞きたいなって」


「……自分の事を自分で話すのは少し恥ずかしいですね」


 少し困ったような雰囲気を出すけど、ユティさんはゆっくりと話し始めてくれた。


「得意というか性格の問題ではあるのですが、魔法を用いて前線で戦うよりも誰かの支援をする方が合っています。お母様の補佐をしていた先生にこっそり色々なことを教えていただきましたし、以前アークゲート家は北のコールレイク帝国との戦争に参加していたのですが、その時も軍を率いるより後方支援の方が良いなと思っていたくらいなので」


「シアの前は、ユティさんが戦場に? それも指揮官だったんですか?」


「いえ、私が任されていたのは本当に小さな部隊です。本隊はお母様が率いていましたから。ただ個人的に誰かを支援するのが性に合っているだけで、戦うことが出来ないわけではないんです。流石に当主様と比べると足元にも及びませんが、こう見えても結構強いんですよ、私」


 確かにユティさんは大人しい雰囲気で、深窓の令嬢といった感じがする。けど彼女もまたアークゲート家の、しかもシアのお姉さんだ。


「はい、そうだろうとは思っていました」


「……こほんっ」


 自分で言っていて少し恥ずかしくなったのか、顔をほんのり赤くしたユティさん。けどその珍しい光景はすぐになくなってしまった。


「……ただまあ、その後ちょっとごたごたがありまして、戦争を当主様が一瞬で終わらせたので戦うようなことはなくなりましたが」


「……そんなに一瞬だったんですか?」


「本当にすぐでしたよ。見ていただけですが、当主様が敵からの攻撃を無視して敵陣の真ん中に一人で歩いていって、それで協定にこぎつけたんですから」


「……なんていうか、凄すぎますね」


 戦場に身を置いたことはないけど、南のナインロッド国との小競り合いの場にいたことはある。あれよりも険悪な戦場でそんな芸当が出来るなんて。


「敵からは化け物だと呼ばれていましたけど、出来ればこんなことを聞いてもノヴァさんには当主様を普通の人間として――心配無用でしたね。ありがとうございます」


「……え?」


「すごい顔してましたよ。本当、あの子に対する悪意には敏感で絶対に許さない、姉としては嬉しい限りですけどね」


「そ、そうでしたか、すみません」


 ちょっと心がざわついたけど、どうやら表情に出ていたみたいだ。気を付けないといけないな。


「少し話は逸れましたが、その後は今のノヴァさんが知っている通りです。私は当主様の補佐をしているという感じですね。当主様の要望で調べ物をしたりが主な仕事です……たまにやりすぎてしまうことがありますが」


「……ははは」


 苦笑いで返すと、ユティさんはじっと目線をこちらへと向けてきた。


「さて、私達の事は色々と話したので、今度はノヴァさんの事も教えて欲しいですね」


「俺の事、ですか? 何でも話しますよ」


 といっても、話せる程の内容はなかったりするんだけど。


「ではお聞きしたかったのですが、覇気を考慮しない場合、ノヴァさんはどれほど強いのですか?」


「……あぁ」


 やっぱり姉妹だなと思って、俺は少しだけ笑ってしまった。


「?」


「すみません、オーロラちゃんにも全く同じ質問をされたので。……うーん、難しいところではあります。父上やフォルス家の指南役の方には敵わないと思いますが、二人の兄上とは互角にやり合えるかもしれません。運が良ければ勝てるかと」


 少し控えめに返事をしたけど、内心ではゼロードの兄上とカイラスの兄上には勝てると信じている。そのくらい剣とは真面目に向き合ってきたつもりだ。

 けどユティさんは別の部分が気になったようだった。


「フォルス家の指南役……確か、ギリアムという方でしたか?」


「よくご存じですね……はい、ギリアム・ストアドさんです。といっても、俺は指導を受けたことはほとんどないんですけどね。出来損ないの俺には教師なんか必要ないって父上に言われてしまって」


「……本当、見る目がないですね」


 不満そうにそう言ってくれるユティさんだけど、あの家は覇気が全て。長年フォルス家に仕えてくれていて、父上すら指導したギリアムさんの時間を俺なんかに割くのは無駄だって考えたのはよく分かることだ。


「そのギリアムさんも覇気を使えるんですか?」


「はい、遠い親戚らしくて、覇気が扱えるそうです。フォルス家や分家以外では珍しい家系だそうで」


「ノヴァさんも私みたいに従妹がいるんですか?」


「はい……といっても会ったことはありませんが……でも兄上達ほど剣の腕は立たないと聞いたことがありますね」


 確かライラックの叔父上には数人の男児がいた筈だ。俺は会ったことがないけど、ゼロードの兄上やカイラスの兄上は会ったことがあるだろう。


「もしも覇気というものが選定の根底になければ、ノヴァさんの評価は高かったでしょうね……」


「そう……かもしれませんね」


「ところで、フォルス家の当主はまだ次期当主を指名していませんよね?」


 ちょっと返答に詰まったのに気づいてくれたのか、ユティさんはすぐに話題を変えてくれた。

 こういったちょっとした心遣いが嬉しかったし、やっぱりシアのお姉さんだなって思った。


「うーん、でもゼロードの兄上で決まりだと思います。ライラックの……いえ、分家の人も支持していますし、父上もそのつもりだと思うので」


 正直、あの乱暴者のゼロードの兄上が当主になって大丈夫かと思わなくもないけど。でもきっと、ゼロードの兄上だって当主になれば流石にしっかりとやるだろう。


「彼が当主になるなら、なってしばらくは苦労しそうですね。彼がではなく、フォルス家が、ですが」


 ユティさんの言葉に苦笑いで返す。きっと大変なのは父上だと思うけど。


 その後、互いの事を話し終えた俺達は他愛ない話をした。ナタさんとの共同での開発のように大事な話もあれば、屋敷でのターニャの笑い話のようにくだらない事まで。

 時間が来るまで、楽しく過ごした。

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