第50話 自分の屋敷へと到着

 夕食後、俺はオーロラちゃんとユティさん、そしてグレイスさんと一緒に屋敷の入り口にいた。少し名残惜しくはあるけど、もう帰る時間だ。


 ポケットから機器を取り出して少し強く握る。体の底から力が湧き上がった。


「……これまで全く使えなかったそれが使えているのを見ると、感慨深いものがありますね」


「ナターシャさんも同じことを言っていましたね」


「作ったときは中々の出来だったので期待していたのですが、結局使えなくて残念に思っていたところでした。でもノヴァさんだけでも使えるようで良かったです」


「あ、ユティさんも関わっていたんですか?」


「はい。というよりも、ナターシャさんとは実は親しい間柄でして、理論の方は私が、実際に組み上げたりする方は彼女が担当することが多いです」


 アークゲート家に関する仕事だけじゃなくて、ナターシャさんと一緒にこんな凄い機器の開発までしていたのか。なんか聞けば聞くほど、ユティさんが凄い人なんだなと実感した。

 シアが凄いのはもちろん知っていたけど、オーロラちゃんはきっとすごく優秀なんだろうし、ユティさんは本当に色々なことを手掛けている。ひょっとしたら世界で一番すごい姉妹じゃないか? いや、きっとそうだ。


「なので最初に言いかけたようにナタさんで通じるので構いませんよ。実際オーラはそう呼びますし」


 どうやらナタさんと呼んでいるのはバレていたらしい。お言葉に甘えて、次からはナタさんと呼ぼう。ナタさん関連でユティさんと話すこともあるだろうし。


「じゃあノヴァお兄様、魔力貰うね」


 そう言ったオーロアちゃんは俺の左手に触れて魔力を持っていく。シアから貰った魔力がオーロラちゃんに移り、オーロラちゃんが準備をすれば、ここに来た時と同じようにあっさりとゲートの魔法が展開された。

 夕食のときに聞いていたグレイスさんも実際にゲートの魔法が起動したのを見て驚いて目を見開いている。


「……当主様しか使えないと思っていたゲートの魔法がこんなに簡単に」


「シアの魔力を使っているので、使ってくれているのはシアのようなものですが」


「いえ、それでも当主様がいない状態で使えるのはすごい事です」


 アークゲート家における魔法の指導者だけあって気になる部分があるのか、色々な角度からグレイスさんはゲートの魔法を確認していた。


「じゃあノヴァお兄様、行きましょうか」


「そうだね。じゃあユティさん、お世話になりました。楽しかったです。また来ますね」


「はい、いつでも歓迎いたします」


 ほんの少しだけ口角を上げて、優雅な礼をするユティさんを見て、やっぱり彼女も大貴族の娘だと再認識する。

 俺もお礼の意味を込めて頭を下げると、しばらくしてから左手を引かれた。

 オーロラちゃんと一緒にゲートの中へと入っていく。ユティさんとグレイスさんに手を振って、金の光の中に足を踏み入れた。




 ×××




 足を踏み入れれば、俺の屋敷の前だった。さっきまでは室内にいたけど、今は外にいるからか少しだけ肌寒い。ノーザンプションに比べてサリアは温かい方だけど、流石にシアの魔法がかかったアークゲート家の屋敷の方が温かいのは言うまでもないからな。


「それじゃあ、もう一回魔力をオーロラちゃんに送ってーー」


「おかえりなさい」


 ここまで送ってくれた小さな少女が帰れるように魔力を再充電しようとしたところで、背中から声をかけられた。振り返れば、消えていくゲートの向こうにシアの姿があった。


 彼女は俺に向けて穏やかに微笑み、近づく。そのままオーロラちゃんに目線を合わせて手を取った。


「オーラ、ご苦労様です。私の代わりに何度も魔法を使わせちゃいましたね。帰りは送っていきますよ」


「はい、お姉様」


「シア、帰ってきていたんだな」


 そう言うと、彼女は姿勢を正す。


「はい、することが多くて時間がかかってしまいましたが、少し前に。夕食は一緒に取れなかったのですが、アークゲートの方でおもてなしできたそうで良かったです」


 多分色々な人に便箋を送ったんだと思うけど、シアはここまでの俺の動向を知っているようだった。


「じゃあちょっと行ってきますね」


 そう言った彼女は慣れた手つきでゲートを展開する。先ほどとは少し違って、金の光だけで構成されたゲート。それを見て、オーロラちゃんが息を吐いた。


「ノヴァお兄様とお姉様の力を借りてゲートを使えるようになったけど、やっぱりお姉様のを見ると自信なくしちゃうな」


「そうなの? どっちも凄いと思うけど……」


 魔法に全く詳しくないから違いがよく分からない。さっき通ってきたゲートも完璧なように思えたけど。


「細かいところがね。まあ、気にしたらいくらでも出てくるんだけど……」


「オーラはまだ若いですからね。きっと成長すれば、出来るようになりますよ」


「魔法の繊細さではそうかもしれないけど、魔力量が絶対的に違うからなぁ……」


「そこはまあ、生まれつきですから」


「むむむ……悔しい」


 難しい顔をしていたオーロラちゃんともそろそろお別れの時間。首だけ振り返って笑顔で手を振るから、同じように返した。


「じゃあノヴァお兄様、私も帰るね」


「ああ、楽しかったよ。ありがとう」


 二人は金色のゲートに入り、姿を消す。


 しばらく待てば、展開したままのゲートからシアだけが帰ってきた。


「おかえり、シア」


 そう声をかけると、彼女は花が咲くような笑顔を向けてくれた。


「ふふふっ……はい、ただいまです。ノヴァさん」


 おかえりとただいま。そんなありふれた挨拶を交わして笑顔になった俺達は、手を繋いで屋敷へと戻った。

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