第27話 初めて、認められた
さっき三人で話していたテーブルからは少し離れた場所で、俺とシアは向かい合う。俺の右手には木刀が収まっていて、シアは生身の状態だ。
これは模擬戦で、俺の相手は北の戦争を終わらせた英雄。圧倒的な格上にどこまで通じるのか、楽しみだった。
しかし一方で、シアは苦笑いしている。
「あ、あのノヴァさん……戦えてうれしいのは分かりますけど、やりすぎないでくださいね」
「ご、ごめん……これからシアと戦えると思うと、昂っちゃって」
「私相手にそうなってくれるのはとても嬉しいんですけどね」
穏やかな雰囲気はそこまで。シアはまっすぐに俺を見つめてくる。ピリピリとした雰囲気を感じると同時に、俺達を覆うように半透明の蒼い半球が包んだ。どうやらオーロラちゃんがなんらかの魔法を使ってくれたらしい。
「じゃあ、お姉様とノヴァお兄様の模擬戦を始めます。お互いに使う魔法や技に関しては常識の範囲内で!」
オーロラちゃんの言葉を聞いて、木刀を持つ手に力が入る。
始まる。英雄との一戦が。
「はじめ!」
試合開始の合図の瞬間、視界を金が覆った。眩い程の光を識別すると同時に、木刀で防御の構えを取る。
飛来した光線は、俺の持つ木刀に吸い取られるように消えた。
地面を蹴ると同時、空間にいくつもの穴が空き、あらゆる方向から光線が飛んでくる。そのいくつかを木刀で叩き落とし、体を翻しながら前に進む中であることに気づいた。
光線の数はあまりにも多くて、木刀一本では対応できない。けど反応できなかった光線は俺の体に当たるよりも前に掻き消えていく。それがなぜか考えている暇すらなかった。
さらに一歩踏み込み、視界をぼやけさせる。中央にシアのみを捉え、これまでにない程の加速で彼女に肉薄。どこか半透明に見える彼女の首筋目がけて木刀を振るったとき。
――っ!?
右手に全力を込めて、振り払いを止めようとした。そうしなければ手遅れになると本能が察したからだ。俺の右腕は脳からの伝達を寸分の狂いなく受け止め、速度を0にした。
直立するシアと、彼女の首筋に木刀を添えることに成功した俺。勝敗は、明らかだった。
「……無理です。私では絶対にノヴァさんには勝てません」
何故かニッコリと微笑むシアに、ようやく俺の体から力が抜けた。
「ノヴァお兄様、凄い! お姉様の攻撃、最後の方全部斬ってたわよ!」
「あ、ああ……ありがとう……」
オーロラちゃんが俺達の元に駆けてきてくれるけど、なんとも言えない感じだった。消化不良というわけではないけど。
「ノヴァさん、今回の戦いで起こったことと、分かったことを説明しますね」
そんな俺のために、シアはこれまでの戦いを簡単に振り返ってくれるらしい。
「まず、ノヴァさんは私の魔法を受けるとそれを力に変えます。事実途中までは光線を防ぎきれていませんでしたが、最後には完全に対応していました。剣を振るう速度や反射神経、その他含め全てが段違いでした」
「そ、そうなのか……」
確かに途中から体が羽のように軽くなったし、光線がどこか遅く感じていた。サリアの街でシアの魔法を受けた時も絶好調だったけど、今回はそれ以上だった。
「加えて、ノヴァさんの剣の前ではあらゆる防御魔法が通用しません。一応防御の魔法を体に張っていたのですが、木刀が触れるだけで消えちゃいました」
その言葉を聞いて、先ほど木刀を振るおうとした首筋に目をやる。痣などは見当たらなかったので一安心だ。
「ノヴァさん」
「シア?」
「最初の段階でも、あそこまで私の魔法を防げる人はほとんどいません。剣技だけならフォルス家でも一二を争う、と聞いていましたが、それは本当ですね。見入ってしまうような、惚れ惚れするような剣舞でした」
「あ……」
優しい目で微笑むシアを見て、俺は心の奥底がジンッと熱くなるのを感じた。
「ずっと頑張ってきたんですね。ノヴァさんは」
「…………」
初めてだった。初めて自分の剣を認めてもらえた。家族に認めてもらえるという願いは結局叶わなかったけど、それでもいいと思えるくらいの人に認めてもらえた。
「うん、私も色んな人の剣技を見たことあるけど、お世辞抜きに良かったわ」
「オーロラちゃん……」
シアにオーロラちゃん。間違いなく俺よりも強くて、そして俺よりも才能に溢れている二人に認められているってことが、ただただ嬉しかった。
「ありがとう。ははっ……剣の訓練、やってきてよかったよ」
一日も休むことなくやってきて、本当に良かった。
「……それに、お姉様はノヴァお兄様を超強化できるってことでしょ? 正直、最後の方のノヴァお兄様、強すぎてびっくりしたわよ」
「そうですね。覇気よりも強いと思います」
「お姉様の力を借りて、ノヴァお兄様が最強になる。なんかロマンチックね!」
「そ、そうかな……」
確かに言われてみれば、最後の瞬間は何でもできるような気がしていた。いつもの俺とはまるで別人みたいな。
そうか……あれがシアとの力なんだ。シアと一緒の時だけ出せる、力。
そう考えるとなんだか恥ずかしくなって、シアから目線を外してしまう。オーロラちゃんの言うロマンチックっていう言葉もまさにその通りで、顔の熱さが引きそうにない。
「ご、ごめん……ちょっと、トイレ行ってくるね!」
「あ、場所は――」
「さっき案内されたから分かるよ!」
そう言って俺は逃げるように中庭を後にした。口元が緩んでいるのが、自分でも分かっていたから。
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