第6話 殺人兎

俺達は完全に奴らを舐めていた。


「ぎゃー、止めてーーーっ!堪忍やーーーーっ!!!」


踊り子ダンサー宇佐千里うさせんりは必死に戦闘着…といってもバニー姿なのだが、それにまとわり付く100は確実にあろうかという殺人兎キラーラビット達の群れに抵抗を続けていた。

同じウサギ同士、何か惹かれ合うものでもあるのだろうか。


えっ!?助けに行かないのかって?

それが可能なら、とっくの昔に助けに行っている。

そんな俺が今どうなっているかと言うと、十数匹ほどの殺人兎キラーラビットが背中に乗っかっていて、身動き自体が取れない状態である。

一匹の重さはそれほどでなくても、塵も積もれば何とやらというやつだ。


そして、冷静に話をしているが背中からお尻にかけてスースーし始めており、つまりは貞操の危機なのである。

なるほど、村長のドルジが話の最中しきりに尻を気にしていると思ったら、そういうことだったのか。


「いやん、そこはアカンってっ!」


あぁ、そうそう。

数は多いとはいえ所詮はウサギと侮ってしまったということもあり、パーティは二手に分かれていた。


俺のパーティメンバーは先程から陥落間近でエロい声を上げている千里とおっぱい大好き妖精のリョク、ユウキとジャンヌに加え赫連拇拇かくれんもも熊猫パンダ燒梅しゅうまいだ。


ちなみに、ユウキとジャンヌは自身に群がって来ている殺人兎キラーラビットを屠りつつ、千里に群がっている連中をいでいっている。

拇拇ももに至っても同様で、非戦闘員のオスの燒梅しゅうまいに群がっていっている奴らを倒していた。


「あかんってっ!ちょっ!なんで胸の所で腰振ってんのん!?」


というか、こいつら何でもいいのか?


「あー………そろそろ、俺も助けてほしいんだが………」


うつ伏せになりつつも両手は何とかなっているので、必死に尻を死守しているのだが、本気でそろそろヤバくなりつつあった。

えっ!?リョクはどうしたのかって?

まぁ、あいつは戦力にならないので、綾香達に救援を頼みに行っている。


『戦力にならないなんて失礼ですね、ぷんぷん』


と、俺はリョクが言いそうなセリフを自ら演じてみる。

随分と余裕がありそうじゃないか、だって?

いや…もう余裕なんて無いぜ?

本気でヤバイんだ。

人間、本気でヤバイときほど、何故か無駄に冷静に自分を分析出来るもんだ。

走馬灯って見たことあるだろ?

無いって?

うーん、まぁいいや。

それと同じで、なんかこう時間の流れが遅く感じるんだよ。


「ひゃっ!あっ…アカンってっ!そんな所触って………」


ちなみにどのくらいヤバイかと言うと、下半身が極めてスースー心地いいくらいにはヤバイ。


くそ………初めてがまさかの殺人兎キラーラビットとは………。


ふっ………これも天命かとため息を吐いて諦めかけた、その時………。


「きゅーん」「きゅーん」「きゅーん」「きゅーん」………………………。


という鳴き声が背後から大量に聞こえると同時に、一気に背中が軽くなった。

同時に千里の方からも、同様に大量の鳴き声が一気に聞こえた。


「おい、大丈夫か蒼治良そうじろう殿」


その声は。

振り向くと、声の主である豪渓寺侃三郎ごうけいじかんざぶろうと同けいの姿があった。


「本当にありがとうございます。助かりました」


俺は立ち上がると同時に二人に礼を言う。


「あ………いや………それは良いのだが…その………なんだ………」


「えぇ………その………ともて言いにくいのですが………」


なんだろう、二人は微妙に俺から視線を外しながら言葉を濁している。

そんな中、背後からかしゃりかしゃりと鎧のこすれる音がした。


「全く…お前がもっとしっかりとしていたら、こんな事にはならなか…った………っっっ!!!いぃぃぃぃーーーーやぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」


ジャンヌの叫び声と共に、彼女の盛大な歓迎を受けた俺は宙を舞い七回転半した後、見事に無事でない着陸を果たしたのであった。


------


尻穴の事を黙っていた村長のドルジから追加報酬ワイロを受け取った俺達はホクホク顔で帰路にいて、今は道半ば。


「ったく………なんで俺が叩かれなきゃならんのだ」


頬に盛大に出来た真っ赤な紅葉をさすりながら言う。

そもそも、不用意に近づいてきたジャンヌが悪いんだし、ずっと千里の喘ぎ声が耳元で木霊していたんだから正常な男ならそりゃっきもするだろう。

衣類だって俺が脱ごうと思って脱いだのではなく、殺人兎キラーラビットによってボロボロにされたからなんだし。


「五月蝿い!黙れ!この変態っ!」


ジャンヌはそっぽを向きながら言う。

そんなジャンヌとは正反対にユウキは俺のっきを無修正で見ても取り乱すことなく親指をグッと立てて褒め称えていた。

ちなみに、今も何気に俺の隣に陣取っている彼女は俺を見上げながら『ぐっじょぶ』と親指を立てている。

こうして、結局誰一人失うものも無く学校へ帰ることが出来たのだった。

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