わたしをおそばにおいてもらえませんか?
あれからしばらくたった後。ミハエルの家の一室。
水野陽夏から大事な話がありますと、ミハエルは言われた。キャンディスからも言われた。キャンディスは外で待機中だ。
そしてこの感触は何度も味わっている。告白を受けねばならない、という感触だ。
相手が世界の終わりのような顔をしてわたしの目の前に立つ。そして愛を告白する。何度も見てきた世界の終わり(風の風景)。
(ホントさー、女に飢えてる人全員に言いんだけどさー、わたし男と一緒に暮らしてた方が気が楽~て感じなのよ。
ブロマンスって言うらしいけど。フレッドとアリウスといる時のわたしの顔を見たメイドからの指摘で。
冬華がフレッドやアリウスに嫉妬してるけど女が男に嫉妬てする意味あんの。
いやそりゃあ、脱脂粉乳で育ったからか、女の胸にはなんか神秘的な何かは感じるけれどさ!
じゃあ、ブロマンスなわたしが、なぜ9人も嫁がいるのか。
世界の終りのような顔をして涙流して震えなから女が迫りくる。
それに耐えられなかったからだ。だから、告白する女は、剣持って立ち向かってくる敵より手ごわいとわたしは言う。わたしはそう言う。
仮想世界に閉じ込められたあの時のような特殊な状況以外では非情になり切れない性格がそのまま嫁の数となって表れている。
ブロマンスの方が楽だってー。転生して酒池肉林企んでいる奴いたら忠告しておく女に関する認識変わるぜ)
「わたしをおそばにおいてもらえませんか?」
「それは、メイドとして――」
「違います」
「…………」
「わたし――――――――」
陽夏が涙をためて愛の告白を続けている。
ミハエルは努めて聞かないようにしている。
(自分の中の良心よ。今は騒がないでくれ)
そう念じて、陽夏の涙が零れはじめた顔を見る。彼女はこちらに手を伸ばしている。彼女と手を重ねるわけにはいかない。
(本当、モテない方が人生順調だって)
と、そう思い、言葉を紡ぐ。
「お断りします。君はまだ20歳、遺伝子治療も受けてノアと同じ1200歳までの寿命も取り戻した。つまり女としての君の花が咲く期間は地球の女の10倍だ! わざわざわたしのような男にそんな世界が終わるような顔して迫る事ないよ。
ヴァーレンスは結構いい男多いぞ。
飲みサーやらなんやらやりそうな(わたしとうまが合わない)ガラの悪い男は、なぜか海渡って奴隷制度のあるカイアス王国にいくしな」
「…………くずっ、ずずずずずっ」
陽夏が完全に泣きべそをかいてこちらをねめあげる。口の下――アゴにしわが寄る。
「…………ずずずっ、ぐずっ、ああの゛キャンディスちゃんはOK出す゛づもりですが?」
「本人がドアの向こうにいる。それはすぐわかるだろうから言わない」
「…………くずっ、ずずっ、はいぃ…………」
陽夏が部屋を出ようとする。
ミハエルは陽夏の背中に向かって、
「メイドは今まだ空きあるから本気で考えてもいいよー」
その言葉に振り替える陽夏。その表情は何とも言い難い。恨めしいとも言えるしまだこちらに希望を持っている? とも言えるし色々ないまぜなのは分かる、といったところだ。
「…………くずっ、ずずっ、あ゛い゛…………」
鼻水飛び出ないよう気を付けたような感じで、陽夏が答えるのが見えた。
そして両手で顔を覆い出てゆく。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
第2回戦。
(胸が痛くな~る第2回戦! モテない奴が羨ましい。
フレッドやアリウスもこの罪悪感味わってるって前言ってたなあ。
わたしがエロゲの主人公だったら来る女に全部YES言って酒池肉林してるんだろうなあ)
キャンディスが入ってきた。
「彼女、こちらに受け答えできないくらい泣きじゃくっていた。彼女くらいの美人でも失恋てするんだな……。
もし、もしわたしの…………、優しく振ってくださいね。わたしも、正直、こ、こ、怖いんです」
「あぁ…」
(わたしも正直怖いです!(自殺とかされたら寝起き悪すぎるし))
表情は崩さずに怖いという部分に同調しておく。
「あなたの事があの時から好きになっちゃいました。だから、だから、わたし、わたし、あなたのそばにおいて、わたしと愛をはぐくんで――」
「――――」
そしてミハエルはお断りの言葉を紡いだ。
「…………!」
キャンディスは時間が止まったように制止した。まるで絶望の世界を受け入れないというように。キャンディスはミハエルがどう断ったのか文言すら思い出せない。だって脳が受付拒否したから。
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