4ページ サンタさんからのプレゼント

「先程私は説明不足だと言った。では何が足りないと思う?」

「……分かりません」

「嘘を吐くな、君は答えを知っている」

「……知りません」

「——ならば無理矢理にでも知れ」

 

 男は足を止める。

 どれほど歩いたか、気づけば景色は明るい街中から暗い路地裏に変わっていた。


「良いか? 奇跡とは決して起こらない物であり、そして物だ」


 男が指を鳴らす。

 すると暗い路地はもっと暗くなり、太陽は消え闇に包まれる。


「なっ……なに、これ?」

「これは君が追い求めたもの、そして君を破滅させるものだ」


 暗さは、深みを持ち、もはやただ暗いなどと表現するには、ふさわしく無い物へと変わっていた。

 それは闇。絶望的な程暗く黒い闇。

 

 僕はその闇の前で一歩も動けず、なんなら指の一本も動かせない。正しくいうならば、動かせる筈なのに体が拒否しているのだ。


 闇が僕へと迫る。

 考えなくともそれが僕を葬るだろうことは分かった。


 魔法は悪い物なのだろうか?

 思わず、そんな考えが浮かんでしまうほど、それは辛く恐ろしい。

 

 そういえば師匠から教わったあの魔法も、使った瞬間胸が苦しくなった。

 ……嗚呼、そうか。魔法は恐ろしい物なのか。僕を苦しめ続けたこの不幸となんら変わらない、最悪の奇跡——


『それは違うよ』

「——師匠!?」


 男の持つ本から、師匠の声が確かに聞こえる。それは僕に勇気と、確かなを与えた。

 

「どうせ破滅するなら、その本読んでからでも良いですか?」

「——何?」

「ごめんなさい、追うのは、やめられない。魔法に惚れちゃったんだ。どうしようもなく!」

「……愚か者めッ!!」


 男に向かって走る。

 奴との距離はそこまで離れているわけでも無い、そう、大体10メートル。いくら足が遅くても2、3秒あれば詰められる距離。


 なのに長く感じるのは何故だろうか。

 

「その身を持って魔法の恐ろしさを知れ」


 忘れていた。闇は止まらず僕を葬ろうとしているんだった。

 

「魔法は、怖い物なんかじゃない! 恐ろしい物なんかじゃ無いッ!!」


 でも、多分大丈夫だ。


『その通りだよ、ぼく。そのまま突き進め! 【炎】は、!!』


 体が炎に包まれる。

 しかし熱くない、寧ろ心地が良い。

 そうだ、きっとこの炎は僕を害す物ではない、僕を護る物だ。


 闇は僕に近づけず、炎に触れた瞬間消失する。

 こうなって仕舞えば、僕を阻むものなどありはしない。


「——ッ!? 止まれ、止まれ止まれぇ!!」

「いやだっ!」

 

 あぁ、ようやくだ。


 ようやくここまで来た。


 手を伸ばせば届く。


 これはとても簡単なことで、


 そして奇跡的なこと。


「——師匠、魔法を教えて!」

『もちろんだ! 今の君にぴったりな魔法を教えてあげよう! さあ、404ページを開いて!』

 

 僕は本を掴み、開く。

 よくわからない魔導文字は読まなくて良い、今すべきなのは……違う、、この魔法を使うこと!!


「【聖火】」

 

 【炎】とはまた違う温もりを感じる火は、どんどんと広がっていき、闇を晴らす。


『魔法には確かに恐ろしいものもある。けど、これだけは忘れないで、魔法は自分を、そしてみんなを幸せに出来る、とっても素敵な奇跡なんだよ』


 上を見上げる。そこにはいつもより何十倍も美しい空と太陽があった。

 きっと今、僕の顔はとんでもなく笑顔で、そして、涙が溢れている。


「まだ間に合う、その本を返せ!!!!」

『いいよ!』


 鬼の形相で突撃してきた男に、師匠は急接近する。

 そして師匠は、ピカ○ュウの10まんボ○トみたいに電気を放出した。


「——あ? ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」


 その一撃で男は、意識を失ってその場に倒れた。


「し、師匠すごい……!」

『どうだい春馬くん、魔法はいいだろう? まあ、朝はあんな風に気絶しちゃったけど……』

「あれはなんだったの?」

『詳しく語ると長いから簡単に言うとね、本来魔法が使えない春馬くんが魔法を使うには体の構造を変える必要があって、ちょっとこれが激痛すぎたんだ……ごめんね』

「……うんん、それって魔法が使える様になったって事でしょ! なら大丈夫!」


 師匠は少し黙って、僕の目と鼻の先まで迫って来る。


『魔法を覚えるにあたって、これからこんな風に襲われたりするし、それ以外にも色々な困難が待ち受けている。勿論僕が守るし、対抗する為の魔法を教えるよ? それでもやっぱり危険で……、だから強制はしない。……本当に、魔法を覚えたいかい?』


 そんなの——


「——そんなのなんてどうでも良いくらいに、僕は魔法を覚えたい。この先何があったとしても、この瞬間以上の奇跡は、幸運はきっと無い、いや、絶対無い!! だからお願いします。僕に、魔法を教えて下さい」

『……任せたまえ、僕が春馬くんを、最高の魔法使いにして見せよう!!』


 こうして僕は、サンタさんから最高のクリスマスプレゼントを貰った。


「あ、師匠。帰り道姿隠すとか出来る? 浮かんで喋る本はファンタジー過ぎるから」

『僕は春馬くんと自分の見せたい人にしか見えない便利仕様になってるから安心したまえ!』

「さすが師匠!」


 最高の師匠を。

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