ミーア・カート(1)
ある日、お父さんが知らない男の人を担いで家に帰ってきた。
ウチは裕福じゃなかった。けれどわたしは幸せだった。
おこると怖いけど優しいお母さんに、ちょっとなさけないけどカッコいいお父さんとの3人暮らし。
不満なんてなかったし、いい子でいようと考えたこともなかった。
けれどある日、「まほう」に出会った。
街から少し離れたところにある山脈をナワバリにするものすごいかいぶつ。
そのかいぶつの調査のために街に来る人たちはいつも同じだったけれど、その日はしらない女の人が一緒にいた。
肩くらいまで伸びた赤髪を持つ、とってもきれいなひと。
お母さんに聞いたら、アーゼルおうこくのおひめさまだって言っていた。
若くしてとてもすごい〈まほうし〉だとも。
街のみんながかいぶつを退治しに来たんだって言っていたから、わたしはそうなのかと聞いてみた。
するとそのおひめさまはからからと笑って
「まっさかー! 私には無理よ。あそこにいるのはとっっってもつよーいかいぶつなんだから!」
「でもおひめさまもとってもすごいまほうしなんでしょ?」
わたしがそう言うとおひめさまは目をパチクリさせて、ほほえんだ。
「そうね。世間じゃそう言われているみたい。だけど私はまだまだよ。目標にしている人には全然追いつけていないもの」
「そうなんだ。じゃあそのひとはとってもとっっ……ても、すごいんだね!」
「…えぇそうよ! 私の、恩人だもの」
おひめさまはすごくやさしいかおをして、そう言った。
調査は2日ほどで終わって、おひめさまが帰る日。
彼女は「ほめてくれたお礼」と言って、わたしにまほうを見せてくれた。
風に乗って、まるで生き物のように舞う、色とりどりのはなびら。
わたしはその真ん中で笑うおひめさまに目をうばわれた。
もともときれいなおひめさまが、もっともっときれいに見えたから。
「お父さん、お母さん、わたし魔法士になりたい!」
生まれて初めてのあこがれは、強い衝動となってわたしを突き動かした。
2人は「すごく大変だよ」と言ったけど、わたしの考えが変わらないのを見て、「分かったよ、頑張りなさい」と言ってくれた。
その言葉通り、わたしは頑張った。たくさん勉強して、たくさん覚えた。
そして、魔法学園の試験に合格した。
人生で一番うれしいと思った日だった。
だけど、わたしが魔法学園に入学するためにはお父さんがマルカファミリーから抜けなければならないという事実を知った時、背筋が凍った。
そして、知った時にはお父さんはすでににんむへと出ていた。
お父さんとお母さんは、わたしが何も知らないと思っているけれど、きっと二人が思うよりいろいろなことを知っている。
わたしのせいでお父さんが死んでしまう。
けれどその恐怖をお母さんにいうことはできなくて、わたしはただただ震えて布団の中で涙を流すことしかできなかった。
そして翌日の朝。
お父さんは帰ってきた。
ボロボロで全身草まみれ。そして───
ヘンな格好にヘンなカバンを持った、知らない男の人を担いでいた。
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