ルソでの日々(2)
「それでシキタカくんはいつごろ街を出るつもりなの?」
唐突な問いに式隆は思わず固まる。
問いを投げかけたジールの妻、エルト・カートは、どことなくつかめない雰囲気を持った女性だ。何を考えているかよくわからないと感じてはいたが、まさか悟られているとは。
「…気付いてたんすね。もう少し考えをまとめてからお話ししようと思ってたんすけど」
「あらそうだったの」
出鼻をくじいてごめんなさいね、と話すエルトの隣でミーアが声を上げる。
「えー! にいちゃんいなくなっちゃうのーー!?」
「まぁね。実はにいちゃんにはやらねばならぬ重大な使命があるのだよ」
「むぅぅぅぅぅ」
ぷくーっと膨らんだミーアの頬をつつきながら、式隆は話を続ける。
「『人殺し』の定期調査部隊とすれ違う形で街を出ようと考えてます。それで次の目的地なんですけど、魔法開発が盛んな街とかってあります?」
「街を3つほど跨ぐと、ダステ国の主要都市であるダステールがありますね。この子の通うことになるダステール魔法学園もありますし、魔法開発も盛んでしょう」
「まだ初夏だから、そこまで大変な道のりでもないはずよ」
「…これは決まりでいいかね」
その夜、布団の中でそうこぼす。
式隆は、期せずしてだが次の目的地が決まったことに、若干の安堵とともに息を吐いた。
「ぬんっ!!」
「ふっ!」
真正面。斜め上方から迫る右拳を、姿勢を低くし、迫る拳の手首の少し奥に手を当て、僅かに上に逸らす。
懐の死角に潜り込み、がら空きの脇腹に打ち込もうする。が、横合いから迫る左手に気付き、攻撃を中断して踏み込んだ足で全力で横に飛び、何とか難を逃れる。
地面を転がり体勢を立て直したタイミングで、一部始終を見ていたファミリーの新入りたちが歓声を上げた。
「っぶねぇ~! 捕まるとこだったぁ~!!」
「俺を相手にすんの慣れてきてんな。いいねぇテンション上がるぜ」
デールが楽しそうに笑いながら言う。
ダステールに向かうことを決めてから、さらに1週間が経過していた。
その間、訓練では基本的には体力づくりの基礎運動と、デールやファミリーメンバーとの模擬戦を行っていた。
なぜかは分からないが、今の式隆に『人殺し』から逃げていた時のような持久力は見られない。
大学に進学してからは軽くジムに通う程度だったため、武道をやっていたころのような動きのキレと持久力は失われている。
式隆は、それを取り戻すだけではなくさらに伸ばそうという考えのもとで訓練を行っていた。
おかげで最初と比べて随分動きが良くなり、動ける時間も増している。
代わりといっては何だが、ここ数日で随分とボコられた。なかなかキツイものがある。
しかし現状、万事順調にことを進められている。出発までに旅の準備を整えることなども忘れずにやっておこう。
「おらぁぁ! 次こそ吠え面かかしたるわこの筋肉ダルマがぁぁあ!!」
「やってみろやぁ! もっぺんゲンコツ喰らわしたるからよぉ!!」
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