そのメンダコ、異世界にてたゆたう。

@hajimari

第1話

「暗いな..... それになんだろう...... 体がふわふわしている」


 おれは浮遊感に包まれながら、暗い海のようなところを漂いながら落ちていた。


(確か...... 高校に行くためにあの横断歩道を渡っていて......)


 あのときのことが思い出してきた。


「ああ、跳ねられたのか...... 信号、確実に青だったのに」


 そのとき轟音で突っ込んできた改造車らしき車高の低い車のフロントガラス越しにみた、金髪の若い男の顔を思い出した。


「あのヤンキーの人生も終わりか...... 片手にストロング缶持ってたな...... 飲酒、スピード違反、信号無視、人身事故か、もしかして違法車両で更にプラス。 合掌......」


(でもおれのほうが合掌されたほうか...... でもこれいつまで落ちてるんだろう)


 ゆっくりと下に落ちていくように感じる。


「まさか地獄に行くの? 地獄に行くほど面白みもない人生だったんだけど......」


 おれは浅海 燈真あさみ とうま普通の高校生だったからそうおもっていた。 


「来世があるなら、メンダコにでもなって深海に引きこもりたいなあ......」


「......お願いきて」


(誰かが呼んでいる...... 困っているのか...... おれにはもう関係ない)


 そう思ったが、何となく呼ばれた方へ近づこうと動こうとすると、突然引っ張られ下からまぶしい光が当たった。



「んっ......」


 目が覚めると、うっすらと景色が見えてきた。 そこは草原のようだった。


「あれ? さっきのは夢......」


 立ち上がろうとすると、からだが上手く動かない。 手を見ようとすると転んだが衝撃はあまりない。


「なんだ...... からだが変だ。 なんか動かしづらいというより、めちゃくちゃ動くな。 どういうこと......」 

 

 転んだまま手を見ると、目の前にカーテンのように膜のようなものが見える。


「なっ!! なんだ! しかも何本も手がある!?」


 驚き這うように地面をのたのた進むと、フワフワして上手く進めない。 


「こ、これ浮いてる!? な、なんとか進まないと」


 体をやたらに動かしていると頭のほうが動き、前に進む。


「あ、なんかうごかせる! えっ? 頭のところが動かせる!? だめだ考えがまとまらない! あそこに小川がある! いこう!」


 小川をのぞくと水面に、頭から二つの羽のはえた赤い丸い頭とその下にスカートのような膜がある生物がうつっている。 さながら赤いUFOみたいだった。


「これはタコ!? いやなんか違う! けっこうデカイし姿もゆるキャラみたいだ! そんなことよりおれはなんか変なものにかわってる!!!」


 自分の体をさわるとなんかモチモチしている。 


「本当のタコなら、もっとベタベタだろ! いやそんなことじゃない!!」


 おれはパニクる。


「最悪だ!! ど、どうしよう!!」 


「モンスターだ......」


 その時、人の声がする。 後ろを振り向くと、なんか剣や弓を持つ武装した人たちがいた。


「えっ? モンスター...... 怪物ってこと」


 キョロキョロと見回すが、やはりそこにはおれしかいない。 そうおもって前をみると、怯えながら弓を持つ人が矢をつがえた。


「違う! おれはモンスターじゃない! ちょっと話を......」


「なんだ言葉を!! 高位のモンスターか! やれ!」


 そういうと弓を放ってきた。


「ぎゃああああ!!!」


 必死で空中をもがいて逃げ出した。


 

「はぁ、はぁ...... なんとか逃げられた。 けっこう速く飛べるな。 いや感心してる場合じゃない! なんだこの姿...... そしてここは」


 なにもわからないので、とりあえずさっきの人たちに、見つからないように頭の羽を頑張ってうごかし低く飛びながら、周囲をうかがう。


「あっ! 家」


 近づいてみると廃屋のようだった。


「でも、ログハウスみたいだ...... それに大きな太い傷がある。 熊でもいるのか。 この傷、いやもっとでかいな。 さっきの人たちがモンスターって言ってたけど、まさかな...... でもこんな大きな生き物なんて」


 こっそりなかにはいると、そこはまだ新しく、最近まで人が住んでいた形跡があった。


「でも電気やガスはなさそうだ。 どうやって調理とか...... あっ!」


 そこには服のようなものが散乱していた。 


「これレインコートみたいな服! 全身を隠せるしフードもついてる! よし中は上着、あとズボンを...... 膜が引っ掛かるかな。 いや柔らかいから大丈夫。 あとは靴、あったブーツ! 申し訳ないが緊急時なのでお借りする」


 着てみて姿をそばにあった割れた鏡にうつす。


「怪しいが、さっきのガッツリタコよりましか、人に見える。 ただ背が低いな小学生並か、あっ、あと羽をださないと」


 フードのところを落ちていたハサミできり羽をだすと、一所懸命に足を伸し地面につけた。 


 とりあえずヨチヨチ歩いてみる。 


「うん、なんとかそれっぽく見えるか...... 羽が気になるが...... これ脚が二つ腕が六つなのか、完全にタコだな。 まあ二つの腕もズボンにいれとこう」


(この膜のついた腕、先だけすごい伸縮する。 吸盤の圧でものもつかめる。 結構使いやすいなこの体)


 とりあえずその場にあった本を手に取る。


「ふむ、ふむ、外国語なのか? でも読めはするな。 アーネリア大陸史...... 知らん大陸だ。 おれがアホだからなのか? いや賢くはないがそんな大陸聞いたこともない」


(死んでこんな姿になり、そしてモンスターのいる世界......)


 そして考えたくもなかったひとつの結論にたどり着く。


「おれ異世界に転生している......」

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