UNSEEN ENTITY/しょうたいふめいのそんざい
五色ひいらぎ
ここが「物語を愛するすべての人」のための場ならば、私は籍を置く資格がない
あなたは誰だろうか。今これを読んでいるあなたのことだ。
いや、名前を訊きたいわけではない。それはただの記号だ。
性別でも年齢でも職業でもない。それらは何も表さない。
あなたは何が好きだろうか。何が嫌いだろうか。何を考えて日々過ごしているだろうか。あなたの思考や嗜好は、どんなかたちをしているだろうか。
……と訊かれて、すぐ答えが出てきただろうか。出せたとしたら、とてもうらやましい。
私は、わからない。
自分は何が好きなのか。何が嫌いなのか。何を考えて日々を過ごしているのか。
大筋では解っているのかもしれない。けれど少し深みに踏み込めば、現れるのはひどい矛盾と混乱だ。
中でもいちばん大きなものは、「物語」、すなわちフィクションに対する態度だろう。
私は「物語」が嫌いだ。
だから本来、ここ――「物語を愛するすべての人たちへ」と銘打たれた場に籍を置く資格もない。
なのに気付けば14年も「物語」を書いている。手が止まる気配はまったくない。
どうしてなのか。
考えるたび、思考が闇に呑まれる感覚がある。触れてはならないヘドロが掻き乱される感触がある。だから普段は見ないようにしているのだけれども。
ああ、だが、ひょっとすると、他の誰かの――あなたの目がある状態なら、少しはましかもしれない。
すまないが、少し見守っていていただけないだろうか。
私が誰なのか、何が好きで何が嫌いで何を考えているのか、その手がかりを探る作業を。
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