第2話 到着

朝日の射し込む森に、自然の奏でる唄と3人の話し声が響き渡る。


「ねえゼロ、町に着いたら装備の点検しに行こ!」


「私も〜服とか買いに行きたいな〜」


「分かった、一緒に行こうな」


ここに第三者が居れば、「このパーティ、緊張感0だな?!」とツッコミを入れるだろう。なぜなら、この森の魔物は昼でも活発なのだ。普通の冒険者が気を抜けばすぐに命を落とすだろう。しかし、賢い魔物は勇者との力差を理解し、近づくこともしないだろう。


「・・・っと、穴掘り熊だな。アキレア、頼めるか?」


「任せて。・・・フリーズ♪」


「グルァァ・・・・・・」


刹那、穴掘り熊の喉奥から巨大な氷塊が突き出てきた。穴掘り熊はうめき声を上げる暇も与えられずに沈黙を余儀なくさせられた。


そう、アキレアの使用魔法は転移魔法の応用である。魔法そのものを相手の体内に転移させることによって、その業を可能にしているのだ。魔法の重複発動と相手の座標位置の特定を一瞬にして成し遂げたのだ。そもそも転移魔法は、上級魔術士が何十年という単位で努力して身につける魔法だ。それをアキレアは、才能と少しの期間で身につけた。それと魔法の重複発動も、上級魔術士の約1%未満しか使用できないのだ。


「アキレアの魔法はいつ見てもすごいな~」


「でも~、魔族となると座標が掴めないの〜」


「アキレアならいつかできるよ!」


「そう?ありがと〜。それより後ろでまたクロバが怒ってるよ〜」


「またって何よ?!またって!!」


「ちょっと・・・なんで俺を叩くんだよク・・・」


「ゼロは黙ってて!!」


「ぐえっ」


ゼロの腹部に、クロバの強烈な蹴りが命中した。ゼロは、斜線上にあった樹木に激突して停止した。


「その癖、どうにかしてくれよ・・・」


「ごめん・・・気をつけるね・・・」


クロバって猫に似てる・・・よな?


「分かって、くれたらいいんだ・・・アキレア、頼む・・・」


「りょうか〜い♪・・・ヒール」


もちろんこれも遠隔だ。ずっと一緒に冒険してきたゼロなら、座標の特定を容易く行う事ができる。


「助かるよ。さて、歩こうか!」


「うん!」

「は〜い♪」






「やっと着いたー!!」


そこは、情報通りの小さい町だ。冒険者が休息をとる町として、宿や鍛冶屋が置かれている。


「ここで数日泊まって行こうか」


「ほんと!?なんかわくわくするね!」


「ベットで寝るの久しぶり〜」


「宿は・・・これか〜!」


町に入ってすぐのところに宿は建っていた。風体は、周りの建物よりも少しばかり豪華で立派だ。


2人の期待を損ねなくてよかった。俺も少し高鳴るな。


「いらっしゃいませ」


宿に入ると、店の制服であろう可愛らしい服を着た、ゼロと同じくらいの年齢の若い女性が迎えてくれた。


「部屋を3部屋借りたいんですけど」


「かしこまりました。こちら、部屋の鍵です。2階に上がっていくと客室があります。朝食は1階のそちらでお食べになれます。何かあれば念話石でお呼び下さいませ」


女性は、本当にゼロと同年代なのかと疑うような口さばきで説明を言い切った。


「ありがとうございます」


「なんで3部屋とったのー!2部屋でよかったのにー!私とゼロが一緒でー、アキレアが1人!」


「なんでぇ?私も交ぜてよ〜ゼロを独り占めしないで〜」


「ち、ちがっ!お金の問題だから!本当はい、一緒になるとか嫌!!」


「なら私が〜」


「それも無理!!」


「まあまあ落ち着いて。もう部屋はとっちゃったんだから」


「そうだった・・・」


せっかくデレたのに振られた猫みたいだ・・・


「それじゃあ下で待っておくよ。準備ができ次第出かけよう」


「やった!」

「りょーかい♪」




「この柄の部分の取り換えお願いします!」


俺たちは鍛冶屋に来た。この先の冒険の為にローブも調達しておこうと思う。


「俺のも頼みます。それと、あれを3つ作ってください」


「あいよ。ローブの方は明後日くらいにまた寄ってくれ」


「はい」



「なんでローブなんて買うの?」


「あれ、言ってなかったか?次は砂漠を通るんだ。装備が汚れるの嫌だろ?」


「あー!そういうことね!!ありがと・・・」


「あ、あぁ」


クロバが頬を赤らめながら礼を言う。ゼロは、「まだ慣れないのか・・・」と困ったように返事した。


「次は〜服を買いに行こ〜」






「いらっしゃいませ〜ゆっくり見ていって下さい♪」



「これに〜・・・いや、こっちに〜・・・」


「相変わらず買い物好きだな、アキレア」


「そうかな〜それよりどっちが似合う〜?」


「確かに迷うな・・・」


ゼロは、笑いながらアキレアが持っている服を見つめた。


「アキレア、その服着てみてくれないか?」


「・・・うん」


着衣室に向かおうとアキレアが振り向いたと同時に、少し頬を赤く染めていた。ゼロの積極的な態度に少し驚いたのだろう。しかし、ゼロはそのことに全く気づいていない様子だ。



「じゃ〜ん♪」


「おー!もう1つも見せてくれ!」



「どう〜?」


「お!こっちの方が似合うかもなぁ」


「・・・見過ぎだよ~ゼロ・・・じゃあこっちにするね〜」


「あ、あぁ、ごめんごめん。それ買ってくるから貰うよ」


「・・・ありがと」


「そっちは決まったかー?クロバー」


「うん!これ買って!!」


あはは、クロバは遠慮がないな・・・逆にアキレアは遠慮し過ぎだ。慣れてもらわないとな!






「久々の休息だったな」


「そうね〜」


「楽しかったよ!ありがとゼロ!!」


「こちらこそ」


2人のおかげで俺も楽しむことが出来た。

2人にも感謝しないとな。


無限に広がる満天の星空の下で、3人は他愛のない話を続けるのだった。

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