第3話元義兄side
僕は畏れ多くも第二王子殿下と同じ生徒会役員に選ばれた。
同じ年齢で、殿下は素晴らしいリーダーシップで他の生徒会役員を引っ張って行く。その力強さと、おおらかな人柄に一瞬で魅せられた。
王族であるというのに一つも偉ぶったところがない。誰に対しても気さくに話しかける殿下のお姿は、太陽のように眩しく感じられた。
このように素晴らしいお方が、二番目に生まれたてきてしまったがために王位に就けないなんて不憫だ。
世間は王太子殿下を「素晴らしい」と誉めそやすが、僕の目には第二王子殿下こそ「素晴らしいお方」として映った。
本来、王族は王立学園に通うことは無い。
それを殿下は「同じ年頃の者と接する経験が欲しい」「様々な立場の者に会える」と仰って、僕らと共に学ばれている。素晴らしい事だ!殿下と共に学生生活を送れた三年間は実に得難い体験だったと思う。
輝かしい日々。
あっという間に過ぎた学生生活は有意義な時間だった。
卒業後も殿下を始めとした生徒会役員とは友人として度々交流している。
義妹のミネルヴァが殿下の婚約者候補であるが故に側近には選ばれなかった。僕個人としては是非ともお仕えしたかったのだが……。
『貴族のパワーバランスを壊してしまう。残念だが』
殿下直々に言われてしまうと納得する他なかった。
その第二王子殿下の言葉が蘇る。
『何故、愛する女性を諦めなければならないんだ。そんな事出来る訳がない』
『皆が言う。彼女を妾妃にすればいいと。正妃にはきちんとした令嬢でなければならないと。だが、私は彼女が良いんだ。いや、彼女以外を妻にしたくない。愛する女性を二番手にどうして出来る?』
『妾妃という地位は側妃よりもずっと低い。私が
殿下も許されない恋をしていた。
恋人である伯爵令嬢との仲を咎められていたのだ。
そのため、ミネルヴァを含めた数人の婚約者候補が用意された。だが、それでも殿下は諦めなかった。周囲の反対を覆し、愛する女性と結ばれるために邁進していた。殿下の熱意は婚約者候補の令嬢達にも影響を与え、彼女達も殿下と伯爵令嬢の仲を応援していたくらいだ。
正直、羨ましかった。
憧れた。
私も
再び殿下の声が蘇る。
『許されるまで説得する』
『認められるまで話し合う』
ミネルヴァは第二王子殿下の恋を応援していた。
だから話せばきっと分かってくれる。そう思っていた。
それに社交界では“第二王子殿下はミネルヴァを正妃にするだろう”、という噂が飛び交っていた。客観的に考えれば王子妃に相応しいのはミネルヴァだ。
家柄、地位、教養、容姿――――どれも一級品。
僕はその噂話が実現すると思った。
義両親の侯爵夫妻だってそうだ。
僕を実の息子のように可愛がってくれている。
きっと理解してくれるだろうと。
だから、あの日、ミネルヴァに打ち明けたんだ。
愛する女性がいると、その女性と添い遂げたいのだと。
婚約を無かった事にしたいと告げる僕に、ミネルヴァは了承してくれた。
――「分かりましたわ」と。
僕はその言葉にどれだけ喜んだ事か!
やっぱりミネルヴァは僕を理解してくれる! 僕の恋を応援してくれる! そう心から思った。
甘えていたんだ。
ミネルヴァに。
侯爵夫妻に。
それを知ったのは愚かにも全てを失ってからだった。
何処で間違えたんだ?
皆、言っていたじゃないか!
ミネルヴァが王子妃に相応しいって!
本命は違う!?
辺境伯令嬢を押していた!?
わからない。
本当に知らなかったんだ。
どうして誰も本当の事を言ってくれなかったんだ。
それを知らされたのは、侯爵家から追い出された時だった。
知っていたらどうしていた?
ミネルヴァが第二王子殿下の婚約者候補でなくなるまで待っていただろうか?
そうすれば僕は今も侯爵子息のままでいられたのか?
婚約候補だった。
第二王子殿下の婚約候補でなくなった時点で話し合いを儲けるべきだったのか?
殿下の婚約者候補でなくなっても、僕との婚約がなくなっても、ミネルヴァは困ることは無い。
侯爵家の一人娘。結婚相手には困らないだろうから、僕とエリカの仲を認めて祝福してくれたかもしれない。
今でも分からない。
あの時、どうするべきだったんだ?
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