【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~

つくも茄子

第1話お義兄様へ

 拝啓 愛するお義兄様へ――



 いかがお過ごしでしょうか。

 お風邪など召していないといいのですが。

 さて、お義兄様が我が家を離れて早半年あまり。

 あの後、無事に私も第二王子殿下の婚約者候補の一人から辞退する事ができました。もっとも、辞退したのは私だけではありません。他の婚約者候補の方々も無事に辞退が認められました。ええ、お義兄様も御存知の通り、第二王子殿下は愛する伯爵令嬢と無事に婚約されました。

 第二王子殿下の五年に及ぶ恋が実って、お義兄様もきっと御自分の事のように嬉しく思っていることでしょう。随分とお二人の仲を応援していたようですから。第二王子殿下を大変リスペクトなさっていたようですしね。


 現在、第二王子殿下は婿するため日夜武芸に励んでいらっしゃいます。


 文武両道の第二王子殿下の事です。

 きっととなることでしょう。


 現騎士団長も一人娘の婿が決まり、それも至高の存在である王族という名誉に歓喜しています。

 最近は騎士団長自ら第二王子殿下の稽古を付ける熱心ぶり。


 先日も騎士団長の木刀をよけきれなかった第二王子殿下は腕の骨にヒビが入ったとか。

 教育熱心な騎士団長らしいと思いませんか?

 少しばかり問題になりましたが、未来の義親子。舅と婿になる間柄。異例の「不問」になりました。


 なんでも第二王子殿下自らが「いずれは騎士団長を拝命する身、骨の一本や二本どうってことはない」と仰られたとか。

 将来が楽しみで仕方ありません。


 お義兄様もそう思われませんか?


 今、をしていらっしゃるお義兄様。


 同じ生徒会役員の方々自称第二王子派も似たようなお仕事をされていますから御安心くださいませ。


 第二王子殿下は常々申されていました。


「愛する女性のためなら王族という地位を捨てても構わない」と――――


 これは同じ学び舎で同じ生徒会役員であったお義兄様もよく御存知だった事でしょう。

 それを真剣に捉えていた者の何と少ない事か。

 彼らは第二王子殿下が本気で王籍を離脱なさるとは考えていなかったようで、そのショックは大変大きなものだったようです。

 特に第二王子殿下の側近候補達は泡を括って失神されたとか。

 元副会長などショックのあまり食事が喉を通らず、みるみるうちに痩せ細っていったそうです。


「こんな筈ではない!伯爵令嬢が王子妃になれば何の問題もない!」と気が触れたかのように叫ばれているとか。あまりの奇行ぶりに近々跡取りの座から下ろされるのではないかと噂されています。


 他の側近の方々も御自分達の進退を危ぶみ、毎日ビクビクしているとか。

 それほどに第二王子殿下が王籍を抜けるというのは大きな事件なのでしょう。


 彼等は誰に何をしたのか。誰を敵に回したのか。誰に暴言を吐いたのか。それを漸く理解し始めたようで、各関係者達が連日謝罪に訪れるております。私も関係改善は無理でも、彼ら、または彼女達がご自身の発言に責任を持って有言実行することを嬉しく思っております。


 お義兄様もこれで後顧の憂いなく、今の生活に集中できるというもの。

 どうかこれからも頑張ってください。

 お義兄様の未来に神のご加護がありますように祈っております。


 敬具


 追伸 私の新たな婚約者に関しましては目下選定中と申しておきましょう。私を妻にと望む釣書は後を絶ちませんが、前回の事を踏まえて慎重に選別している最中です。

 少々時間がかかるかと思いますが、どうか御安心ください。

 心配されるような事態にはなりませんので。

 ええ、ご心配いりませんとも。

 お義兄様が案じられることは何一つありませんから。


 慕っていた方から同じ想いを返されない。ましてや愛されることのない関係にならないように慎重に選んでいます。

 私は侯爵家の総領娘ですから。

 次期女侯爵として信頼関係を結べる相手を選ぶように両親共々心がけています。

 ですので、どうかお気になさらずに。


 お義兄様のこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。


 愛を込めて。



 貴方の、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカーより――――



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