第49話

「一人だけでも壊滅させられかねないのに、あの数、1000はいますわ......」 


 アストエルたち魔族に動揺と恐れが広がる。


「どうするんだリン......」


 アエルは不安そうな声を漏らした。


「大丈夫。 ラクエス王! ザルキエルさま! 勇者は人を襲いません。 人間を前衛に出して魔族にせまる行く手をふさいでください。 魔族はモンスターを出し、後方から足止めの魔法だけで、あとは私がやります」


「わかった。 騎士団と兵士は行く手をさえぎれ、攻撃はしなくていい。 盾で押せ!」


「魔族たちよ! 攻撃魔法は使わず、遅延や固定の魔法を使い勇者を近づけさせるな!」


「おおおおお!」


 人間と魔族から声が上がる。


 私は浮かぶと近づいてくる勇者へと向かう。


(これを使う......)


「【分体】《バイロケーション》」 


 私は十体の分身をだした。


「【離転移】《アスポート》」


 モンスターと人間たちで勇者を一体一体包囲して魔族が魔法で足止めすると、勇者たちが持っている聖剣を次々と転移させ無力化していく。


 夕方には全ての勇者を無力化することに成功した。



「聖剣を魔法で石の箱にいれ封印し、動かなくなった勇者たちも手厚く埋葬している」


「ありがとうございます。 ラクエス王」


「これであとはゼフォレイドか...... ならば我らが」


 ザルキエルは眉をひそめそういった。


「いいえ、彼も勇者、魔族では勝てません。 私が行きます。 お二人は魔族と人間の今後について話し合ってください。 私たちの町から魔族を呼びますから、彼女に話を聞いてくれれば役に立つと思います」


「君がいっていた魔族と人間の町か...... わかった。 話を聞こう。 しかしゼフォレイドと戦うなら、一人では......」


 ザルキエルはうなづいた。


「私たちが行く」


 アエル、ケイレス、セリナ、レイエル、アストエルがそういう。


「わかった。 そちらは任せる。 いまモンスターが全土に現れていて、またスタンピードが起こりそうなのだ。 兵力を分散せねばならない。 魔族にも手伝っていただきたいのだ」


 ラクエス王は険しい顔でそういうと、ザルキエルはうなづいた。


「承知した。 我らも分担して各町を守りに行こう」


「ええ、お願いします」



「危険だからここで待っていてくれない」


 私たちは魔族の町に来ていた。


「いやだ! ついていく」


「そうですわ」


「そうよ!」


「そうですね」


「そうだな」


 アエルたちは説得に応じない。


「ゼフォレイドは異常。 勇者なのに自我をもつ。 戦いになれば私もただじゃすまない」


「私たちは魔族として真実が知りたい」


「ええ、人間としてもね」


「そうだ。 一人だけ死地に向かわせるわけには行かない...... 例え死んでもだ」


(この強固な意志はかえられそうにない。 仕方ない) 


「【分体】《バイロケーション》」


 私は五体の分身を作り出した。


「みんなこの分身のあとについてきて」



 そして私たちは、城の地下へとすすんだ。 ゼフォレイドがいた扉を切り裂いた。 奥にゼフォレイドが座っている。


「少しはなれてついてきて」


 私はみんなを離してゼフォレイドの前に進む。


「そうかその分身か、わたしが切ったのはそれか...... そしてあの勇者たちを倒したのか......」


「ええ、あなたの野望はついえた。 話を聞かせてもらえる」


「そうだな。 私一人で戦っても仕方ない...... か」


(嘘ではないが...... 何か考えが読みづらい。 哀しみ以外は空虚というか......)


「一体なぜ人間を滅ぼそうとしたの?」


「......それが人間と魔族のためだからだ」


「どういうことだ」


 アエルが遠くから聞いた。


「......ついてくるといい。 真実を知って耐えられるならば......」


 そういうと、立ち上がり、後ろの部屋へと進む。 


 私たちは警戒しながらついていく。 


 その部屋は小さな四角の場所で、そこをゼフォレイドは止まっている。 


「これは」


「なに? 何か動いた」


「ああ、体に何か感じる」


「まさか!」


 五人が構える。


「いや、危機感はかんじない。 あなたは勇者でしょう。 なぜおかしくなっていない。 そもそもなぜ聖剣は人をおかしくさせるの」


「そうだな...... 私は勇者になり損なった。 あの聖剣は魔素を取り込んだものの自我を壊し、戦闘人形にするものだった」


「ああ、それは知っている......」


 セリナはそういう。


「しかし、私はまだ自我を失う前に、聖剣ごと腕を切り落とされた。 そこで異常がおこった。 所詮人間がつくったものだ完璧などとは程遠い......」


「人間が、しかしあの聖剣をつくったものは誰でもなかったはず......」


「そういう意味じゃない。 勇者や聖剣という、その仕組みを人間がつくったという意味だ」


 そうゼフォレイドは首を横にふりいった。


「仕組み...... 神がつくったものではないの?」


 ケイレスがいうとゼフォレイドは笑う。


「神などいない...... この世にいるのは人間という悪魔だけだ」


「悪魔...... しかし残虐な魔族はいましたよ」


 レイエルがそういう。


「そうだな...... そうつくられた」


「それはどういう......」

 

 アストエルがいいかけると何か浮遊感をかんじる。


「......ついたぞ」


 部屋の扉があくと、そこにはある景色が飛び込んできた。


「これは!?」


 私は驚く、そこは巨大な町だった。


「町......」


「でもみたことがない形式だ」


「そうだな。 どこの町とも違う。 人間とも魔族とも」


(そうだ...... これはどうみても)


 私が驚いたのは町の大きさじゃない。


 そこに見えるのは現代の町だったからだ。 

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