第34話

「マーメルがさらわれたの!」


「ええ、私たちが部屋にはいったときにはもういなかった。 これが手紙です......」


 そうケイレスとレイエルが悔しそうに答え手紙を差し出した。


「返してほしくば、この件から手をひけ」


 手紙には、それだけかかれていた。


 どうやら、私たちを襲ったとき、ナーフに入り込んで町長のマーメルをさらったらしい。


「どうするリン」 


「やられた。 ただ殺せば調べられるのはわかっているはず、その間は無事」


「......なら、その男たちから聞き出しましょう」


 アストエルがさっき捕まえた男たちを冷たい目でみていう。


「まあ、拷問した程度でははかない。 覚悟が違う。 眠っているときに断片でみたけど、どうやら家族などを長期に人質にとられているようだよ」


「それで、そこまでの覚悟......」


 アエルがうつむく。


(【催眠】《ヒュプノシス》をつかうか...... いや、この町へも他に送り込んでいるかもしれない。 プロは心を読みづらい。 調べるのも無理か) 


「直接出向いた方が良さそう。 ケイレス、ダルグタールの屋敷はわかる?」


「ええ、確か北にあるビザイムの町だわ」



 私とアエルはビザイムの町へ馬車で向かう。


「姿を消せるなら、他のものが遅れをとる可能性もあるぞ。 本当にみんな大丈夫か」


 アエルは不安そうにそう口にした。

 

「ええ、あれは私と同じ光を屈折する魔法。 姿を消しても音は消せないから、わからなくもない」


「常に周囲を調べるのは難しいな」


 アエルが考え込んでいる。


 二日かけビザイムの町へついた。


 そのままダルグタールの屋敷へとむかう。 大きな屋敷の門にくると、執事のようなものが待っていて、中へと招かれた。


「来ることがわかっていたようですね」


「......部屋に招くようにとの仰せです」


 そう言葉少なに執事は屋敷へと歩いた。

  

 

 執事に客間に通される。 そのソファーには目付きの鋭い老人が座っている。


「君がリン、そしてアエルか」


 そう静かにいった。


(もう名前もばれているか......)


「ええ、ダルグタール大臣」


「それで用件は」


「マーメルを返していただきたい。 隠しても無駄です」


「隠すつもりもない」


 手をたたくと、部屋にマーメルをつれた男たちが入ってきた。


「マーメル!!」


「アエルさま!」


 アエルとマーメルは抱き合っている。


「それで、どうしろと」


 私がいうと大臣はその冷たい目でこちらを見据える。


「......この件から手を引いてもらう」


「引かなかったら」


「幾度となく、人を送る。 どうやら手の者をとらえたらしいが、いくらでも人を送れる。 常に狙われることにお前は耐えられても他のものは耐えられるか......」


 そういう心のなかは、覚悟がきまっているのかとても静かだった。


「あなたを殺せば、それも終わる」


「できない...... わけではなさそうだな。 ならばやってみるがいい。 人を殺せばお前も罪に落ちるだけだ」


「そこまでして己の保身を望むのか」 


 アエルが蔑むように言った。


「......そうだ。 私は戦争孤児だった...... この地位に来るためにどれ程の苦難を得てきたかわかるか」 


 ダルグタールの心から憎悪や苦痛、悲しみ、後悔の感情が溢れてくる。


「力なきものは世界より排除される。 世界から排除されるのは存在しないことと同義だ。 罪を犯してまで得た力を失うぐらいならば、兵を挙げ王の座を狙う」


(アルトークやラグオーンでもここまで心が硬直はしてなかった。 永い年月、心が傷ついたからこうなってしまったのだろう。 なにも信じられず、力しか信じない...... だがこのままにはしておけない)


「そうですね...... きれいごとで説得は無理ですね。 それなら私も更なる罪を犯しましょう」


「どういうことだ......」


「あなたは力なきものは排除される、そういいましたね。 その通りあなたに見せることにします」 


 その時屋敷に振動が起きた。


「なっ...... 屋敷が」


 ダルグタールは立ち上がる。


「屋敷だけではないですよ」


「馬鹿な...... 町が浮いている」


 窓から町そのものが浮いているのが見える。


 私は【念力】《サイコキネシス》で町ごと浮かせた。


「こんなことが......」  


「......あなたが兵を挙げても、その兵を全て捻り潰して見せます。 私にはそれができる...... それでも私と戦いますか」


 そう問いかけると、ダルグタールは力なくソファーに腰掛ける。


「わかった......」


 そう静かに一言いった。


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