第23話

「本当にいいのか。 いいように使われるだけだぞ」


 アエルが不満げに聞いた。 


 私たちは宿へと向かっていた。


「とはいえこのままだと大勢が死ぬ上、その隙を魔族かゼヌエラがつくかもしれない。 それに国に恩を売っておけば都合がいいでしょ」


「まあな......」


 アエルは納得はしてないようだが、しかたないという感じだ。


(国が弱い人たちを放っておいたことが許せないようね)


「それとアエル、他の人間がいるとき戦闘になったら気を付けてよ」


「なぜだ?」

 

「その角だよ」


「角?」


「見えなくできても、なくしてる訳じゃない。 剣を振り回したりぶつかったりしたらばれる」


「ああ、そうかなるほど」


 アエルは角をさわった。


「その角はなんなの?」


「なんなんだ、といわれてもな...... 魔族の強さの象徴で、名声に関わるとしかしらない」


 不思議そうに首をかしげた。


(折れたら、絶対死ぬわけでもないのか...... ガイエルの角は異様に固かった。 攻撃がもしあたっても死ぬことはないだろうけど......)


「まあいいけど、アエルが魔族だとばれたら困るから」


「わかった気を付けよう」


 アエルはうなづいた。


(まあ、最悪【催眠】《ヒュプノシス》で記憶をかえてしまえるが、ほとんど使ったことがないから、後遺症でもあれば困る......)



 それから二日後、私たちは岩山へと来ていた。


「ここがそのモンスターたちの住みかなのか、ディラル、ケイレス」


 私が問いかけると、金髪の少年ディラルはうなづく。


「そうです。 斥候のようすでは、この先に膨大な数のモンスターがあつまっているようです」


「そうね。 私たちは騎士団と冒険者たちとあわせて20人ほど、この数では死ににいくようなもの。 なにか策はあるんでしょう? リン、アエル」


 ケイレスはそういってその場を警戒している。


 ケイレスはこの間のことで国から多額の報酬を得たのだという。


 ディラルはラクエス騎士団の新人で、他の若い騎士たちのリーダーをしていた。


(ケイレスは心にあまり乱れがない。 この状況で、ここまで落ち着いているものは、よほどの経験をしてきたか、精神力が強いものだろう。 ディラルは少し緊張している......)


「そうだな。 このままではモンスターの餌食だな。 リン」


 アエルにうながされる。


(【遠隔透視】《リモートビューイング》 この先の中腹に無数のモンスターがいる)


「ええ、どうやらかなり大きな人型のものが十数体いる」


「本当ですか!? 遠方をみることができる魔法なんて聞いたことがないけど......」


 ディラルは驚く、それを聞いていたケイレスが続けて聞いてくる。


「それでそのモンスターのもう少し詳しい情報はわかる?」


「そうだね。 巨大な赤い体毛の猿。 私の背丈の二倍はある。 巨大な円錐形の牙が二本、口から上を向いて出ている」


「それは!」


「ああ、間違いないグランドエイプよ......」


 ディラルとケイレスは少し考え込む。


「確かに、グランドエイプは厄介だな」


 アエルもそういう。


「どんなモンスターなの?」 


「とにかく身体能力が高い。 その体は鋼鉄並みで、岩すら砕く腕力をもつ。 魔族ですらてこずる」


(アエル......)


「あっ!」


「魔族ですら...... アエルさんは魔族のことをご存じなのですか?」


 ディラルはそうアエルに聞いた。


「あ、ああ、あの......」


 アエルはしどろもどろになっている。


「ああ、私たちも魔族と戦ったことがあったの。 二人は?」


「直接はないですね。 戦争で倒れた者をみたことがありますが」


「......私もだな」


 少しケイレスの心に動揺が走った。


(なんだ? ケイレスこれは......)


「ケイレス、魔族についてしってることがあるのか?」


「いや、別に...... ディラルはどうなの」


「そうですね。 私が知ってることといえば、魔族は角の大きなものの方が強かったということと、その角を切り落とせばかなり戦意が落ちるということですね」    


 ディラルはそう答えた。


「角が弱点ということか、でも......」  


 アエルの方をみると首をふっている。


「いえ、痛覚みたいなものはないようです。 ただ折れると好戦的なものが、戦う意欲が落ちるそんな感じらしいです」

 

(違うのか...... でも、アエルたち戦いを好まないものたちは角が小さいような気がする)


 ケイレスの方をみると、目を伏せている。  


「それより、このモンスターをどうするかだリン」


「ええ、そうだね」


(倒すのは簡単だが、あまり一方的に倒すと、厄介ごとに巻き込まれそうだな。 それに......)

  

「とりあえず作戦を練ったよ。 各々その通りに動いて欲しい」


 各々に指示を出した。


「騎士団は配置しました」   


「こっちもよ」


 ディラルとケイレスの二人はそういう。


「私が魔法で合図を送るから同時に攻撃して」  


 二人はうなづくと、左右へとわかれていく。


「アエルは私と共に中央をすすむよ」


「わかった」


 私たちは山をすすみ、中腹へと差し掛かった。 


 そこに巨大な猿たちが待っていた。

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