【青色】【裏取引】【最後の高校】

「許せない」


 来月公演の「オペラ座の怪人」の配役が先月発表された。クリスティーヌの役を部長のにのまえ優子に奪われた。


「許せない」


 いつもこうだ、優子はいつも私の前にいる。名は体を表すというけど、優子は一番優れた子。なんかずるい。私が副部長の座に甘んじているのはしたなが良子と言う名前のせいだわ。二番目に良い子って名前からして負けてるじゃない。


「許せない」


 何よ、優子なんて私よりちょっと可愛くて、頭が良くて、演技が上手くて、人望があって、性格がすごくいいだけじゃない。私の役はカルロッタ。わがままなプリマドンナって全然私のキャラじゃないわ。


「許せない」


 もう我慢の限界。優子がいる限り、ずっと私は二番手。優子をこの世から葬り去ろうと、私は闇サイトの裏取引で青酸カリを手に入れた。せいぜい最後の高校生活を楽しむがいいわ。

 明日は最終リハ。今日の優子は顔色が悪い。練習の途中でトイレに行った。

 チャンスだ。私は青酸カリの入った瓶から白い錠剤を取り出して優子の水筒に入れた。青酸カリって言うけど青色じゃないのね。

 優子は戻ってくるなり水筒のお茶を飲んだ。

「さよなら優子」私は心の中で呟いた。


 カラーン


 優子はその場に倒れ込み、その手から水筒がこぼれ落ちた。

「優子!」私は人生最高の演技で優子に駆け寄ってみせる。

 何かのマンガでは、青酸中毒者からはアーモンド臭がすると言ってたけど、全然わからない。そもそも生のアーモンドの匂いって何?

 でも、科捜研には青酸カリを使ったことがバレてしまうわ。私は著名な法医学者である上野正彦先生の著書を読み漁っていた時期があるの。きっとシェーンバインパーゲンステッヘル反応という予備検査で特定されてしまうわ。予備検査なのにそれくらい信頼性が高い検査なの。いい? もう一度言うわね。シェーンバインパーゲンステッヘル反応よ。何となく呪文のように頭に残っているけど、使う機会がなかったからどこかで使ってみたかったの。

 男子部員が担架で優子を保健室に運んで行った。

「無駄よ」私の中の悪魔が微笑む。

 これで、クリスティーヌの役は私のものよ。


 その後、優子抜きで練習が再開した。おかしい、救急車が来ないなんて。わけもわからないまま、練習が終わった。


 優子が戻ってきた。顔色はすっかり良くなっている。

 どういうこと?

 私は瓶からもう一錠取り出して確認した。そこに書かれた”B”の文字。


「バファリンじゃん」

 闇サイトの取引なんてこんなものか。


「許せない」

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