竜の子 〜竜と暮らす捨て子の僕が、友達の王子を助けて竜騎士になるお話〜

成若小意

第1話 竜とお師匠様と僕

 僕は竜の世話は好きじゃなかった。


 いつまでも懐かないし、すぐ吠えるし、その割に世話をしないと怒るし。


 師匠様にはとても懐いていた。懐くというよりも主人としもべのような感じで、かしずいていた。ちょうど僕とお師匠様の関係と似ていると思う。



 僕は赤ん坊の頃お師匠さまに拾われたらしい。それからずっと、山奥でお師匠様と竜と僕ので暮らしている。


 お師匠様もすぐ怒る。

 掃除をしろ、サボるな、危ないところにいってはいけない。

 ここは暮らすのに厳しいところだから、サボるとすぐ生活していけなくなると言っていたけど、生まれてからずっとここだから、よくわからない。


 あと、お師匠様としかお話したことがないから、同じようにお話しても、怒られる。「今日のご飯はうまいのう」とか言うと、子供らしく話すのじゃと言われるけど、それもよくわからない。


 最近ようやく普通になってきたと褒められた。


 


 


 毎日、朝日が登る前に起きて、お師匠様と竜におはようを言う。身支度をして、竜の世話をして、家の掃除をして、ご飯の用意をする。日が昇って少し暖かくなってきたら、食べ物を取りに山を巡る。水も汲んできて、保存食を作って、竜の世話をして、お風呂に入って本を読んで眠る。


 毎日それの繰り返し。


 ある日、お師匠様が死んでしまった。


 前々から、お師匠様から聞かされていた。人はいずれ死ぬのだと。高齢のお師匠様はきっと僕より先に死ぬだろうと。死ぬというのは、もう動かなくなるということ。動物たちの死を見慣れているので、それは理解できた。


 お師匠様に言われていた通り、お師匠様が死んでしまったあと、大きな大きな穴を掘って、そこにお師匠様を埋めた。竜も手伝ってくれた。普段は何を言っても手伝ってくれないのに。


 僕も、竜も、お師匠様を他の動物にいたずらされるのが嫌なので、丁寧に埋めた。目印に、木の板をさした。板に名前を書こうと思ったけど、文字は読めるようになってきたけど上手には書けなかったので、お師匠様の似顔絵を書いておいた。


 




 それから毎日、朝日が登る前に起きて、似顔絵のお師匠様と竜におはようを言う。身支度をして、似顔絵のお師匠様に桃をあげて、竜の世話をして、家の掃除をして、ご飯の用意をする。日が昇って少し暖かくなってきたら、食べ物を取りに山を巡る。水も汲んできて、保存食を作って、似顔絵のお師匠様に桃をあげて、竜の世話をして、お風呂に入って本を読んで眠る。


 毎日それの繰り返し。


 お師匠様に、お師匠様が死んだあとどうなるのか、どうすればいいのか聞いていて、困ることはあまりなかった。怒られることがなくなって良かったけど、危ないところに行くとお師匠様の怒鳴り声が聞こえる気がするし、さぼっていても怒鳴り声が聞こえる気がして、生きているときとあまり変わらなかった。


 だけど、夜静かになって、月を眺めながら本を読んでいると、お師匠様のいびきが聞こえない。こんなに静かになることは、聞いていなかった。


 竜と僕のふたりきり。


 




 相変わらず、竜はぼくに懐かなかった。

 師匠様の言うことはよく聞いていたのに、僕が巣の掃除をしていて、足元の掃除をしたいから足を上げてと言っても知らんぷり。何度か足を叩いてみても、鼻から息を吐き出すだけ。


 あきらめて、鱗を磨く。これは気持ちいいみたいで、いつもおとなしくしている。お師匠様にコツを聞いているので、僕もうまくできていると思う。


 あと、背中に乗れるのはお師匠様だけ。僕がよじ登ろうとすると、怒る。それなのに、一緒に散歩をしていると、よく僕の服をくわえて、ぶらさげる。ふざけているのかとおもうけど、しばらくそのままくわえられるので、どうしようもない。いい加減首が苦しくなってくるので、牙を掴んでよじ登る。


 鼻先に乗るのは怒られないので、そこが僕の定位置になる。

 お師匠様が生きていた頃には「なんてところに乗っておるのじゃ」』と呆れられていた。


 僕と竜の二人暮しは毎日同じことの繰り返し。

 でもある日、山に初めて人を見かけた。

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