第10話 悲しみのどん底から僕を救ってくれた大切な人~アルフレッド視点~

侯爵令息として生まれた僕は、優しい両親に囲まれ、幸せに暮らしてきた。そんな僕には、物心ついた時からずっと一緒にいる幼馴染がいる。


それがクリスティーヌだった。ピンク色のフワフワの髪をしたクリスティーヌは、いつも僕の後を付いて歩いてくるような可愛らしい子だった。ただ、時折少し頑固な一面を見せる事もある。


彼女は非常に分かりやすい性格で、何を考えているか手に取る様にわかるのだ。そんなクリスティーヌは、僕が大好きな様で、いつも一緒にいた。


でも…事件は起こった。両親が夜会の帰り道、事故にあい命を落としたのだ。当時僕は6歳だった。大好きだった両親を亡くした僕は、失意のどん底にいた。すぐに親族の間で話し合いが行われた。


さすがに6歳の僕が、侯爵家を継ぐことは出来ない。その結果、侯爵家は取り潰されることになった。そして僕は、意地悪な従兄がいる、叔母上の家に貰われている事も決まった。


「本当に兄上は子供を残して亡くなるだなんて。そのせいで我が家でアルフレッドの面倒を見なければいけなくなったじゃない。いい迷惑よ!」


僕に向かってそう言い放った叔母上。僕だって叔母上の家に何て行きたくない…優しかった父上と母上の元にいきたいよ…


その時だった。


「アルフレッド様、大丈夫?」


柔らかくて温かい感触が、僕の手から伝わる。声の方を向くとそこには、心配そうな顔をしたクリスティーヌと、その後ろには怖い顔をしたクリスティーヌの両親の姿が。


「親族の話し合いの場に、押しかけて申し訳ございません。アルフレッドが気になってしまい…それにしても、先ほどの発言はいかがなものかと!アルフレッドは両親を亡くしたばかりなのですよ。それなのに…」


「そうですわ、あまりにも酷すぎます!」


クリスティーヌのご両親が、叔母上たちに抗議の声を上げている。さすがに公爵家から抗議されたことで、気まずそうに俯く叔母上たち。


「ねえ、アルフレッド様、家で一緒に暮らさない?こんな意地悪そうな叔母様の家になんて行ったら、きっと虐められるわ。アルフレッド様が辛い思いをするのは、私も嫌よ。そうでしょう、お父様」


「コラ!クリスティーヌ。でも、そうだね。アルフレッド、君は大切な親友の忘れ形見だ。君さえよければ、我が家で一緒に暮らさないかい?よろしいですよね?」


近くにいた叔母上に確認を取るクリスティーヌの父親。


「ええ…私たちは構いませんわ…」


「叔母上からも許可が出たよ。アルフレッドはどうしたい?」


「僕は…クリスティーヌの家で生活したい…」


「よし、そうと決まれば、早速家に行こう。それでは、アルフレッドは連れて行きますから」


「よかったわ、これからもずっと一緒よ。さあ、アルフレッド様、早速我が家に行きましょう」


僕はそのまま、クリスティーヌとクリスティーヌの両親に連れられ、公爵家にやって来た。そして公爵と王族の方たちの計らいで、グレィーソンという姓も残してくれた。


公爵も夫人も本当に優しくて、僕を本当の息子の様に接してくれた。部屋も以前の僕の部屋と同じ家具などをそのまま入れてくれた。僕の専属使用人たちも、そのまま雇ってくれて、僕が少しでも新しい生活に慣れる様にと、気を使ってくれたのだ。


でも…


今までずっと僕の傍にいてくれた両親を急に亡くし、寂しくてたまらない。特に夜になると、1人ベッドで涙を流す日々。そんなある日、今日もいつもの様に1人でベッドで涙を流していると…


「アルフレッド様…」


この声は…ゆっくりと僕の部屋に入って来たのは、クリスティーヌだ。急いで涙をぬぐった。


「クリスティーヌ、どうしたんだい?」


「アルフレッド様が泣いているような気がして…」


そう言うと僕の傍にやって来たクリスティーヌ。そして僕の手を握り


「おじ様やおば様を急に亡くして辛いわよね。ごめんなさい、私、何もできなくて。私はおじ様やおばさまの様にはなれないけれど、ずっとあなたの傍にいるわ。少しでもアルフレッド様の心が癒える様に。だからどうか、元気を出して。そうだわ、今日は私が抱きしめて寝てあげる」


そう言うと、クリスティーヌがギューッと僕を抱きしめてくれたのだ。


「どうかもう、1人で泣かないで。私、アルフレッド様が1人で隠れて泣いている姿を見ると、胸が苦しくなるの。そうだわ、私の胸を貸してあげる。だから、泣きたくなったらいつでも私の胸で泣いて」


今までずっと妹みたいな存在だと思っていたクリスティーヌ。なんだか今日は、お姉さんみたいだ。


「ありがとう、クリスティーヌ。僕は…僕は…」


気が付くとクリスティーヌに抱き付きながら、涙を流していた。そんな僕の頭を、優しく撫でてくれるクリスティーヌ。


「辛いわよね、泣きたいだけ泣いたらいいわ」


クリスティーヌの優しさと温もりに安心したのか、そのまま僕は眠りについたのだった。


翌朝


「おはようございます、アルフレッド様、今日は森にピクニックに行きましょう」


いつもの様に笑顔を向けてくれるクリスティーヌ。この日は2人でピクニックに出掛けた。そして夜、また僕の部屋に来たクリスティーヌは、僕を抱きしめて寝てくれた。


クリスティーヌに抱きしめられると、なぜかとても安心する。きっと彼女なりに、両親を亡くした僕を気にかけてくれているのだろう。


クリスティーヌの優しさが、両親を亡くして傷ついた僕の心を少しずつ癒していく。クリスティーヌがいてくれるから、僕は今心穏やかに生きていられる。


いつしかクリスティーヌは、僕にとってかけがえのない人になっていた。彼女さえ傍にいてくれたら、僕はもう何もいらない。そう考えるようになっていったのだった。

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