14⭐︎追加新話 名もなき山寺その5

「じゃあ、10数える間に隠れるんだぞー?いーち、にーい」


 たくさんの草木が茂る緑お寺の庭の中、暖かな陽射しを受けて両手で目を隠す。

数を数えだすと「きゃーっ」と歓声をあげた子たちが、色んな方向に駆け出す足音が聞こえる。


 俺の背後にはニコニコしながら見守る颯人と、うんうん唸ってる真さんが立ち並んでいた。




「昼の日なかに怨霊たちが駆け回れるとは……私が鬼軍曹を発揮する余地がありません」


「真幸が正しく結界を張ってやればそうなる。そもそもの話、既に子達は怨霊とは言えぬ。

浄真が与えた癒しの時が、あの様に愛らしい姿を顕すのだ」


「夜中に倉庫で延々と話を聞くしかなかったのが、癒しになっているならばいいですが。

こんな方法があるとは思いもしませんでした。芦屋さんは本当に規格外ですよ」




 二人がなんかこそっと話してるけど、気にしないぞ。

俺は怨霊?の子達と遊ぶって約束したから、こっちに全振りするんだ。


「十!さぁ!探しに行くぞ!」



 一番小さな子を抱っこして、隠れん坊の鬼として子供達を探しに行く。

みんな上手に隠れてるな。ちょびっと服の裾が出たり、丁髷の先が見えてたりするけど。

 確かに結界は上手に出来たとは思う。

だって、みんな可愛いから全然怖くないし。


「あっ、目がおちてる」

「誰か落としたんだな。拾っておくか」

「うっかりさんだねぇ」

「ほんとだな」




 腕の中にいる子は3歳の男の子。

右腕が丸ごとなくて、肋骨が透けて見えてるけど笑顔が可愛い男の子だ。


伏見さんみたいに細い目をしているけど、ほっぺが真っ赤でりんごみたいだ。


 そうそう、山寺への参道が綺麗な訳がようやくわかった。


 先祖代々子供を生贄に捧げて来た子孫がそれを悼み、全てを預かってくれる真さんのために綺麗にしてくれているそうだ。


悲しい歴史の上に成り立つこの地の繁栄を理解して、犠牲になった命に報いようと寺のお仕事を手伝ってくれている。

日本の地方には沢山の因習があるけれど、こんなに多くの命が捧げられたのは当時の治水が及ばなかったからだ。




 颯人曰く、古代の神もまだ若かったし生贄ををよしとする風潮もあったらしい。


人の力が及びきれない時代の落とし子……それが怨霊となり子孫の幸せを祈った人の意に反する現実となってしまった、


誰が良い悪いと言い切れないし、今更責任を辿っても何の意味もない。

それなら、自分のできる事をしてあげたいと思う。




「あ!そこに太郎がいる。あっちに弥助も!」


「あはは!勇次郎は優秀な鬼だな。みーつけた!」


「見つかったー!」


「んふふ。さーて、後はどこかなー?」


 子供たちはみんな、体のどこかが欠けている。

亡くなる際の怪我がそのまま残っているが、真さんが長年の対話によって痛みを無くしてくれているんだ。


本当にすごいのは、真さんだと思う。俺なんか足元にも及ばないよ。




 その後も勇次郎の助けでほとんどの子が見つかったけど、最後の一人が見つからない。


コトリバコの生贄の一人だった正太郎だ。 


 コトリバコはホラー界隈の有名な伝説だった。

酷い迫害を受けていた集落の人たちが、それを覆す品物として外部から齎された物。


寄木細工の箱の中には無惨な方法によって殺された子の一部が入っていて、その折り重なった怨念によってコトリバコを手渡された人は凄惨な死を遂げると言われている。


呪いを受けるのは子供を産むことができる女性、そして小さな子だけ。

コトリバコにはランクがあり……snsでは『相手を殺す武器』としての過去が語られていた。




 これが日本古来の物なのか、海外から持ち込まれた物なのかは分からないけれど、持ち込んだ人でさえも『二度と作ってはならない』と認識していたような呪物だ。


当時の武器、と言うのが何を示すか。


 子供は人口そのもの、発展していく力であり宝だ。

それを潰すための武器がコトリバコだ。


 コトリバコは、子取り箱。働き手を、人口そのものを減らして村自体を滅ぼすという……他の集落を害するための道具だ。


今では考えられないけれど、子供たちは生まれた村を守る戦士でもあった。

お年寄りばかりになれば、攻め入る事も容易くなる。

 こんなに可愛い子達なのに、争いのために殺されたんだ。



 

コトリバコを作る際は……『出来るだけ恐ろしい殺し方』をしなければならないとされる。


俺が拾った目玉を持っている子は、全身をもがれ、苦しみながら死んだ子だった。

その恨みで人を殺してしまう力を持っていたけれど、それを無力化して今は怨霊になってる。

みんな……成仏できる日を待っているだけの、可愛い可愛い少年少女だ。


 こんな風になれるまで、真さんがどれだけこの子達を思って相対して来たのか。

真さんの話を受け入れられるようになるまで、犠牲者である子達がどれだけの悲しみを抱えて苦しんでいたのか。


……それを思うと、胸が痛い。




 七五三のお祝いは、昔の子が病や栄養不足で亡くなる事例が多かったからこそできた物だ。

三.五.七歳のお祝いすると同時に長生きできるよう神様に祈る行事だった。


『7つ前は神のうち』と言われていた通り、七歳になるまでは〝神様から預かった命〟と言われている。

颯人曰く『世の汚れを知らぬうちの無垢な魂だからこそ、呪いの純度が高く、怨念が強い』……と言うことだった。




「そこに腕がおっこちてる。あっちに足がある」


「ははぁ、正太郎は慌てて隠れたのかな?落とし物ばっかりだ」


「ううん。あの子はねぇ、見つけてほしいの。ずーっとずーっと、土の下にかくされてたから」


「……そうか」

「ぼくたちはみんなそうだよ。見つけてもらえるまでずっと、ずっとまっていた」


「ごめんな、ずっと待たせて。勇次郎も本当にいい子だな……」

「えへへぇ」


 勇次郎の頭を撫でると、赤いほっぺがますます赤くなって、微笑みが浮かぶ。


胸の中の痛みはその笑みによって優しい気持ちに変わっていく。この子達に癒されてるのは、俺の方だな。




 目の前にある茂みがカサッと音を立てた。俺が勇次郎を抱っこしてるから、指を咥えて正太郎が羨ましそうに見ている。


ほとんど体が見えてるな……寂しくなっちゃったか。


「正太郎、見ーつけた!」

「……み、見つかった!」


「ふふ、おいで。目玉やら腕やらおっことしてたぞ。ちゃんとくっつけて、今度は一緒に鬼やろっか」

「うん!」


 茂みから走り寄って来て、正太郎が足元に抱きついてくる。


膝をついて抱きしめると、小さな子特有の可愛い笑い声が聞こえて……俺は唇を噛み締めた。


━━━━━━




「これがタラの芽、あっちに蕗の薹があります。三つ葉に、そこの野蒜も掘っていきましょうか」


「よし、じゃあ皆で食べられるように沢山収穫しましょう!」


「はいはい、忙しくなりますねぇ」


「タラの芽は我が取ってやろう。背の高い枝もある。棘が刺さっては痛いからな」


「ありがとう。颯人、頼むよ!」

「応」



 颯人と真さんと、俺は背中に正太郎を背負って、散々遊んでくたびれたお昼寝組をお寺に残し山菜採りにやって来た。


冬の終わり、春の初めに生えてくる山菜たちがそれぞれ生えてる。本当に取り放題だな。




 俺は木の葉の間から芽を出した蕗の薹に手を伸ばし、戸惑う。


……こんなにニョキっとのびてたら苦すぎるかな。

本来雪の下からわずかに顔を出したくらいが食べごろなんだが、葉が開いて花が咲きニョキニョキ茎が伸びてしまって居る。


伸び切った蕗の薹は枯れてしまうから食べてしまいたいが、ここまでになると味が落ちて苦くなるらしい。




「あ、あのね。伸びてても、これは食べれるの」

「ん?そうなのか?花が開いて硬そうだけど……」


「違うの。くきの部分を食べるの。ふうきと違って二回ゆでなくて良いから、おっかあもよく食べてた」


「そうなのか!?知らなかった……正太郎はすごいなぁ、教えてくれてありがとう」

「うん!うん!」



 蕗の薹は花を食べる物だけど……そうか、こうなってるのは茎を食べるのか。


蕨みたいに根本からポキポキ折って収穫すると、蕗の匂いがしてくる。

爽やかな香りなんだが、味を知ってるからかほろ苦いような気がする。


 独特の匂いだけど、大人としてはたまらない。これをつまみにビールでも飲めたら最高だろうな。




「正太郎、蕗の薹は好きか?」

「ううん、好きじゃない。苦いもん」


「あっはは、そうだよなぁ。俺も子供の時は苦手だった。でもね、天ぷらにマヨネーズつけて食べるとあんまり苦くないんだぞ」


「まよ?なあにそれ」


「油と、卵、お酢を使った調味料だよ。みんなも好きだと思う。」


「卵に油……凄いねぇ、ぜいたくだね」


「そうだな。すごく贅沢なんだ。しかも、めちゃくちゃ美味しいぞ」


「わぁぁ……!」




 目がキラキラしてる、かわいいな。


 当時の子達にとっては卵も油も完全に贅沢品だ。後で作りたてのマヨネーズを食べさせてあげよう。


 子供は味覚が敏感だから、苦味の強い山菜はもしかしたら苦手かもしれん。

うっかりしてたな。

真さんと相談して、味付けを工夫するか。


「あの、あの……」

「ん?どした?疲れたか?」

「ちがうの、おいもお手伝いする」


「わ、本当か?お願いします」

「はぁい!」



 正太郎は手慣れた仕草で蕗の薹を摘み出し、あっという間に山盛りになった。


凄く手が早い……小さな頃から山に入っていたのだろう、サクサク摘んでどさどさ蕗の薹をカゴに入れていく。


 


「あっ!さんしょうがあるよ」

「何だって!?どこ?」


「ここ!こっちがめの木、こっちはおの木。実がなってる」


「山椒って雄雌があるのか??」

「うん、実がなるのはめの木だけ」


「へええぇ……これも採っていこう。みんなにはちょっと辛いかな?」


「お味噌と一緒にお母ちゃんが焼いてた。おいは好きだよ」


「山椒味噌か。お砂糖入れたら食べれるかな……正太郎も食べるか?」

「うん」



 二人で山椒の木から新芽と実を摘む。

指先から山椒のピリリと爽やかな香りがして、お腹が空いて来た。


これは夏から秋にかけての分類だけど、天変地異の影響で新芽だらけで生き生きしてる。

天変地異は山に入る人にとっては、本当に僥倖だな。




正太郎はひとしきり実を摘んで、山の下に広がる街を眺めていた。


――少し寂しそうな顔をして。


「えーい!隙あり!」

「きゃぁ!くすぐったい!!」


「んふふ、脇腹が弱点だな!こちょこちょ……」

「くふふ…んふ………………」



 正太郎をくすぐって、最初は笑っていたけどその顔がだんだん曇っていく。


 俺は何も言えなくなって、両手を繋いでおでこをくっつけた。

彼の大きな瞳から涙が溢れて頬に伝う。




「あ、あそこに、沢山人がいるね」

「うん」


「でも、でも……おいのおかあも、おとうも、いないんだ」

「……うん」


「おいは人を殺したけど、おかあたちに会える?いけないことをしたら地獄へ行くでしょう?

おかあと、おとうはちがうと思うの」



「そんな事ない。正太郎はお母さんとお父さんに必ず会える。人を殺したのは良くないけどさ、やりたくてやったんじゃないって分かってるよ」


「うん……」


「いけない事をしたその分、痛みも寂しさも抱えて頑張ってただろ?正太郎はすごい。本当に偉いんだ」


「……そぉ?」


「うん、地獄になんか行かせない。その時は、俺がちゃーんと送る。大丈夫だからね」




 うん、と小さく呟いた正太郎の濡れた頬を拭い、小さな彼を抱きしめる。


 人を殺したと言う自覚があるのが辛いな。真さんは怨霊の子たちがみな現世で贖罪をしている、と言っていた。



 自分の意思でなくとも他人を殺せばその罪を負ってしまうから、このままでは地獄行きになる可能性はある。

怨念が完全になくなれば贖罪は終わる。苦しみを耐え抜き、小太郎みたいにお迎えが必ず来てくれるんだ。


それを手伝っているのが真さんの本当の役割なんだと教えてくれた。


 俺は真さんのお仕事をこれからも手伝う。この子を送る時も、絶対に立ち会って……必ず天上に逝ってもらう。

真さんは『必ずできる』とずっと戦って来たんだ。俺はそれを信じてる。




「芦屋さーん!そろそろ戻りましょう!みんなお腹を空かせてますよ!」


「はーい!」


 自分の目からもこぼれた雫を拭って籠を背負い、正太郎を抱っこして山寺へと登っていく。


しがみついて伝わってくる、体温が切なくて悲しい。


胸の奥に浮かぶいろんな気持ちを押し込めて、可愛い正太郎を強く抱きしめた。



━━━




「味噌マヨネーズですか!なるほど、苦味を抑えるんですな」


「はい、塩だけじゃ抜けきらない苦味は砂糖で緩和できます。小さい子もこれで食べれると思いますよ」



「まよなんとかは白いね!」


「そうそう。卵を四つも使ったから、めちゃくちゃ贅沢だぞ?」


「すごい……どんな味なの?お酢を入れたから、酸っぱいの?」


「少し酸っぱいけど、きっと好きな味だよ。さあ、できた。みんなを呼んできてくれるか?」


「うん!」



 くっつきっぱなしだった正太郎が廊下をかけて、お昼寝してるみんなを起こしに行ってくれる。


 俺たちは本堂の脇の縁側に座布団を沢山敷いて、ご飯を並べていく。

真さんが出してくれた赤いお膳は一つ一つがしっかりした作りで、とっても綺麗だ。

お昼の豪華さがマシマシだな。




「芦屋さん、子供が好きですか?」


「そうですね……実は俺、施設育ちなんですよ。小さい子は好きだし、慣れてます」


「そうでしたか。お子様がいるのかと思いました。よく懐いていますよね……私よりも」


「そ、そんな事ないでしょう?長い間傍に居てくれた真さんの事だって、大好きですよ!」


「ぷくぅ……」


 目の前で頬を膨らませて、拗ねたような顔をしてる真さん。

年上だと思ってはいたけど……まさか五十歳過ぎてるとは思わなかった。


歳を聞いて冗談だと思えるくらいには若く見える。



 伏見さんと同期だから勝手に同年代だと思ったけど、陰陽師には年齢が関係ないみたいだ。

熟練の術師として裏公務員をしていたみたいで、結界を作る時の教え方もとっても上手だったし。


 褒められてばっかりで鬼軍曹だったなんて思えないんだけどな。とても優しい人だ。




「あの子たちは夜の時間にしか姿を現しませんでした。なかなか言う事を聞いてくれないんですから」


「ふふ。小さい子にはちゃんと自我がありますからね。怨念だった頃なら難しいだろうけど、真さんの努力の結果でこうなったんですよ。

みんな素直で、可愛い子です」



 真さんが手を止めて、俺の手を握ってくる。……手のひらを撫でて、俺の目を覗き込んで来た。


真さんには俺の過去も、見えてるみたいだ。




「私だけではありません。芦屋さんの経験した出来事が、子供達を素直にしている。本当の痛みをわかってくれる人だと理解して居るのです。

私はまだ未熟者だと自覚できました。あなたを見習って、精進します」


「真さんに言われると困るんですけど。俺こそ精進しなきゃなのに……」



 二人して手を繋いで見つめ合ってると、颯人が俺のワキをガシッと掴んで持ち上げる。

プラーンとぶら下がった体の横から顔を出して、真さんを睨んだ。




「これは我のばでぃだ。浄真にはやらぬ」


「そう言わず、半分ください」


「真さん!?半分はちょっと困りますけど!?」


「颯人様も芦屋さんもケチですね」

「いや、俺分裂できませんし……」


 頓珍漢なやり取りをして居ると、子供達がやって来た。

大きな子が赤ちゃんを抱いて、小さな子たちはみんな手を繋いでいる。




「子供は思って居るよりも大人ですね。子供扱いをしたいのは、大人の方です」


「そうですね。午後はみんなでお掃除しませんか?何となく、みんな動きたくてウズウズしてる感じがします」


「そのようですな。怨念もまた、人を動かす力になるのでしょう。芦屋さんにはいい事を沢山教わりました」



 満足げに頷かれてしまうけど、俺はただみんなと遊んだだけだ。


 でも、夜中に一人であの蔵のなかでじっとしてお話をするよりも……こうして陽の下で動いた方が健康には良さそうだとは思う。





「まさき!お腹すいた!」

「おなか、すいたー!」

「おひざにのる!」

「ぼくも、ぼくも!」


「んふ、順番にな。小さい子からだぞ?いただきますのご挨拶してからだよ」


「「「「はーい」」」」


 お行儀よく子供達が縁側に座り、それぞれが手を合わせる。

真さんに注目して……可愛いな、ちゃんと房主である彼の合図を待ってる。



「はいはい、では手を合わせて……いただきます!」


 みんなが「いただきます」と声を揃えて、お膳を持って俺の周りに集まった子供たち。

みんなマヨネーズに箸を突っ込んだ。


一口舐めて、目を見開き……マヨネーズばっかり食べてる。



「マヨネーズに山菜をつけて食べるんだぞ。おかわりはあるけど、正太郎が一生懸命採ってくれたんだから他のものと一緒に美味しく食べてくれよ」


「まよ、おいしい!」


「ふーきはにがいでしょ?ボク、ちょっとすきじゃない」


「マヨネーズにつけて食べてごらん、美味しいよ。蕗の薹はちょびっと苦いだけだよ。甘く煮てあるからご飯と一緒に食べて」


「……あーん」



「ふふ、弥助は甘えん坊さんだな。食べさせて欲しいのか?」


「ん。」


 俺の膝の上に一番乗りした弥助は口を開けて、お茶碗を差し出してくる。


蕗の薹を甘辛く煮付けたおかずを添えて口に入れてやると、まだ生えそろっていない歯を使って一生懸命もぐもぐしてる。

何度か口に運んでやると、満足したのか次々に交代してみんながお茶碗を差し出して来た。



「これ、子供たち、それでは真幸が食べられぬ。我の膝にも来い」


「……はやとに乗ってもいいの?」


「良いぞ。我の膝は真幸よりも大きい。皆まとめて乗るが良い」




 颯人があぐらをかいて、子供達を摘んで持ち上げ、膝に乗せる。


子供達がみんなお茶碗を差し出して、颯人がはじから次々に口の中にご飯を入れて……。

颯人こそ子供のお世話が上手だな。



「颯人様が子供に慣れている!?」


「我には子がいたのだ。子育てに手は出さなかったが、多少はやった。

 一度に面倒を見るなど容易いことよ。これは経験せねばわからぬだろう」


「はー、なるほど……では私も見習ってみましょう。

さて、浄真の膝には誰か来ませんか?一人では寂しくて食べられないですねぇ」


「ぼく、おひざに乗ってあげる!」

「じゃあボクも」

「あたしも!」


 


 俺たち三人の元へ均等に分かれた子たちは天ぷらや煮物、真さんが作ってくれた挽肉のそぼろ炒めを食べて、目を細めてニコニコしてる。



 きっと……俺たちが居なくなって、真さんが一人になっても、寂しくないだろう。


 朝から晩までこんなふうに賑やかなら、彼も楽しく暮らせるのかもしれない。

賑やかな食事に笑い声、優しいお昼の時間がゆったりと過ぎていく。



 忙しくてささくれ立っていた心も、疲労が蓄積した体も、軽くなるような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る