『』
NEINNIEN
語り
ようこそ、いらっしゃいませ。
ここでは私が一つだけ知っているお話をさせていただきたいのです。お時間が許せば目を通していただければ幸いです。
さて、これは私の友人の話なのですが、私の友人、ここではA太ということにしておきましょうか。
A太には趣味がありました。
その趣味というのが怪談でして、そういった話をするツアーには足繫く通い、ホラーゲームやホラー小説が発売されればすぐに購入し、ホラー映画があれば即日映画館へと足を向け、動画投稿サイトや小説投稿サイトとの怪談話が無いかと殆ど見られていないような作品まで目を通す程の怪談好きだったのです。
A太は怪談好きではありましたが、所謂心霊スポットという場所に行くことを嫌いました。心霊スポットというのは何か曰くがある場所であることも多いので、そう言った場所を荒らすのは忍びないという良心からか、それとも幽霊を信じており、彼等の悪意から逃げたかったという恐怖心からかもしれません。
その真意を知る方法はもうすでに失われているのですが。
さて、怪談好きという以外殆ど普通の男子大学生と言っても過言ではないA太ですが、その日も彼は何時ものように小説投稿サイトに登校されたホラー小説を読んでいたそうなのです。
その中で一つ彼の眼に止まったものがありました、タイトルは『ノンフィクション』とされている小説でした。それはA太にとって目を引いたのでしょう、多大なる期待の上でA太は小説を読み始めました。
ただその内容は、A太の期待に応えるようなものではありませんでした。
よくあるありきたりな話です、大学生になった男二人と女一人の三人組がいわくつきの場所に向かって肝試しをするというところから話しは始まります。
その中の一人の男の視点が話は進むのですがまずもう一人の男が悲鳴と共に消えてしまいます、そして次に女が悲鳴と共に消えます。そして最後に男が背後から感じる違和感に気づき振り返ると、血まみれになった女にどこかに引き込まれてしまい、三人組の行方を知る人は誰もいないといった、どこにでもある話でした。
もしもこれが読む人を引き込むような巧みな書き方や語り口であればA太も満足できたかもしれませんが、そうでなかったことは彼の表情が雄弁に語っていました。
普段A太という男は殆ど怪談に対して感想を残すことをしません、それは気恥ずかしさからだったり、面倒だったりと色々理由があるのですが、今回だけはその怪談に対して感想を書く気になったそうです。
それほど上げられたハードルから落とされたことに腹が立ったということなのでしょう。それは数百字にもなる長文だったのですが、ここでは彼の主な主張だけを述べさせていただくと、要するに『内容がありきたりであるし、語り口も斬新ではない。タイトルに反するオチも最悪。一気にフィクション感が強くなる。ノンフィクションだというならもっとリアルさを追求して欲しい』と言ったものになります。
そんな長文を送って、A太は一旦その溜飲を下げたのですがすぐにその感想に対して返事がきました。
すぐに読まれたことに若干の気まずさを覚えつつ、その返信に目を通すとそこには、
『オチが最悪というのはどういうことでしょうか、一気にフィクション感が強くなるという意味がわかりません』
と、書かれていたのです。
それに対してA太はすぐに
『全員が死んだならこの怪談が広まっているわけがないという事です』
と返しました。この時点でA太は若干の苛立ちを覚えていました。この程度の想像力もないのにホラーを書くなと、少々暴論ではありますがA太は本気でそう思っていたのです。
そんなA太の気を知ってか知らずか、すぐに返信が来ました。
『その理屈は理解出来ません。話を出来るものはまだいるはずです。小説を更新しましたので、そちらを読んでいただけると私の理屈を理解出来るはずです』
A太は半信半疑ながらその小説のページを見ました。すると確かに先ほどは無かったはずの二話目が更新されているのが分かります。
相手の理屈なんて絶対に理解できない、どうせどうでもいい屁理屈が書いてあるのだろうと思ってA太はそのページを開きました。
そのページには『この作品はノンフィクションです』と書かれていたのです。
それを視認した途端、彼が開いていたページに砂嵐が走ったのです。
これは何かがおかしい、ウイルスソフトでも入れられたのか、そう思った瞬間でした、女の顔が画面から飛び出してきたかと思うとA太は一口に呑み込まれてしまったのです。
A太を吞み込んだ女は満足げに、画面に戻っていきました。
その後は何もなかったかのように主を失った部屋がそこに取り残されただけだったのです。
これにて話はおしまいでございます。
何か納得いっていないような顔ですね。
ですが大丈夫です、次の話を読んでいただければ全て理解出来るはずですから、ええ、ぜひ、次の話まで読んでください。
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