第123話 いくらなんでも早すぎる
胡乱げな顔になる私だが、スタンはいつも通りにこやかだった。
にこやかに、当たり前のように、談話室のソファに腰掛ける。
…なんで隣に座った! 退け! いろいろあって有耶無耶になっているけど私はアンタにも怒っているのよ!
エヴァの隣も空いているんだからそっち座りなさいよ!
ちなみにお母さんは車椅子に座り、私が座っているソファの隣にいる。エヴァと対面で話していたから、お互いの隣が空いていた。
「だいたいはね。でも公爵夫妻のことは本人達で決めて欲しいから、これから時間をいいかな」
「だいたいでもまとまるのおかしいわ」
何こいつ、私と時間の流れが違ったりする?
「本邸への移動は時間がかからないから、大変申し訳ないが今から頼みたい」
「今何時だと思ってるの?」
すっかり日が落ちて後はもう寝るだけよ。やっぱりアンタ、私達と時間の流れが違うでしょう。
何より私としては、お母さんと公爵を会わせるの反対なんだけど。
だというのに私の渋面を見て、スタンは楽しげに笑う。何笑ってるのよ。
「よろしいですか夫人」
「ジェイラスとは話し合わないといけないと思っていたから構いません。むしろ機会を頂き光栄です」
しかしお母さんは真面目な顔をしてスタンに頭を下げた。私は不満な顔をして、そういえばこいつ王子様なんだっけ…と身分差というものを意識した。
確かに今後のことも考えてちゃんと話しておいた方がいい。公爵が祝福持ちかなんて知らないけど、持っていたら色々拗らせて呪いを送られちゃうし。怨念は呪いになる。ちゃんと覚えているわ。
「エヴァ、夫人を本邸にお連れして」
「…はい、お兄様」
「え、私が行くわよ。公爵がお母さんにまた変なことするかもしれないじゃない」
「いや、メイジーが行ったら会話にならない」
「ちょっと、誰が知性のない獣よ」
「思っていても誰もそんなこと言ってないぞ」
モーリス煩い。思っていてもって何よ。
「大丈夫。護衛はきちんとつけるし…何より、公爵はメイジーを見ると過呼吸になるくらい恐怖心を植え付けられているから、メイジーがついて行ったら本当に会話にならない」
「「えっ」」
お母さんと声が重なった。
スタンは楽しそうに、おかしそうに、愉快そうに喉を鳴らす。
「最愛の妻にそっくりな顔で本気で殴りかかってくるメイジーが余程怖かったんだろうね。普段の平常心がどこにも無かったよ。おかげで大変やりやすかった」
スタンの笑顔が、とても輝いている。
…やりやすかったって、何してきたのこいつ。
優雅に悪人面してるわ。
というかあれくらいでそんなことになるなんて、根性のない男ね。女の細腕で殴られた程度で大袈裟よ。
なんだかいつも以上に力がみなぎっていた気がするけど、所詮私はどこにでも居る田舎娘。人を殴って自分の手も痛める素人でしかない。
「お母さんに酷いことをしたくせにこの程度で怯えるなんて。男が女より痛みに弱いってこういうことを言うのかしら」
「メンタルは弱いわね…」
公爵のメンタルに
私に怯えるなら、お母さんに怯えられる覚悟を持って行動しなさいよね!
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