第67話

イザックにその時のことを聞いてみると「あの時はマグリットを助けようと必死だった」と答えた。

ローガンも言っていたが並大抵のことではない。

マグリットも改めて同じ道を通ってみるとそう思う。


イザックが助けてくれなければマグリットはどうなっていたのか。

イザックに感謝しながらガノングルフ辺境伯邸へ向かう。


今日は嵐が明けて天気がとてもいいようだ。

青空には太陽が輝いていて気持ちいい。

生暖かい風と懐かしい潮の香りが鼻を掠めた。


馬車がガノングルフ辺境伯邸に到着すると、馬車の音を聞きつけたマイケルとシシーが出迎えてくれた。

マグリットは涙ぐんで両手を広げるシシーの元へ。

再会を喜んでいるとシシーは「とても心配しました」と言ってマグリットを優しく抱きしめてくれた。


誰かが温かく迎えてくれる。

それがこんなにも嬉しいと思えた。


イザックはマイケルとシシーにマグリットの力のことを説明していく。

二人は驚いていたがマグリットがいる間、ずっと天気がよかったことや嵐がこなかったことで納得する部分もあったようだ。



「イザック殿下と同等の魔力量を持っているなんて信じられません」


「マグリット様が常日頃から大きな魔法を使っていたとは……驚きですわ」



シシーの言葉に自分が一番驚いているのだと言えないまま、マグリットは一週間ぶりに屋敷の中に足を踏み入れる。

王城での生活は煌びやかで豪華だったが広すぎて落ち着かなかった。

しかし、こぢんまりとした屋敷はなんだかホッとする。

マグリットはすぐにある場所へと向かった。


(味噌ッ!醤油ッ~~~!)


味噌と醤油が置いてある床下の食糧庫である。


(味噌は無事よね!問題は醤油、醤油がっ……!)


醤油の入っているビンを持ち上げると、層が分かれていることもなく腐っている様子もない。



「あれ……?」



マグリットが不思議に思いつつ首を傾げると、後ろから追いかけてきてくれたシシーが声を掛けてくれた。



「ショウユが入っているビンですが、マグリット様が毎日かき混ぜると言っていたので、毎日一度は混ぜていたのですが……大丈夫でしたか?」


「──シシーさんッ!」



マグリットは喜びのあまり思いきりシシーに抱きついた。



「ありがとうございますっ、本当にありがとうございます!」


「ふふっ、余計なお世話だったらと思ったのですが、こんなに喜んでくれるのならやってよかったですわ」



シシーはそう言ってマグリットの背を撫でてくれた。

後ろではイザックが「醤油が無事でよかったな」と言ってマグリットの頭を撫でた。


マグリットは飛び上がりながら喜んでいた。


(よかった……!魔力コントロールをがんばったご褒美かしら)


この醤油と味噌をじっくりと育ててローガンや王城の人たちにも食べてもらいたい。

そんな気持ちでいたマグリットはシシーを手伝いつつ、いつもの生活に戻っていったのだが……。



「今日も雨なのですね」


「例年通りだ」



マグリットが魔力のコントロールをうまくできている証拠なのだが、ガノングルフ辺境伯領にはずっとひどい雨が降り続いていた。


(なんだかとても久しぶりに雨を見る気がするわ)


マグリットは一定の範囲を晴れさせることができる。

まだ正式に範囲は特定できていないが、ネファーシャル子爵領ほどの広さならば余裕ではないかとローガンが言っていた。

マグリットが目を覚ましている間に無意識に空を晴れさせていたというから驚きである。

雨の強さや範囲で魔力の消費量も変わるそうだ。


イザックの婚約者になったもののマグリットのやることは変わらない。

貴族らしい生活をした方がいいかとイザックに聞くと「マグリットがやりたいようにすればいい」と言われたため、ガノングルフ辺境伯邸でマグリットは以前と同じ暮らしを続けていた。

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