第37話
イザックと共に屋敷までの道のりを歩いていく。
夕陽に照らされてイザックのオリーブブラウンの髪が輝いて見えた。
「イザックさんの髪、とても綺麗」
出会った時よりも短くなった髪は整えたからか以前よりも艶やかに見える。
急に足を止めたイザックに気づいてマグリットは振り返る。
こちらに腕を伸ばしたイザックはマグリットの髪を撫でるようにして一束掴む。
「マグリットの髪は太陽みたいだな」
イザックはそう言ってマグリットの髪を優しく撫でた。
いつからだろうか。イザックがこうして当たり前のようにマグリットに触れてくれるようになったのは。
「マグリット、俺は……」
イザックが何か言いかけた瞬間、遠くからマイケルがイザックとマグリットを呼ぶ声が聞こえた。
イザックがわずかに肩を跳ねさせて反射的にマグリットから距離を取る。
「マグリット様、イザック様……夕食ができましたよ!」
「マイケルさん!」
どうやらシシーが手料理を振る舞ってくれるようだ。
スキップしながら屋敷に戻るといい匂いが鼻を掠めた。
シシーが作った料理がテーブルに並べられている。
今日は四人でテーブルを囲む。マグリットはシシーの作ってくれた料理の数々を見て目を輝かせた。
ゴロゴロと大きく切った具材を煮込んだスープからはニンニクや赤ワインの匂いがする。
三種類のチーズやジャムが並べられて隣にはパンが置かれている。
こんがりとしたチーズの焼き目がついているキッシュに似た食べ物には、ベーコンや野菜が入っていて色合いもよく食欲を唆る。
ネファーシャル子爵家では自分で作った料理ばかり食べていたせいか、シシーが作ってくれた料理はどれも美味しくて感動してしまう。
口内に広がる懐かしい家庭の味に頬を押さえた。
「んんっ……!とっても美味しいです」
マグリットは次々と料理を口に運んでは「美味しい」と言い続けていた。
「たくさんありますからゆっくり食べてくださいね。マグリット様がそんなに喜んでくださってシシーは嬉しいです。イザック様はいつも無反応なんですから!」
「……すまない。どの料理も美味しいと思っている」
「ふふっ、冗談ですよ。ありがとうございます」
シシーは口元を押さえて笑っている。
「シシーさん、この料理のレシピも是非教えてくださいっ!」
「もちろんですよ」
イザックはいつも部屋で仕事をしながら食べていたそうだ。
マイケルもシシーも部屋に篭り、仕事ばかりしているイザックを心配していたらしい。
そんなシシーとマイケルにここ最近のイザックの様子を話すと二人は目を見張りながら驚いていた。
今もイザックが一緒に食事をしているのが珍しく感じるそうだ。
「マグリット様が来てくださって、屋敷も坊ちゃんも明るくなりましたわ」
「シシー、坊ちゃんはやめてくれ」
「あら、すみません!」
シシーは口元を押さえて小さく笑っている。
気を抜くとシシーはイザックを「坊ちゃん」と呼んでしまうらしい。
楽しい夕食はあっという間に終わり、満腹になって膨らんだお腹を撫でた。
片付けが終わる頃、イザックがマグリットに声を掛ける。
「マグリット、いいか?」
「食後の珈琲ならもうすぐ用意できますよ」
「いや、違う。マグリットが調味料を作りたいと言っていただろう?」
「……!」
「俺でよければ手伝うが」
「いいのですかっ!?」
マグリットは喜びから飛び跳ねそうになった。
「この力でマグリットの夢を叶えられたらいいんだが」
イザックがやる気になってくれたことがマグリットは嬉しかった。
それから今日、市場に行った際に大量にもらったあるものを取り出した。
「まずはじめに作りたいものがあって、こちらを使いますっ!」
「これは……麦か?それに豆や塩もあるな」
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