王様ロープレの召喚士は、異世界でも徹底します。

カンミドーナツ

第1話 誰に対しても不敬ですが?

「おぉ、 成功したか!」


 でっぷりと太った、身なりだけは着飾ったおっさんが、これまた見た目だけは派手な椅子から立ち上がり叫んでいる。


「はい、勇者召喚に成功しました、これでこの国は救われます。」


 おっさんに頭を垂れる聖職者と思わしき女が、そう言葉にすると、周りの甲冑を来た男たちが歓声をあげる。


 召喚をされた男は心の中でため息を漏らす。


「おい、ベルフェ、また貴様の仕業か!」


 黒髪黒目、整った顔立ち、中世の王侯貴族が纏うような黒で統一された装いをした、乙女ゲームの王子のような出で立ちの男が怒りを露わにすると、呼応する様にマントが靡く。

 先程まで歓声をあげていた者たちも、何事かと召喚された男の方に顔を向けると、その異様なオーラに気圧され、息を飲む。


「も、申し訳ありません勇者様」


 不穏な空気を察知した聖職者の女が、勇者の前に傅く。


「急にこのような場に召喚され、お怒りはご最も、しかしながら、どうか私めの言葉に耳をお貸しくださいませ、この国は」


「不要だ」

「え?」

「不要だと言ったのだ、二度も言わせるな、勇者召喚と聞いた時点で、とうせ俺に魔王を倒せとでも宣うつもりであろう?」


 男は心底どうでもいいと言った様子で女を見る。


「流石は勇者様、その通りでございます、この国は今……っ!」


 男の言葉に目を輝かせ続けようとするも、嫌悪感を示す男の空気に当てられ、恐怖で言葉が出なくなる。


「ベルフェ!茶番に付き合わせるな!さっさと出てこい!」


 またも叫ぶも、その声はシンとしたこの場に響くだけで、虚しく消えていく。


「あの、勇者様」


 この場を何とかしたいのだろう、懲りずに聖職者の女が語りかけるも男は最早聞く耳を持たない。


「そうかそうか、出てくる気は無いか……

 ならば、強制的に呼び出すしかないな?」


 空気が震える、勇者召喚を成した女はその異常さに直ぐに気付く、目の前に見えているのは魔力、黒く黒く、漆黒が男を包む、通常どれだけ魔力を編もうとも、目に見えることは無い、勇者召喚に膨大な魔力を使用した場合でも有り得ないのである、しかし、事実目の前で起こっている埒外の現象に震えが止まらない。男は先程呼び出すと言っていた、これだけの魔力を使って何を呼び出すというのか、そもそも私は何を呼び出してしまったのかと。


「「我望ム 理ヲ超エ 彼者ニ願ウハ現世ノ境界ノ破壊 漆黒ヲ糧ニ 盟約ノ使徒ハ此処ニ来ル」」

『ちょっ、ちょっと待った待った、待ちよりの待って待って辞めて止して待って!!痛い痛い痛い!!!』


 言の葉により高まった魔力が形を生そうとしている最中、どこからともなく悲痛な叫びが聞こえてくると共に、天井の一部がぐにゃりと曲がると、そこから、美しい金髪をサイドでひとつに結んだ、天使のような出で立ちの少女が顔を出す。


「オズさん、いや!オズ様!出てきたから!召喚止めて!」


 通常なら天使のような美しい顔が、見るも無惨な泣き顔と言っていいのか、表現に困るほどの顔で必死に訴えかけている


「「我オズマジオズオズノ名ニ於イテ希ウ」」

 しかしその必死さも虚しくオズと呼ばれる男は詠唱をやめない。

「おい!マジふざけんなし!出てきてんじゃん?やめろ言うてますやん?オマ!強制召喚が召喚される側にどんだけ負担かかるか知ってるだろ!止めて出ちゃう!何がとは言わないけど色々と出ちゃう!もう限界だから、ましで!ね!オイ!ホントふざけんなよ?私を誰だと思ってるの?神様ですよ?神!分かる?ドゥユーアンダースタン?ちょ、冗談じゃん?悪いと思ってるから、ね?お願い、お願いします!もう許して!何でもしますから!」


 やばいほど叫んでる自称神(笑)にオズは残念なものを見る目を向けながら、詠唱を中断する。


「うぇぶふぇっ」


 変な声を出しながら、空間からオズの目の前にぼとりと落ちてくる。


「呼んですぐ出て来なかった罰だ、どうせまた貴様のせいで俺は巻き込まれているのだろ?」

 呆れ果てた様子で目の前に落ちてきた自称神(笑)に問いかける。


「うぅ、違いますー、はい残念、ブッブー、今回は私のせいじゃありませんでしたー、はい謝って!すぐ私のせいにするの良くないと思いまーす、謝罪、謝罪を要求しまっぷきょはっ!」


 目の前で囀る自称神(笑)の顔を踏んずけ黙らせる。


「なるほど、”今回は”違うのだな、ならば俺がここに呼ばれている理由を聞かせてもらおうか」


 自称神(笑)の顔から足を退け、指を鳴らすと、豪華な椅子が現れる、オズはそこに座りふんぞり返る。


「ぐうぅぅ、いつもながら超不敬なんですけど!神の顔踏むとかアリエンティー!てかさっきから自称神(笑)って笑じゃねぇし!面白くねぇし!ベルフェちゃんに失礼すぎなんだけど!」


 ベルフェは勢いよく立ち上がると、ズカズカとオズの前に歩み寄り、顔を近づけメンチを切る。


「ふむ、俺は説明を要求したのだが、する気が無いのなら仕方がない、する気になるまで、もう一度強制召」

「すいません、話します、説明しますんで勘弁してください。」


 一瞬にしてオズの前に土下座するベルフェ、最早神としての威厳など微塵もない。


「今回は本当に私のせいじゃないんだよ、私の同期の女神にルーシーってのがいるんだけど、そいつがね!」


 ベルフェの説明を要約すると、

 この世界が危機に瀕してるから助けて欲しいと頼んできたルーシーに対して、

「えぇ?自分の世界も満足に管理できないとか、プークスクス、うちには最強のオズくんがいるからどうとでもなるのよね!え?貸してほしい?無理無理、まぁ、そっちで召喚出来れば別だけど、あんたの世界にそれ程の召喚士なんて居ないわよね!うちにはオズくんがいるけど!」

 と煽ったらしい。


「まんまと呼ばれてんじゃねぇか、死にてぇのかこの愚神?」


 ベルフェのこめかみをグリグリしながら持ち上げる。


「痛っ、痛い、違うんだよオズくん、通常呼べないはずなんだ、それをあの女、私に煽られたのが悔しくて、勇者召喚に干渉したんだよ、神の干渉は御法度だから、天界じゃ大騒ぎさ」


 ベルフェの言葉にオズはため息をつく。


「結局、お前のせいじゃねぇか。まぁ、何にしろ、今の状況が普通では無いのなら、俺は帰らせてもらうぞ」


 そう言って椅子から立ち上がる。


 しかし、それまで蚊帳の外で黙っていたおっさんも帰ると聞いては黙って居られない。


「ま、待つのだ!いや、困るぞ貴様を召喚するのに我が国がどれ程労力を使ったと思っておる!フィオナ!何とかせい」


 着飾ったおっさんは焦りながらフィオナと呼ばれる聖職者の女に命令する。


「アセム様、どうかご安心を勇者様は帰ることは出来ません、私めの召喚は魔王を打ち倒す事で元の場所へ戻す仕組みになっております、故に勇者様は魔王討伐無くして帰ることはございません。」


 それを聞いて着飾ったおっさん、アセム王は安堵する、しかし


「何を言い出すかと思えば、貴様風情の魔法でこの俺を縛れるわけが無いだろ、俺は帰ると言ったからには帰る」


 オズはそう言うと右手を横に伸ばす、それだけで勇者召喚に使われたと思しき床の魔法陣が呼応し、手の先にゲートが開かれる。


「そんな!嘘です!この魔法に私がどれだけの年月と犠牲を払ったと、それをいとも容易く扉を開くなんて!」


 有り得ない、しかし目の前で現に起きた出来事にフィオナは絶望する。


「まっ、待て、そうだ!王命だ!アセムの名において命ずる、オズとか呼ばれていたな、貴様、この国の為に魔王を倒せ!さすれば富と名誉を与えよう」


 アセム王はおっさんだのと言っていたが、この世界で最も強大なハイルハイト王国の王である。故にこの世界に置いてアセム王の命令は絶対と言っていい。


「断る、何故?俺が貴様の命令を聞かねばならん」


 呆れ果てた様子でオズはアセムを眺める。


「なっ!貴様だと、我を誰と心得」

「知らん!異世界から呼んでおいて知るわけが無かろう、阿呆か貴様は、貴様こそ俺を誰か知らぬから、その様な態度が取れるのだろ?」


 オズは指を鳴らす、すると先程の椅子の下に段ができる、2段3段と、アセム王の玉座より高く、その椅子にふんぞり返り、アセム王を嘲る。


「ふ!巫山戯るなよ!小童風情が!兵士共彼奴をあそこから引きずり下ろせ!」


 アセム王の命令に兵士達が動く、


「控えよ!俺こそが彼の鼠王!オズマジオズオズであるぞ!」


 言葉の重み、否、圧倒的な魔力の圧力により兵士は動けなくなる。


「な、何をしておる、さっさと奴を引っ捕えぬか!」


 大国の王だけありアセム王は一級品の装備を身にまとっている、故に強い魔力にも対抗できているが、兵士達はそうもいかない、もちろんこの世界屈指の実力はあるが、魔王が倒せず勇者を呼ぶ世界の兵士では動くことは出来ない。


「ふっはっはっ、情けないな貴様の兵士とやらは、格の違いを見せてやろう!「「我呼掛ニ応エヨ乙女タチ!」」」


 するとオズの後ろに数十の魔法陣が展開され、

 そこから世にも美しい女たちが現れる、その全てが、アセム王を超える宝具の数々で身を包んでいる。


「ははっ、あ、有り得ん」


 圧倒的な差、兵士による人数の差だけが支えていたアセム王の心がポキリと折れる。

 ゆっくりと玉座にへたり込むと、壊れたように小さく笑う。


「あ、あのぉ、盛り上がってるところ悪いんだけどねオズくん、ベルフェ的にはこの世界救って貰えないと、困っちゃうのだけど」


 申し訳なさそうにオズの顔を覗き込みながら、上目遣いで様子を伺う。


「一応、聞いてやろう。」


 椅子が少し高くなった事で、下から覗き込んでいるベルフェにはオズの表情がよく見えない、が、流石にキレているだろうことは予想できる。


「えっとね、天界規定的には、煽った私も同罪的な?だからこの世界を何とかする義務が発生してると言いますか?どの道オズくん頼りなんだよね!なんて!よっ!頼りになる最強の召喚士!鼠王!我らがオズきゅべろがシュ!」


 頭上から椅子が落ちてくる、まぁ、言わずもがなオズが座っていた無駄に豪華で重そうな椅子である。


「オ!マ!エ!は!そういう事はちゃんと言えと!いつもいつもお前と言う奴は!あぁそうだ!出会った時からお前はそういう奴だったな!」


 めちゃくちゃカッコ付けて相手の王様をメタメタにしてしまった後からのこの仕打ちに、強烈な目眩と共に昔の事を思い出す、俺がこの無駄に傲慢な喋り方のオズマジオズオズなんて巫山戯た名前の王様になる前のことを。

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