10 中二冬-4
その日、僕は家に帰るなり、早速レタリングに取り掛かった。
ほとんど開くことのない漢字辞典を引っ張り出し、彼女の名前を一文字ずつ
文字のバランスを整えるために
鉛筆で下書きを終えると、出来るだけ遠くから全体を見渡して、気になる所を修正していった。
僕は、彼女の名前をポスター用紙に書いているだけである。なのに、不思議と彼女をモデルにデッサンを行っているような、そんな感覚に
おそらく意味は全く異なるのだが、その時の僕には、その言葉がしっくり来た。
字体は
あの時、久しぶりに見た彼女は、可愛いという印象から、美しいという印象に変わっていた。文字として彼女を表現するのに、
『明るい選挙』の時は、明朝体ではなくゴシック体であったため、それほど難しく無かったが、明朝体は筆で書いたような
毎晩のように、遅くまで
依頼は名前だけで良いというものだったので、
僕は、この四文字に期限である一週間を全てつぎ込んでいた。後にも先にも、四文字をあれだけ時間をかけて書いたことは他に無い。
縦と横の太さのバランスで、印象は大きく変わる。選挙用ということもあり、印象に残るというのも大切である。ただ、彼女の印象と大きく異なるのは、僕個人として許容できなかった。
あの時、僕の記憶の中の彼女と、目の前に実在する彼女の、ほんの
書いても書いても、彼女に近づくことは出来ない。そんな気持ちを
やっぱり僕には無理なのだろうか。そんな思いが、次第に僕の心の中で
書いては修正し、書いては修正を繰り返す。
彼女に渡さなければならない締め切り前夜は、
正直に言って、納得できる仕上がりでは無かった。こんな状態のものを彼女に渡してしまったら、がっかりされてしまうかもしれない。そんな不安が
それでも、これまでの短い人生の中で、これだけ1つのことに集中して、こだわりを持って取り組んだことがあっただろうか。
出来栄えとは裏腹に、不思議な達成感のようなものも、少なからず
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