8 中二冬-2

 中学校に入学して直ぐ、同じクラス内に、ほんのりブラウン掛かった髪色をした女生徒がいることに気が付いた。


 勿論もちろん、髪を染めたりするのは校則違反だし、僕が住む田舎の当時の女子中学生で髪を染めている子なんていなかったから、遺伝的なものなのだろうと、そう思って勝手に納得していた。


 彼女と同じ小学校から入学してきた生徒たちも、そのことについて言及げんきゅうする者もいない。


 だから、初めての席替えでその髪色の女生徒が僕の後ろの席になっても、髪色について直接聞いたことは無かった。


 髪色は、入学当初と変わらずそのままだったが、少しだけ癖毛くせげがちで、ヘアピンで前髪をサイドにめていたはずなのに、今は無くなっている。


 ファッション的な知識は全然無いし、知らないから理由はわからないけど、髪質は僕が思っていたよりもくせは無くサラサラな感じで、肩口まで伸ばした髪を、片側だけ耳に掛けている。


 どちらかというと丸顔だと思っていたのだが、記憶よりあごのラインがスッキリしていて、すらっとした印象に変わっていた。


 瞳は、泣いているわけでもないのにとてもうるんでいて、彼女の下の名前は、本当に彼女のことを正確に表しているなって、彼女の瞳を見つめながら、そんなことを考えていた。


 二年近く同じクラスに在籍していて、ほぼ毎日一緒に生活している間柄だ。普通なら、小さ過ぎて気付かないような変化だと思う。


 けれど、そんな小さな変化に、僕は圧倒あっとうされていた。


 僕が知っている彼女は、あのイタズラっぽいあどけない少女のような彼女は、僕が知らない間に、大人の女性へと少しずつ変化していくのだと、漠然ばくぜんと当たり前の現実を突き付けられた気がしていた。


 彼女は、耳に掛けた髪と反対側に少しだけ首をかしげて、後ろ手を組み、肩をゆっくりとらすようなそんな仕草で、僕の返事を待っている。


 一緒に来た推薦人の子も、彼女の後ろから両肩に手を置いて、僕を覗き込むような形で、一緒に返事を待っていた。

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