第6話 スーパーヒロイン?

「よ、っと」


「ひゃわっ!?」


 狼狽えているルルさんにこっそり炎で作った糸を繋げる。

 温度は体温くらいにして気づかれないようにしたつもりなんだけど、もしかしたら感知の才能も結構すごいのかもしれない。


「自分以外の魔力を感じるってのは気持ち悪いかもしれないが、勘弁してくれな」


「え? え? え?」


 んー、適性はっと……まじか、全属性大丈夫か、うらやましすぎるぞ。

 いや、妬んでる場合じゃないな、クルス王子が頑張ってるけどそろそろ危ない。


「同調、開始」


「っ!?」


 改めてルルさんの保有魔力限界は並外れている。

 この分なら極炎としての魔法を行使しても問題ないだろう。


「う、ぁ……あつ、い」


「ごめんて」


 糸を通して魔力を送り込んでいく。

 当然魔法として編んだものをだ、熱いのはそのせいだろうけど我慢してほしい。


「フレア・ランス」


「あ、う、あぁぁぁぁあああっ!!」


 炎の塊、熱の杭がルルさんの手から放たれる。


「ぶもっ!?」


 放たれたフレア・ランスはしっかりとモンスターに突き刺さって。


「うわっ!?」


 上手に焼けましたってね。


「……これ、は」


 クルス王子含めたクラスメイト達が呆然としている。


「は、はわ……あ、あた、あたたたたた、あた、し!?」


 そんな中で一人、さっきより盛大に慌ててるルルさんはちょっと可愛いね。


 こんな雰囲気の中に空気を読まずに入っていくってのも微妙な話だ。

 エンリの手伝いに行って、小型のモンスターでも狩ってから合流することにしよう。




「ルルさんってすごいんだねっ! 極炎様みたいな魔法だった!!」


「そ、卒業後の予定は決めているのかな? ウチの魔法兵団に召し抱えてやってもいいぞ!」


「うえぇっ!? い、いやほんと、あ、あたしもわけわかんないんだけどっ!?」


 よっ、スーパーヒロインルル様ってなもんで。

 手土産にイノシシを狩ってから合流してみれば目の前に広がっていたのは注目の的なルルさんがいた。


「何事です?」


「あ、あぁ、ルージュ君。ちょっと危ないモンスターと出くわしてしまってね。ルルさんが、魔法で倒してくれたんだよ」


「へぇ」


 若干目が泳いでいるクルス王子がそんな説明をしてくれたけども。


「誤算だったって顔してますよ」


「っ!?」


 なるほど、クラスメイトと交流を深める。


「確かに、クラスメイト達の力量を測るってのも交流を深めると言えなくもないですね」


「……キミは」


「しがない魔法学院新入生ですよ。クラスメイトの窮地にのんびり狩りを楽しんでるような、ね」


 そりゃまぁ仲良くしなさいと言われてすぐに仲良くできれば戦争なんか起こらないわけで。


「……」


「そう睨まないでください、イケメンが台無しですよ。王子が何を考えていたとしても俺にはどうにもできないし、するつもりもないです」


「意外、だな。てっきり教師にでも報告するのかと思っていたよ」


「ご自分で仰っていたでしょう? 学友だって。俺にとってもそうです。少なくとも学院にいる間はお互い魔法を勉強する同志であり仲間です。なら、決定的な何かをするまでは友達で、友達を疑って過ごすのは趣味じゃないです」


 無駄に折衝なんか任されてしまったし、このあたりが落としどころだろう。


 何よりクルス王子の企みだとかに自分のリソースを奪われるのも嫌な話だ。

 いいからさっさと俺は回復魔法を勉強したいんだよ。


「そう、かい」


「ええ、そうです」


 あくまでも今ここにいるのは回復魔法を極めたいと願うルージュ・ベルフラウがいるだけで、極炎なんてヤツはいない。


 幸いエンリ……は別として、国のバックアップもあるみたいだし、極炎の出番はないだろう。

 必要に迫られたのなら仕方ないが、可能な限り今回のような形で介入するので精いっぱいだ。


 とりあえず。


「じゃ、俺もルルさんすごーいって言ってきますね」


「……ぷっ。それは流石に止めておいたほうが、いいんじゃないかな?」


 そうかな? そうかも。




「ルージュ様」


「あーいや、エンリ? クルス王子がどうたらこうたらって報告はいらないぞ?」


「では私の口を物理的に塞がれては如何でしょうか。もちろん、唇で塞ぐことをお勧めいたします」


「問答無用じゃないか」


 頼れる部下……頼れる? うん、頼れる部下であり現教師が学生寮に入ってくるのは如何なものだろうか。大丈夫? ちゃんと教師の自覚ある?


「ご安心を。動き方に関する指示は受けておりませんので」


「知らせること自体がどうかと思うんだけど?」


「どうやら引き抜き目的のようです」


「ほんとに問答無用だな!?」


 エンリってばお茶目さん! 今度荒稽古してやる。


「帝国に将来有望な魔法使いをって?」


「先の戦争は魔法使いの質の差で王国が勝利したと言っても過言ではありません。であれば、何年先になるかはわかりませんが、質を補おうとするのは自然な流れかと」


 理屈はわかるが気の長い話だ。


「そのためにわざわざ第三王子を寄越す必要があるか? 立場ってのは必要かもしれないけど、言ってしまえば負けた国だ、あってもなくてもだろうに」


「詳しい調査は極風様が継続して行っています。進捗は都度報告いたします」


 いや、だから回復魔法の習得に忙しくなるだろう俺に報告する必要ある?


「極風のってなら、疾風族が動いてんだろ? いいよ、どうしても報告する必要があるものだけで」


「……承知いたしました、そのように」


 まだ授業も始まってないってのに忙しないもんだね、まったく。


「だから布団に入らなくていい」


「嫌ですいけずです。ルージュ様を温めて温まりたいのです」


 学生らしい生活を送らせてくださいって話なのっ!!

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