第4話 想定外は続くよ何処までも

 戦争相手だったバラドーラ帝国の人間がトワイス王国の魔法学校に入学する。

 バチバチに戦場でやりあっていた極炎としては複雑な思いがあるけれど、ルージュとしては素知らぬふりというか、気にしないほうがいいだろう。


 何よりエスペラート魔法学院の在校生たちが変に意識しているわけじゃない様子なのだ。

 そのあたりも複雑と言えばそうだが、言ってしまえば勝者としての余裕とでも言うのか、懐の深さを見せつける好機とでも思っているらしい。


 ただ、まぁ。


「新入生代表――クルス・ハレオル・バラドーラ」


 流石に留学生と言える人間を新入生代表にするのはやりすぎなんじゃないかとは思う。


 確かに、帝国からの留学生たちは心中穏やかじゃなかっただろう。

 懐の深さを見せつけるってのは、上から見下すということでもあるのだ。


 エスペラート魔法学院には貴族を含めたお偉い様の御子たちが多くいる、腹芸の丁度いい練習相手として捉えたんだろう彼ら彼女らは。

 だが、露骨とまでは言わないが、少し帝国からの人間たちには申し訳ないと思ってしまうほどには態度に出てしまっていた。


「ね、ルージュ君。クルス君って、すごい人だったんだね」


「王族を凄いの一言で片づけられたルルさんのほうが凄いと思うよ」


「そ、そんなぁ……えへへ」


「褒めてるわけじゃないよ?」


 イケメン、もとい帝国の第三王子、クルス・ハレオル・バラドーラ。

 そんな立場に対して配慮をしなければならないってのはわからないでもない。

 友好条約を結んだ相手、戦争で発生した賠償なんかとは別に、今後は仲良くやっていきましょうとした相手の取り扱いは頭を悩ませることだろう。


「国同士の問題に一介の学生連中を巻き込むなって話なんだけどな」


「え? ルージュ君? どうしたの?」


「仲良くできればいいなってね」


「そう、だね。戦争は終わったんだもん、手を取り合えたのなら、素敵だよね」


 まったくもってその通りだ。

 戦争は終わった、終わらせた。

 これからは殺しあい奪いあう時代じゃなく、手を取り合って傷ついたものを癒し、治していく時代になったんだ。


 そうじゃないと死んでいった者たちが浮かばれないし、回復魔法を極めると志した俺の意志が無駄になる。


「あぁ。そういうことで、今後ともよろしく。クラスメイトのルルさん」


「うん、よろしくね! ルージュ君!」


 そう思うなら新入生代表の挨拶くらいちゃんと聞いてやれという突っ込みはスルーの方向で。




「やぁやぁ! あの時以来だねルージュ・ベルフラウ君っ!」


「はぁ、ご機嫌麗しゅうクルス王子」


「ややっ! そういうキミのご機嫌が良くないね! 折角の新たなる門出の日だというのに! あぁそれとクルスと呼び捨ててくれたまえよ! 同じクラスの学友だ! 立場など友情の間に挟まるべきではないとも!」


 俺ってばこの人といつ友達になったっけ? というかとてもうるさい、顔面もキラキラしてて目にうるさい。


「俺に、何か御用でしょうか?」


「つれないねぇ? 優秀な魔法使いの卵と仲を温めようとするのは自然なことだろう? フェニックスが眠っている卵だというのなら尚更」


「随分と買って頂けているようで」


 入学初日だからか簡単なオリエンテーションだけで今日は終わり。

 午後からの予定は空いているが、俺としては王立エスペラート魔法図書館に向かいたいところ。


「それはそうだろう。見たよ、キミの実技試験。見事な火炎魔法だった」


「ありがとうございます。ですが、大したことはしていない、というよりは出来ていないつもりですが」


「謙遜はよしてくれよ。木でできたカカシを燃やすどころか焦がすことすらなく炎の鞭で拘束する、なんて。相当以上に魔力の操作が秀でている証拠だ」


「買いかぶりというものです。単に燃やせる、焦がせるほどの炎を生み出せなかっただけですとも」


 うーん、目の付け所がシャープなことで。


 実際、試験官はあのフレイム・ウィップを見て俺に対し出力は低くとも、魔力操作に関して飛びぬけた才能を持つ人間と評していたとエンリから聞いている。


「ご丁寧に蝶々結びまでしていたのに?」


「威力が低すぎるからこれくらいしないとって思っただけです」


 単純に目が肥えている人に認められるってのは嬉しい話ではあるけど、火炎魔法を見事だと評されても仕方ない。


「なるほどなるほど。で、あれば今から一緒に森狩りでもどうかな?」


「何が、であれば、なのか全く見当つきませんが、お断りします」


 だから俺は国が誇るエスペラート図書館で回復魔法に関する書物を漁りたいんだっての。


「ルージュ君、行かないの? 何か用事ある?」


 王子様の後ろからルルさんがひょっこりと。


「王立図書館に行こうと思っててね」


「え? で、でもあそこ、入館許可証がいるよね? ルージュ君、持ってるの?」


 ……あ、しまった。


「ほほう?」


 きらんと目を光らせたイケメン王子はともかくとして。


 忘れてた、一般人は入館に許可が必要なんだった。

 エンリを通じて既に発行してもらってるなんて言えないぞ。


「そ、そうだったんだ。入館許可がいるのかー。だったら、許可証なんて持ってないし行っても仕方ないな、行きたかったんだけど」


「つまり予定は未定になってしまったと言うことだね! 良かった良かった! ならば是非一緒に行こう! これでこのクラスは全員参加となったね!」


「え? ぜ、全員?」


 ぱっと周りを見渡せばなんともまぁいろんな表情が。

 帝国の王子とお近づきになりたいとか、自分の器や実力を見せつけたいとか。


 うわー……すごく行きたくない。

 行きたくないけど、これは断れないか。


「はぁ……わかりました、ご一緒します」

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