第11話



 多くの転生もののように魔力を鍛えたりする方法は判らなかった。

 今日の今日まで自分から能動的に積み重ねて来たと言えるものは何一つない。

 今日までは全て与えられたものを、ただ口を開けて食んでいただけだ。


 結果は判っている。

 

原作で知っているから?


否、俺は地獄で超越者から力を授かったからだ。


恐らく只人を超越した者。

半神とか精霊とか、神の子そう言う超常の存在に近いのだと思う。


それが判明することを初めて怖いと思った。


両親と周囲の大人を一別する。



化け物と言われたらどうしようか?



 そんなことを考えると風が吹いた。

 サラサラと砂のように手から零れ落ちる髪の毛は空を舞って護摩に自らくべられるように

 そして、父親がその髪を火に焚くべた瞬間それは起こった。


 太陽が落ちた。

 より正確に言えば二つ目の太陽が現れた。

 「光あれ」唯一神が仰られたと言う言葉を想起させる光は全てを飲み込まんと輝いた。

 そんな陳腐な独白が脳裏を過った。


 咄嗟に手で頭を覆いながら回転し地に伏せる。

 身を投げるように、五体投地とでも言うのだろうか? 


 数泊遅れて轟音が轟いた。

 つまり大爆発が起きた。


 しかし、一定以上の爆風に伴った熱風は来なかった。

 炎は全て火柱となって上へ上へ吹き抜けまるで天を焦がすようだ。



「安全装置が発動しやがった!」


「第一から第八結界が焼失・・残るは四枚のみです」


「対妖魔用と目くらましを除けば残り二枚か……」


「このまま燃え上がれば、結界を焼き切れば羽田空港にも影響が出かねません」


「第特別位階、国際規格SS級相当で呪力出力の超一級……天呪てんじゅなんてこの子には必要ない天然の特異点産まれながらの強者


「時代が動くぞ……」



 誰かがポツリと呟いた。

 

 正直そんな期待をされても困る。

 超越者から力を貰いはしたが俺はただの人間だ。



हुंウン!!」



 突如現れた男の呪力は風船のように爆発的に膨らむ。

 たった一言で見上げれば首が痛くなるような炎は霧散した。

 昔教育テレビで見た爆風消火を呪力で行ったようにも見えた。



不動明王火界咒ふどうみょうおうかかいしゅもかくやと言う業火だ」



 そこに居たのは疲れたオジサンとしか言いようのない中年だった。



「改めまして安倍一門40代目当主安倍晴明あべのせいめいだ」


「せんねんまえの?」


「世襲と言って昔の人に肖ってる……有名な方が威厳あるでしょ?」


「なるほど……」



 確か御三家の内、土御門と倉橋は安倍・・晴明の子孫。

 そして目の前にいる中年は安倍一門・・40代目当主と名乗ったそして世襲名であるとも……


もしかして最強クラスの降魔師だったりする?



「理解が早くて助かるよ」


「さて……吉田の次男。なんで早く止めなかった?」


「……こうなるかもしれないとはうすうす思っていた。今日初めて俺は式神術と呪力操作を教えたのにもかかわらず、勇樹ユウキは数時間で使いこなした」


「……天賦の才だな」


「呪力量だけなら仙人や神使しんしを超えている。問答無用で第特別位階、国際規格SS級だ。吉田の家格には見合わない不世出の天才だな」


「産まれて間もない頃に吉田の秘祭を行っておりますので、そのせいかと……」


「確か……百年以上前に廃れた……」


「通称『赤子殺し』……」


勇樹ユウキはその秘術を受け、生還した」


「吉田テメェ!」



 倉橋父は父さんの襟を摑み絞り上げる。



「……」


「仮にも自分の子だろ! 一般人の感覚に比べれば女子供の命なんて軽いだけどよぉ! 俺は気に食わねぇ」


「――俺もそう思う」


「だったら何故『赤子殺しの秘祭』を行った?」


「兄と妻曰くあのままでは死んでいたらしい」


「今はその説明で納得しておいてやる」


「折角生き延びた逸材だ無駄死にさせるんじゃないぞ?」


「誰にモノを言っている俺の息子だぞ?」


「……そりゃそうだな……キツイ言い方して悪かった。同年代の子供を持った親同士としてこれからは仲良くしような」


「……勝手なことを言う」


「手始めに上層階にあるバーに呑みにいかない?」


「懇親会があるだろう?」


「一杯引掛けるぐらい問題ないだろう?」


「吉田諦めろ。コイツはそう言う奴なんだ」



 勘解由小路かでのこうじ父が何か諦めたように呟く。


「娘居るし、俺にも参加権あるな」と安倍晴明までも参加を表明する吞みに、妻達は否定出来ずに送り出すしかなかったようで、帰りの廊下やエレベーターでは不満大会が始まった。



 愚痴もある程度言い終わった頃、倉橋夫人が話題を変える。



「そう言えば、吉田さんのところは『許嫁』は決めているのかしら?」


「いえ、まだ決めていません」


「第特別位階の男児が産まれたとあれば、協会の御老人達は浮足立つことでしょう。特に公家……陰陽道系の降魔師こうまし霊器れいき神器じんぎなど、ただ用いるだけで効力の増す道具を武家の下法と毛嫌いしていますし……」


「……」


「産まれた子は弱くても第三~四位階相当。全世界的に霊力が低下傾向にある現代では、正に種馬として世界に吉田の血が世界に羽ばたくことになります。まるでサンデー〇イレンスやディープ〇ンパクトのように……」


「つまり、そうなりたくなければ自分達に組みしろと?」


「旦那達もそう言う話をしていると思うわよ?」



ここで黙っていた。和装の勘解由小路かでのこうじ夫人も参戦する。



「土御門、倉橋、勘解由小路かでのこうじと二大宗家の有力者は揃っているじゃない。居ないのは幸徳井かでいと新興の鳥羽とば家だけよ」


「どうするつもりですか?」


「多分だけど吉田家への要求は土御門、倉橋、勘解由小路かでのこうじの三家から嫁を取り、吉田勇樹よしだゆうきを家長にすることかしら? まあ幸徳井かでい鳥羽とば他の家からも介入はあると思うけど……」


「許嫁にしてくれればそこら辺の面倒ごとは皆さまが対応してくださると?」


「簡単に言えばそう言うことよねえ?」


「私達の娘にもメリットのあるお話ですから……」


「理由をお話いただけますか?」


「何人もの著名な預言者や星読みが予言されたのよ。曰く『運命を背負った童あり。そして大いなる災いを払うであろう。ただし力ある同士と協力せねば成し遂げる事叶わず。より大きな災いが日の本を襲うであろう』と……」


「そして土御門、倉橋、勘解由小路かでのこうじの娘は全員が高位の『生成り』利害の一致と言う奴です」



ん? 原作でそんな話あったっけ? まあ今名前の挙がった家の殆どは登場しないんだけど……



「……今は折れるしかないようですね」


「悪い様にはしませんよ差し当たって長期休みには四家合わせて子供を遊ばせ仲を深めさせようではありませんか?」


「春は花見、夏は海と山で、冬はスキーと子供も楽しめるレジャーは多いですから男尊女卑の降魔師の妻として息抜きも必要でしょう」



 コレが俺達三人が初めて出会った日の出来事だ。




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