第15話
呪符を作らされるのが二番目の試験。
そして三番目の試験は……
「まさか術比べとは……」
広大なフィールドに立っているのは俺と彼女だけ。
「天才と称される吉田に相手して貰えるとは嬉しい限りだ」
「それはどーも」
「祖神を日之精
「
「その通り霊体、実体問わず使役していてね。各地にある花鳥園や鳥の飼育員、焼き鳥屋は、我々鳥使いの家がやっていることが多い」
鳥使いだから鳥に関わっていることが多いのだろうか?
「私を含め一族の中にはどうしよもない使い手も居てねぇ私はメジロしか操れないんだ」
「……もしかしてハシビロコウしか操れない人もいるんですか?」
「ん? ハシビロコウはいないけれどペンギンだけの人はいるね。飼育員としてペンギンの繁殖に努めているよ」
日本でペンギンが増えている理由はお前らかよ!
「海なら無敵に近いのでは?」
「確かに……幽霊船なんかの対処には便利そうだ今度打診しておくよ。さてそろそろいいだろうか?」
「どうぞ」
腰を落とし足を開くと木刀を正眼に構える。
「天まで昇れ
「オリジナルの呪文!?」
詠唱が終わると、ゴウゴウと音を立ててメジロは炎を纏うその姿はまるで小さな不死鳥のようだった。
火行の業火を纏いし雀ほどの大きさな小鳥は、勇猛果敢に突撃する。
呪符を投げ呪文を唱えた。
「
発動したのは、近接戦闘を得意とする武家系の陰陽師にとって、基本中の基本『身体能力強化』の術だ。
身体能力強化の術意外を使うことなく、呪力を込めた木刀で攻撃を捌く。
態勢を立て直すためか、呪力を補給するためかは判らないがメジロは一度術者の元へ戻る。
「やはり
自身の手でメジロを投擲し足りない速度を補う。
それに加え回転を加えることで安定して飛び立つ。
二重……否、三重の加速によって飛翔するメジロの速度は数十倍にも跳ね上がる。
流石に不味い。
刀身が届く間合いより二倍ほど長く呪力を巡らせ簡易的な結界を敷く。
武家系の術師の本質は、対人と対魔。守りと攻め。と言う相反する二つ。
呪術は暗殺にも用いられてきた。
結界と言っても、メジロの攻撃から防御するような防御力も無ければバフやデバフ効果がある訳でもない。
侵入者を探知する赤外線のような簡素なモノ、それ単体では殆ど意味がない。
しかし、刀剣と呪術を融合させてきた技は立てではない。
「
猛禽のように高速で襲い掛かるメジロを横凪一閃で迎え撃った。
カン!
まるで金属同士がぶつかったような甲高い音を周囲に響かせ、木刀とメジロは激突する。
雷光の如き神速の一閃は、例え刃の無い木刀であろうとも一撃必殺の凶器に変える。
「ピギャ」
鳥は小さく泣いた。
呪力で強化されようとも所詮は鳥。
スポンジのような骨ではさぞ辛かろう。
「よくもピーちゃんを! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
ギチギチと何かが軋む音が聞こえた。
「巡礼者よ駆け抜けろ!
隠し持っていたメジロがどんどんと飛んでくる。
思考できる生物だけあって、一直線に飛んでいく優等生や回避運動を予測して先回りする秀才、敢えて目立つ劣等生とまるで板野サーカスのようだ。
水気や火気、木気が転じた雷を纏いながら飛来するメジロを捌いていくも技だけだと限界が来る。
「殺さないようにするのも骨が折れる……」
「舐めやがって! ピーちゃん来い!」
「俺に鳥殺しを差せる気か?」
「本気で取りに行く! 燃えろ上腕二頭筋!
「全てを重ね掛けするだと!?」
「この技はただでさえ肩と脚に負担が掛かる。だがこの全部乗せの負担は全身に及ぶ……」
投鳥による回転と加速。
だがしかし、それは先ほどまでと比べ物にならないものだった。
それに加え木気で身体能力を強化し、火気と水気で爆発を起こし加速する。
来る!
木刀を振るうがその速度は凄まじく、剣を振るう速度が最高潮に高まる前、腕が伸びきる前に衝突した。
ゴン!
先ほどの金属同士がぶつかったような甲高い音ではなく、重たい物同士がぶつかるような鈍く身体の芯に響くような音を周囲に響かせ、両者は激突する。
雷光の如き神速の一閃であろうとも加速しきる前であれば、ただの早い横薙ぎと変わらない。
重い。
雀サイズの鳥が持っている質量ではありえないその重さは、速度だけではなく術者の想いまで乗せ運んでいるのだ。
「――
呪力が収束し弾け、僅かにメジロを押し返す。
「く……」
式神使いや術師タイプは後方で待機していることが多い。
だがこの術者は違った。
全速力で走ってくる。
「その破天荒さは別世界へ――」
呪文を唱え二種類の印を組んだ瞬間。
一瞬、術者が消えた。
完全な隠形。
この術者ではあり得ないほどの術の練度に俺は驚愕した。
【
休載漫画の「制約と制約」や、同じ少年誌の「縛り」のようにこの世界にも類似する技術が存在する。
俺は常々疑問に思っていた。
どちらの作品も自分で自分と約束をしているだけなのに何故力が上昇し破るとペナルティーを負うのかと…… 契約違反を判定し罰を執行するのは誰なのだろうか?と……某国家錬金術師のように心理の扉に奪われるのだろうか? 違うこの世界ではそれは神々が行う。
祖神や自身が信奉する神に誠の誓いを立て、メリットとデメリットを背負い対価に等しくなるように調整される。
例えば手印や経文・聖句を読み上げたり、符などの物品を媒介に術を発動させることで発動する術もこの【
神契は文字通り神と人との契約。
基本的に一柱と一つづつ結ぶものだ。
ただし祖神と祭神のように、複数の神々と契約を結ぶと言う裏技が存在する。
吉田家で言えば祖神は
吉田家が使う呪術。
神の血――『
そんな走馬灯染みた事を思い出している間に、術者はワープしたかのように突然現れた。
三段飛びの要領で軽く助走を付けながら叫んだ。
「――
刹那。
呪力を纏ったドロップキックが飛んでくる。
呪力を纏った蹴り、喰らえばただでは済まない。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン!」
火球が現れメジロの奏者へ向けて飛ぶ。
術者が意識を失ったことで術は解けメジロはただの鳥へ戻る。
「雑魚かと思えば案外強いな……道具揃えてくればよかった……」
もしかして、「
ならばこの威力も頷ける。
こうして俺は何とか降魔国家試験に合格し晴れて一人前の降魔師になった。
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