第3話 スキル『回復』はもはや普通に魔法なのであった

【赤江ジン】

 レベル:26 体力:23 走力:16 知力:37 精神力:30

 スキル:跳躍 奪取 神速 回復


「はっ?」


 朝の鑑定にて、異様な結果が浮かび上がり僕は目を丸くした。

 スキルが……2つ増えているんですが……

 昨日まで僕のスキルは『跳躍』『奪取』の2つしかなかった。

 残りの2つに関しては今朝急に覚えていた。

 ていうか、この2つって紺野さんと同じスキルだよな? え? なんで僕も同じスキル憶えているの?

 スキルに関しては跳躍事件のトラウマがあるので今後も使用するつもりは一切ないのだけど、さすがに気にはなる。


「(やっぱスキル無視し続けるのも限界があるよな……)」


 決めた。

 紺野さんと話をしよう。

 彼女ならスキルについて色々知っているかもしれない。


 でも紺野さんと話したことないんだよなぁ。

 腫物状態の紺野さんと話をするだけでも目立ってしまいそうだ。

 どうしたものか。








 体育。

 今日の授業は持久走。

 男女混合で校舎外周をグルグル回るだけの授業内容である。

 僕はこのタイミングで紺野さんと話をすると決めていた。

 紺野さんが一人になったタイミングで僕は彼女の横に並走し話しかける。


「ねえ、紺野さん。ちょっとお話いいかな?」


「…………」


 紺野さんはチラッとこちらを一瞥するとすぐに視線を正面に戻し、突き放すようにスピードアップした。

 うわ、あからさまに無視してきたよ。普通に傷つくんだけど。

 僕も負けじとスピードアップし、再び並走する。


「その……レベル鑑定球に関する話題でもあるのだけど……」


「…………」


 一瞬眉がピクッと揺れたが彼女は再びスピードを上げる。

 どうして無視を徹底するのだろう。僕嫌われる真似したかな?

 でも負けない。こちらもスピードアップだ。


「さすが走力21は伊達じゃないね。こっちは結構全力で走っているんだけど」


「…………ていうかなんで着いてこれるんですか」


「僕も結構走り込みはやってきたからね」


「……そですか」


 心底興味なさそうに会話を中断すると、紺野さんは更にギアを上げて僕を突き放しにかかった。

 早すぎ!?

 持久走で出すスピードじゃない。

 ていうか短距離走選手以上のスピードで走ってない? この子。

 僕の走力は16に対し、紺野さんは21。

 「5」の差がどれだけ大きなものか、僕は身に染みて知っている。


「ふんぬ!!」


 これ以上引き離されないよう足を懸命に回す。

 地面を蹴る足に更なる力が籠る。


 流れる景色が高速化される。

 自分の動きが人知を超え、アッサリ紺野さんに追いつくことができた。


「それ……スキル『神速』!? 嘘でしょ!?」


 知らぬ間にスキルを発動させてしまっていたらしい。


「や、やば、とまら、止まらないぃぃ!!」


 僕はまたもスキルの制御を見失ってしまい、高速スピードで木に激突してしまった。

 紺野さんが心配そうに駆け寄ってきてくれる。


「た、大変! スキル『回復』を――って、そうだった。私、スキル無くなっちゃってたんだったぁぁ!」


 す、スキルが無くなった?

 って、それどころじゃない。腕と鼻からドクドク血が流れ出ている!?


「こ、紺野さん! スキル『回復』のやり方教えて!」


「えっ!?」


「教えて!!」


「は、はい!!」


 僕の必死さに圧されてか青戸さんがスキルのやり方をレクチャーしてくれる。

 彼女の指示通り手を動かすと、やがて手のひらから薄緑色の光が生み出される。


「『神速』だけじゃなくて『回復』まで……どういうことなの?」


 生み出された光を怪我した箇所に当てるだけでみるみる傷が塞がっていく。

 僕は初めてスキルをしっかり使いこなせた。


「貴方、名前は?」


「名前すら憶えられてなかったんだ……んと、赤江ジンです」


「そ、ジンくん。貴方、どうしてスキルが使えるの?」


 ナチュラルに名前呼びしてきたな。

 悔しいからこっちもそうしてみよう。


「たぶんトワさんと一緒だよ。僕も持っているんだレベル鑑定球」


「そうだったのね。だから私と同じスキルを使えるんだ」


「いや、『神速』と『回復』が使えるようになったのは今日からなんだ」


「はっ?」


「いやぁ、僕も意味不明だったんだけど、朝起きたら新スキルが追加されていてさ。トワさんと同じスキルが僕も使えるようになってた」


「な、なによそれ!? こっちは今朝から急にスキルが使えなくなっていて絶望していた所なのに!」


 僕とは違って彼女にとって『スキル』は大切なものだったのかもしれない。

 ショックで落ち込んでいる状態だったのなら無視され続けられたのにも理由が付く。


「……ねぇ。ジンくん。ちなみに聞くけど、貴方他にもスキル持っていたりしない?」


「うん。『跳躍』と『奪取』」


「だっしゅ……って走りこむ方のダッシュ?」


「いんや。奪い取る方のダッシュ……だ……け……ど……」


 あんれ?

 スキルが使えなくなったトワさん。

 スキルが増えた僕。

 これって誰かさんがスキルを盗んだという可能性あったり……?


「おのれのせいかああああああああ!!」


「ごめんなさい!?」


 トワさんのスキルを盗むなんてそんなこと故意にするわけない。

 でもスキルって発動条件謎な所あるんだよなぁ。

 無意識のうちにトワさんのスキルを『奪取』していてもおかしくない。

 ていうかそう考えるのが一番つじつまが合ってしまう。


「返せ返せ返せーー!! 私のスキルを返せーー!」


「か、かかかか、返したいのはもちろんなのですが、その、どうやって返せばいいのか見当がつかず……」


「いいから返せ――!!」


「ごめんなさいぃ!?」


 ガクンガクン身体を揺さぶってくるトワさんと体操服が血まみれの僕。

 結局クラスメイト達から注目が集まってしまう結果となってしまうのであった。

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