2、ちょっとだけ脱線を許してほしい

 ちゃりちゃり言ってる最中だけど、このまま「ある時、お姉様に激しく拒絶された」お話をしてもいいだろうか。

 

「ひっく、ひっく……ぐすっ」

 

 お姉様は病気がちで、儚げで、露出を抑えた慎ましい服装を好む。

 お姉様は頭がよくて、みんなに愛されている。

 世間からの評判もいいし、両親もよくお姉様のお部屋を訪ねたり、お部屋に呼んだりして、明らかに私とは違う扱いだ。

 

 ちなみに、私とお姉様のお部屋は隣同士で、壁は結構薄い。音がいろいろと聞こえたりする環境だ。それで、よくお姉様の泣き声をきいていた。

 

 そのとき、私は5歳くらいだっただろうか。自分の部屋で寝ていた私は、お姉様が泣いている声で目が覚めた。ああ、またお姉様が泣いてる、と思った。


 人の泣き声は自分まで悲しい気持ちになって、そわそわしてしまう。

 

「……お、ねえさま?」


 隣の部屋の扉は、開いていた。

 隙間からそーっと覗き込むと、泣き声が止む。しーん、という静寂が、怖くて気まずかった。


 扉の隙間から中に入るかどうかを数秒迷って、私は中に入った。そして、お姉様のベッドに近付いた。一歩、二歩、三歩。おずおずと距離を詰めていくと、お姉様のヒステリックな声がした。


「出ていって……!」


 お姉様は、全身全霊で私を拒絶していた。

 その拒絶が痛いほど伝わって、私は。


「……ごめん、なさい」

  

 私はそのとき、ひどく打ちひしがれた記憶がある。

 

 自分がほいほいと近づいていって姉を慰められると思い上がっていたと気付いたのかもしれないし、自分が姉と良好な関係だと思っていたけど違うかもしれないと思ったのかもしれない。

 シンプルに、ヒステリックな叫び声が怖かったのかも。

 

 とにかく、その拒絶の叫びは私の心にザクリと傷をつけた。……ショックだったのだ。

 

 私は後退り、逃げるようにして部屋に戻って――それ以降は、お姉様のお部屋に近付こうとしなくなった。


 私にとってお姉様は、どう接したらいいのか正解がわからない人物だ。

 お姉様からはたぶん嫌われていると思うけど好かれてるかもしれないと感じる瞬間がある。

 そして私も、自分がお姉様を好きなのか嫌いなのかがいまいちわからない。


 * * *

 

「落としたお金はこれで全部ですか、お嬢さん」

「ありがとうございます。助かりました」

   

 騎士様にお金を拾ってもらって受け取りながら、私はお姉様の思い出から現実へと頭を切り替えた。


 さて、私の目の前には王太子付きの騎士様がいて、周囲は「招待状ってどういうことだ!? あとその金はなんだアリシア!」という雰囲気。視線が痛い。

 

 お金については黙秘するとして、招待状については騎士様が説明してくれそうなので聞いてみたいと思います!

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