第9話 七夕で願い事をした
第9話 七夕で願い事をした 前編
荒れ果てた大地に、吹きすさぶ有害物質を含んだ風。
今日も街の外の天気はご機嫌斜めだ。
まあ、この時期にしては珍しく雨が降っていないだけマシかもしれないが。
そんな天気の中、私は地面を掘っていた。
地面からにょっきりと生えている一本の棒にピンときたからだ。
恐らくこれは、大型
私は、アンテナと思しき棒に駆けつけ、手持ちのスコップで地面を掘り進めている最中だった。
掘って掘って掘り進め、徐々に現れる目の前の光景に、自分でもはっきり自覚できるほど笑顔になった。
ラインアトラス重工の旧型の大型パワードスーツ、ネフィリム!
棒はやっぱりアンテナで、しかもボロボロの頭には、エース機である証が辛うじてくっついていた。
「ロイさん、見つけました! エース機! しかも形もきれいに残ってます。レアメタルあるかも!」
「おお! マジか!?」
私が引き続き掘っていると、ロイさんがやって来て作業を手伝ってくれた。
臭いがした。
この機体、絶対にある!
レアメタルちゃん、絶対にいる!
現れた胸部にレアメタルの探知機を当ててみると、見事に反応があった。
私達は狂ったような歓声を上げると、慎重に機体をバラしてトラックへと積み込んだ。
やったあ!! 臨時収入ゲットだ!!
私達は上機嫌で会社へと戻った。
この喜びの日から二日が経過し、本日は七夕だ。
今日は定時で上がり、臨時収入で得たお金でプラネタリウムに行くことになっていた。
初のプラネタリウムかつ、七夕の特別プログラムということで、私はとても楽しみにしている。
「ナナちゃん、お疲れー」
「あ、アイちゃん、お疲れ様!」
いそいそと着替えていると、お疲れモードのアイちゃんがロッカールームに入ってきた。
「ナナちゃん、張り切ってるね」
「うん! 今日のこの日を楽しみにしていたからねー」
「初めてのプラネタリウムだっけ。どこ?」
「アパテイア博物館の中にあるやつ。一番安いやつだけど、解説員さんが人気の人らしくて予約取るの大変だったんだよ」
「グリちゃんも一緒?」
アイちゃんの質問に私はズボンを履きながら首を振る。
「七月の半ばまで忙しいって前に聞いたから誘ってないよ。今日はソロで行ってくる」
「そっかー。今度のデートの時にプラネタリウム行ってみたいって、ユーゴに聞いてみようかな。だから感想聞かせてね」
「いいよー」
私は機嫌よく頷いた。
着替え終えた私は、会社を後にして地下鉄の駅に向かった。
駅は多くの人がいた。
帰宅ラッシュのせいもあるが、七夕ということもあり商業区画や興行区画へ向かう人も多いように思った。
そう、イベントごと大好きなこの街で、七夕なんてイベントを見過ごすはずがない。
学術区画へついた途端、目に飛び込んできたのは、プロジェクションマッピングやホログラムで飾られた七夕飾りだった。
優美に舞う折り鶴、風など吹いていないのに気持ちよくたなびく吹き流しと網飾り、金貨がこぼれ落ちている袋──巾着というそうだ──、様々な柄の前時代の着物が音楽にあわせて踊り、カゴがリズムを刻んで跳ねている。
そして、短冊が飾られた笹がわっさわっさとあちこちに生えていた。
キレイなんだけど、やっぱ派手だなー。
そしてここも結構人がいるな!
以前のバレンタインほどの狂気さはないけど、駅前は屋台も立ち並んで食い歩きの人が多い。
商業区画や興行区画へ行く予定はないけど、ここ以上に凄いことになってるんだろうな。
グリードも来れれば良かったのに。
白銀の多脚ロボットの姿が思い浮かぶ。
しかし、彼は大企業の重役さんだ。
存在理由とも言うべき使命も大事だが、目の前のお仕事もこなさなくてはならない。
つくづく大変な立場だと思う。
見上げれば、七夕仕様の案内のドローンが空を飛んでいる。
もしかしてグリード、仕事と並行してドローンを飛ばしてこの街の様子を記録だけでもしてるのかな。
あの生真面目なAIなら、それくらいのことはしそうだ。
そんなことを思いながら歩いていると、博物館が見えてきた。
チケット売り場は長蛇の列となっている。
うわー、当日券狙いかな?
心なしか、いや、間違いなくカップルらしき人々が多いぞ。
そっかー、そうだよねー。
仕事帰りのデートには最適だもんねー。
一人残らず爆ぜてお星様にな〜れ♡
ネットで予約していた私は行列を通り過ぎ、博物館に入った。
アパテイア博物館は、荒れ果てたこの星の文化財を収集、保管、展示、調査研究などを目的とした施設だそうだ。
しかし、その割には規模が小さい。
その理由は、外敵の数が多くて街にいる傭兵たちだけでは駆逐しきれず、文化財を収集できる場所が限られているせいだった。
私のような資源調達員も、自由に動き回れる範囲が限られているのも、それが大きな理由だったりする。
外敵はナノマシンの無限増殖の力でいくらでもわいてくるけど、人やロボはそういうわけにはいかない。
戦闘用の大型パワードスーツの数も、傭兵自体の数もまだまだ足りないと傭兵のユーゴさんに聞いたことがある。
街はこんなにも浮かれているのに、街の外の惨状ときたら目も当てられない。
でも、先の戦争からここまで復興できたのだ。
まだまだ発展途上のはず。
頑張って資源を探して集めて、私も街も発展していこうではないか。
私はプラネタリウムの列に並びながら、小さくガッツポーズを取った。
……うん、真面目な感じで現実逃避をしていました。
私の周囲はカップルだらけで、一人者は厳しい状況なのだ。
周囲は私など関係なく、キャッキャウフフしているから、私が勝手に肩身を狭くしているだけだけど。
我慢だ、あと十分で開場になる。
それまで電子雑誌でも見てようっと。
そうして時間を潰していたら、会場の時間となった。
座席は決まっておらず、早い者勝ちだったが、そこそこ良い位置の座席に座ることができた。
改めて会場を見渡す。
特徴的な形の投影機が真ん中に設置され、それを囲うように座席が配置されている。
後ろの方の座席には二人がけのソファがあって、カップルが早速寄り添って座っていた。
……羨ましくないもんね。
真上の白いドームを見上げれば、今後のプログラムの予定が映像で流れていた。
そして解説員の注意事項の後、プログラムが始まった。
最初は今夜のアパテイア上空の星の様子が表示される。
アパテイアのドーム自体、プラネタリウムのようなものだが、不夜城アパテイアの街の光はドームの星空をくすませるには十分なものだ。
嵐がやみ、街の光が消えた星空は、映像とはいえ本当に美しかった。
まるで星の海に放り出されたかのようだ。
昔の人は、こんなにキレイな星空を毎晩見れていたのかな。
……こういうの、大切な人と見ることができたら、静かに、でもメッチャ気分盛り上がるんだろうな。
だって想像しただけでときめくもん。
彼氏持ちのアイちゃんには手放しでオススメできる。
いいなー。
雑念混じりに星空を見ていたら、七夕の特別プログラムが始まった。
よく知られている七夕の織姫と彦星の物語。
バリキャリだった織姫が年頃になり、父親の勧めで甲斐性のあるイケメンの牛飼い彦星と結婚した。
しかし、二人とも新婚生活が楽しすぎて働かなくなっちゃって、怒った父親に引き離され、年に一回しか会えなくなっちゃったお話だ。
七夕飾りは、その織姫にちなんだものが多いという。
彦星どこいった?
そして短冊への願い事は、これも元々は織姫にちなんで、裁縫や機織りの上達を祈願したものがことの始まりらしい。
やっぱり彦星どこいった?
彦星の星、アルタイルはすごく目立つキレイな星なのにな。
美しい星空とともに、美声の解説員から七夕の話を聞けた。
勉強になった上に目も耳も心地よくなり、幸せな気分になる。
プログラムが終了し、私は満足して博物館を出た。
あー、来れてよかった。
来年は彼氏ができて、一緒に来れるといいんだけど、その彼氏がいる姿がまるで想像できないんだよな。
私は苦笑して肩を落とした。
こればかりは、私の努力だけではどうにもならない。
私は顔を上げると、近くの喫茶店へと向かった。
もう少しプラネタリウムの余韻に浸っていたかった。
あ、そうだ、マナーモードにしていた端末元に戻そう。
そうしてバックから端末を取り出すと、グリードからメッセが入っていた。
「こんばんは、ナナミ。今夜は予定はあるか? もし差し支えなければ、少しだけ七夕を見に行かないか」
メッセが届いたのは三十分くらい前だ。
グリードからお誘いがあったのか。
忙しいって言っていたのに、やっぱり欲望にまつわるイベントごとを見逃すつもりはなかったんだ。
私は取り急ぎテキストを打って送信した。
「ゴメン、一足先にプラネタリウム見てた。今からでもいいなら合流しようか?」
返信はすぐに来なかった。
私はカフェへとむかう。
店内は混んでいたけど、テラス席がちょうど空いて無事に席をゲット。
ラッキーだ。
私はひとまずコーヒーを頼み、端末を見るとグリードからメッセが届いていた。
「そうか。今どこにいる?」
「博物館の近くのカフェだよ」
「わかった。すぐに向かうから、そこで待っていてくれ」
「うん、待ってるねー」
私はメッセを送り、頼んだコーヒーに口をつけた。
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