Target:9 ニコ・プーマ(黄色)
勇者の子孫……勇者の子孫……勇者の子孫……。
天井をボーっと見てるだけで何も分からない。上の空っていうか、勇者の子孫だって言葉が呑み込めない。
「シン、大丈夫?」
ルミナがこちらの顔を覗いてきた。
「ああ、大丈夫だが……勇者の子孫、ってなんだ」
「文字通りじゃないのかな~ぁ。五代目勇者・ドゥーイット・スリットの子孫でしょ?」
「ああ、そういう事か……」
ドゥーイット・スリットは確か、イリスとは正反対の性格で明るく豪快、そして奔放だけどやるときはやるタイプ……父さんの伝言だけど。
「で、勇者の子孫の話はいいとして!」
ミアが大声を出す。
「君らは次に殺す相手を見つけたのかい? もうだいぶ殺してきたが……」
「あー……」
俺はテーブルの上にある赤い紙を確認した。
残りは四人……特に『ニコ・プーマ』というのが気になる。
「なぁルミナ」
「ん?」
「俺、ニコ・プーマが気になるんだよな……」
「わたしは……クミン・チアノーゼが気になるけど……」
ルミナとはなるべく喧嘩したくない。
「ほう。シン、ワタシはシンの選択を支持する。なんせ殺す難易度が低いからな」
「どうしてですか?」
ルミナがミアに聞く。
「そのニコ・プーマは五歳児だから簡単に殺せるんだ」
「はァ!?」
ルミナが大声を出して立ち上がり、泣きながら怒っている。
「なんなのそれッ!! 五歳児を殺すなんて、許さない!」
「じゃあクエストやめるか? このままでいいのか?」
「うるさいッ!! こんなクエスト、放棄してやるッ!!」
そう言ってルミナは家から出た。
……どうやってルミナを連れ出そうか……。
「シン……」
俺は立ち上がってルミナを追おうとする。……が、ミアに手首を掴まれた。
「ルミナならワタシの魔法で呼び出せるぞ」
「それを今すぐお願いしますッ!!」
ミアが指を鳴らすと、ルミナが出て来た。
「なんッ、で……! わたしを戻したのよ!!」
「居ないと困るから」
ミアは黒い扇子で口を隠しながら平坦に答えた。
「なぁルミナ……俺、お前が居なかったら困るんだ。それにこのクエストはお前が挑戦したいって言ったのが元凶だろ」
「……ッ、シンってわたしとは価値観違うんだね……!」
「俺はクエストの為なら……」
「ただ殺したいだけの癖に!! ふざけるな!!」
「ルミナ!! 仕事は最後までやり切れよ!! 十四歳の癖に子供みたいなことを言うな!!」
「うるさいな!! 十四歳なんてまだまだ子供でしょ!?」
しばらくルミナと口喧嘩をして、今は疲れたのかソファに俺とルミナが寄り添って寝ている。……俺はもう起きたが。
しかし、ルミナは顔も胸も性格も良くて本当に俺はラブな方で好きだ。
「んんっ……シン……そこ、ダメ……っ」
「え!?」
お、俺の幻覚……?
なぁ、ルミナ。意味深なこと言うなよ……!
「あ、シン……おはよ~ぅ……」
ルミナが腕を上に伸ばしてバキバキと骨の音を響かせた。
「って、ちょっと! 何勃起してんの!?」
「馬鹿が! お前が意味深な寝言を言ったからだろう!?」
「なんて?」
「『んんっ……シン……そこ、ダメ……っ』……って」
顔が赤くなってるのが分かる。
鼓動が早まって、ナニが登りそうになってる。落ち着け俺……!
「えーっ! ヤバッ、わたしヤバくない!? シ、シンとはまだ付き合ってもいないのに……」
ルミナはソファにあるクッションを抱き締めて不満げながらも頬を赤らめている。
そこへミアの手を叩く音が聞こえた。
「ほれほれ、恋に愛に性行為に夫婦漫才してる場合じゃないぞ」
俺は立ち上がってルミナの前で告げる。
「金が欲しくないのか? 一万の金貨、半分だと五千枚の金貨を手に入れるには必要なんだよ! ルミナ、俺はお前を愛している!!」
「……えっ!?」
ルミナがソファから起き上がってクッションを抱えたまま泣いている。
ついに言った本命への愛の告白が恥ずかしくなってくる……!
「それ……ガチ?」
「千パーセントガチだ」
「わ……カッコ、いい……。シンがこんなに真剣なのに、わたしが腑抜けちゃダメだよね……! よし、わたしもそのニコちゃんを殺す行為に二度と文句言わない……!」
「もう絶対言うなよ?」
そういったことで俺たちは……ここはどこだ?
「ここはアヴリル共和国だ。芸術と花の都だ」
アヴリル共和国に来たのは初めてだった。
塔が大きくて匂いもいい。
ここは天国か?
……ちゃんとナイフと小瓶を鞄に入れて来た。これなら安全に殺せるだろう。
ルミナがあちこちを……――!?
な、なんだあの幼女……!
オーラが違う。オカルトやスピリチュアルは信じてないが、あの黄色の風船持っている幼女はどう見てもおかしい。
「シン、どうした?」
「あのデコ出しショートボブの黄色の……」
「あ、あれか。あれこそがニコ・プーマだ。シン、殺せるか……?」
「……少なくとも殺し慣れたから……」
「罪悪感は無い、ってことか」
「取り敢えず接触してみるが……」
近づくごとに汗の量が止まらなくて、鼓動が早くなる。
「あ、おにいちゃん! だれ?」
脳が命令してる。
この女には近づいちゃいけないって。
「お、俺……? 俺はシン・ユーグリッド。君は?」
「にこはにこ・ぷーま! おにいちゃんはどうしてにこにあいにきたの?」
「それはね、ニコちゃんが好きだからだよ」
「にこ、おにいちゃんのことすきだよ!」
早く殺さねば……どうすればいいんだ。
取り敢えず路地裏に連れて行くか……。
「ニコちゃん、俺、楽しい所に連れて行ってあげるよ~」
「どこに?」
「ニコちゃんが楽しいと思うとこは?」
「ゆうえんち!」
汗がだらだらで気持ちが悪い。
吐き気がする。
「ニコ! 探したんだぞ!」
「きゃあああ!! 男に襲われている!!」
「本当だな。こういう時に『魔王の高圧』という術をかけておいてよかった……」
ああ、そういうことか。
俺は魔法が使えない。ニコの両親は魔法が使える……貴族階級か?
魔法を解除するならミアを呼ばなきゃいけない。
「ぱぱ、まま!! このしんくんはわるいひとじゃないよ!!」
「そんなわけあるか!」
「ぱぱ! にこのいうことしんじて!!」
「いくら娘だからってわがままは許さないわよ!!」
「まま! しんはすごくいいひとだから!!」
ニコが両親に対して慌てて接している。
……あ! そういえば父さんから教わった方法を思いついた。
魔王覇気解除の方法は術者を説得するしかない。
……なんてめんどくさい事、やってられっか!!
「ニコ! お前は騙されてるんだって!」
「そうよ! あのシンとかいう胡散臭い子供なんて無視して……」
「いや! にこはしんおにいちゃんといっしょにいく!! ぱぱとままなんてしーらない!」
「……ああ、行きたきゃ行けばいいんじゃないか?」
「あなた! ……でもそうね。一度痛い目見ればいいんじゃないかしら?」
ニコの父親が投げやりに言うと、さっきのようなプレッシャーが一気に消えた。
そして、五歳児はこんな感じなんだなって改めて泣いてしまった。
見てないから罪悪感ないなんて嘘で、俺はただの寒村出身の十四歳でしかないんだ。
「おにいちゃん、なんでないてるの?」
「……なんでだろうかな? 今日君を……」
「きみを?」
「暗い森に連れていくからだよッ!」
「えー? やだー! やっぱりにk……むぐっ!」
俺はニコの口を塞ぎながら走る。
……しばらくして人気の少ない所に来た。
ここなら誰にもバレないだろう。
五歳児……五歳児……五歳児……。
俺はニコを壁際に押しつけて背中からナイフで刺した。
そして彼女の心臓を食べた。
禁忌を犯してしまったが、ルミナはまだ俺の事を好きになってくれるか?
光球は黄色なので、鞄の中から黄色の小瓶を入れた。
次の瞬間、ミアの家に戻っていた。
「シンーーーーーーーー!! やったねー---------!」
いきなりルミナが抱き着いてきた。
この胸、いつか揉める事は出来ないだろうか。
「シン、よくやったな」
「ありがとうな、ミア」
そうして俺とルミナとミアは寝た。
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