Target:7 ユノ・マゼンタ(紫)

 中華帝国から帰ってきて、二週間が経過した。

 その間にルミナは金貨で自分や俺の服を買ってきたり、ミアがまた他国に行ったりしてた。

 今は三人でテーブルの椅子に座っている。


「ねぇ~シン~」

「何だルミナ」

「誰殺すかもう決めた? もう大和皇国の人も中華帝国の人も殺しちゃったけど……」

「ルミナ、お前実は殺人を楽しみにしてるだろ」

「えっ!? な、なんで?」

「態度見ればわかる。自分で殺すのは嫌だけど俺に殺人される時は凄く楽しそうだったぞ。分かりやすいんだよお前。まあ、怒らないけど……」

「怒らないなんてシンは優しいね~……」


 ルミナが目を逸らしながら両手の人差し指を擦ってる。

 ……俺はルミナを怒れない。

 何故かって? 好きな女だからに決まってるだろ!

 それに、俺は最初の一回から人殺しに何も抵抗はない。

 クエスト成功に命を懸けてるからな。それと俺が異常者だから?


「可愛い女の子を殺し続けるって結構疲れない?」

「そうだな。毎回ナイフで刺して……あ! そういえばミリオネは毒殺でワンは銃殺だな」

「殺し方、もっといいの無いのかなぁ~?」

「あるぞ」


 突然ミアが後ろから話しかけてルミナがビックリしている。


「み、ミアさん!?」

「心臓を握りつぶすんだ」

「……は?」


 俺は思わず「は?」と言ってしまった。


「透過魔法で相手の身体に手を入れてその相手の心臓を握りつぶすんだ。せっかくだから魔力がない……取り敢えず、シンに透過魔法を発動できるような魔力を供給しといた。イメージは何となくできるだろ?」

「あ、そ、そうだな。……今の俺、魔力帯びてる?」

「もう魔力は転送済みだ」


 ルミナがあからさまに不機嫌な顔をしているが、眠いんだろうか?

 もう夜だし、寝なきゃダメだよな。


 翌朝。

 朝七時から俺たちは外見変化の魔法を使って王都で探している。

 なんでかって? ルミナが「たまには原点回帰しようよ」と言ってきたからである。


 ……なんだ、あの美少女は……?

 聖ナオミの制服の上に黒いパーカーを着ている。

 ピアスも開けており、黒髪で紫のインナーカラーをしていて、髪は外ハネのセミロングだった。


『シン、君の居るところに聖ナオミの生徒いるだろ』


 俺の居るところまで分かるのか。今俺が居るのは汚い路地裏だ。

 そしてまたミアからのテレパシーだ。


『どうして分かった』

『勘だよ、勘』

『そうか。なんか怖くて声かけづらいんだが……』

『ワタシとルミナも至急そっちに向かうから待ってろ。じゃあな』


 そして数分後、二人とも俺のところに来た。


「おい、オレに何の用だよ? あぁ?」


 不機嫌そうに彼女は呟き、こちらを睨む。


「ユノ・マゼンタって人を探してるんだ」


 俺は冷たい声色で目の前の彼女に聞いた。


「あ? オレの事かよ。で、テメェら、オレになんか用か?」


 まさかのビンゴである。

 ユノは飲んでた紙パックを握りつぶし、立とうとするがふらついてる。


「まさかユノ、君お酒飲んでないか? 聖ナオミの生徒なのに何をしてるんだ?」

「あぁ? ッチ、説教かよ。ハイハイ酒飲みましたぁ~! ッチ、これでいいか?」


 まさかミアが説教なんてすると思わなかったので俺とルミナは驚いた。


「ッチ、てか、テメェら何もんだァ? オレだけ名乗るのは不平等だろ?」

「えっと、俺の名前はシン・ユーグリッドだ。年齢は十四歳だ。よろしくな」


 口を開けられないほどひりついている空気を壊すために、最初に俺が名乗った。

 ルミナは震えている。なので俺が肩をさする。


「え、えっと……わたしはルミナ・リリーブラウン……です……。ね、年齢はシンと同じで十四歳でーす……」


 いつも元気なルミナが涙目になりながら震えている。内股度も高くなっている。


「あぁ、テメェら同い年かよ。で、そこにいる黒ドレスのババア、テメェは誰だ?」

「ワタシかい? ワタシはミア・クルックスだ。年齢は二十六歳だ。君と仲良くなりたいんだが……」


 ミアがそういうと、ユノは険しい顔をする。


「聖ナオミから死人が出たの知ってるか? ――カノン・エリーザ。こりゃあオレの推測だが、テメェらオレを殺そうとしてるだろ?」

「ユノ君、何故そんなことを思ったんだ? カノンの死は偶然だろ。君がカノンと同じ聖ナオミだから警戒してるだけだろう?」

「……カノンは不登校のオレにも優しくて……いや、誰にでも優しかったな。不登校のオレがナオミにたまに来た時もえ、笑顔で……」


 途中からユノが泣き出した。

 と思ったら紙パックを捨てて立ち上がった。


「そこのえーっと……シンってやつ。テメェ、オレの代わりにこの紙パック酒買ってきてくれるかァ?」

「……わk」

「ワタシが買ってくる。……君が欲しい酒ってこれの事だろう?」


 ミアが一瞬にして右手にさっきユノが持っていた酒を持ってきて、ユノに投げて渡す。

 ユノは礼をするわけもなく、床に落ちてる酒を素早い速度でストローを開けて飲む。


「ね、ねぇユノ……ちゃん」

「あ? ルミなんとか、どうしたンだ?」

「カノンさんとはどんな関係だったんですか?」

「あァ? 先輩と後輩だっつーの! もちろんオレが先輩でカノンが後輩な。オレは現在十八だ。んで、聖ナオミにはオレの事を無視して親が無理やり入れたから不登校になってやったぜ。ルミなんとか、ぜってーオレみてーなロクデナシになんなよォ!」

「ひぃっ、わ、分かり……ました……!」


 いつまでもこんなんじゃ、みんなに怪しまれる。

 俺がユノに行きたいところを思い切って聞いてみた。


「ユノ、お前どこ行きたい?」

「あ? なんだテメェ変態か? じゃあ大和皇国の繁華街、行きてェな……最期に」

「分かった。ワタシの魔法で連れってってやるよ」


 そうミアが提案し、気づいたらトウキョウと言う所にいた。

 朝から騒がしくて眠気が吹っ飛んだ。


「ねぇねぇユノちゃん!」

「ンだよルミなんとか」


 さっきよりルミナが元気になっている。大和皇国が暖かいからかね?


「二人で"ゲームセンター"に行こうよ!」

「あァ、オレは最初からゲーセンで遊ぶ予定だ。良かったらシン、ミアも行こーぜ」


 そうして四人で高層ビルに入って六階にあるゲームセンターとやらに入ってみた。

 ……くっ、めっちゃうるさい!

 まあでも数秒したら慣れたが。


『シン、ユノが油断してる間に彼女の心臓を握りつぶせ』

『分かってるって』


 心臓を潰すって発言で俺の身体が謎に熱くなった。

 ついでに勃起してしまった。まあ、勃起は男の生理現象だからしょうがないんだが……。


 二人を見てると、いろんなところをキョロキョロしているルミナと、ぬいぐるみを掴むゲームをしているユノがいた。

 俺も、学校に行きたいなとフッと思ってしまった。


「クッソ! なんで取れねーんだよ!!」


 ユノが筐体を蹴り飛ばす。


「おい、ユノ」

「……あァ? オレになんか用か?」

「どのぬいぐるみが欲しいんだ?」

「あの、紫のうさぎ」


 照れながらユノがうさぎのぬいぐるみを指さした。

 俺はこういうゲームなんか一切やったことは無いが、他の客の動きを見て何となく出来ると思った。


「テメェ、取れなかったらぶっ殺すぞ!」


 これから殺されるのはお前なんだがな。


 ――数分経っても取れなくて金貨も大ピンチになってしまった。


「シン、お前金あるか?」

「正直言ってそんなに……」

「んならお揃いだな! オレも金ねーん……かっ、あっ……!」


 こんなに簡単に心臓って握りつぶせるんだな。

 柔らかくて熱くて握っていて気持ちよかった。

 色は紫だったので、紫の小瓶に光球を入れた。


 そして気づいたらミアの家に戻っていた。

 なんか朝からドッと疲れてしまった。


「心臓潰せるんだね」


 ルミナが当たり前のことを驚いている。

 お前もやって見るといいぞ、ルミナ。

 一瞬でも魔法が使えたのが気持ちよかった。


 あと六人か。

 一度でも殺人の経験をしたらダメだ。

 殺人が、楽しくなってくる……♡





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