Target:5 ヤマモト・サヤカ(赤紫)

 ミアが昼寝してる間、俺とルミナは赤い紙を見てる。


「もう四人殺した……よね?」

「そうだな」

「あと八人か~。そろそろ疲れて来たかも」

「期限は半年なんだから休んでもいいんだぞ」

「え~……?」


 ……あ、この名前!

 大和皇国やまとこうこくの人間か。

 そういえばこの世界に来るのは圧倒的に「ニホンジン」が多く、そのニホンジンの一人であるキヨノ・イチロウが安楽の為に作ったのが大和皇国……らしい。

 大和皇国の人口はそんなに多く無くて、東の方にある温暖な気候の小国でしかない。


「シン、そんなに紙を見つめちゃってどうしたの?」

「……ヤマモト・サヤカってさ、明らかに大和出身だよな」

「あ、うん! わたしもちょうどその子が気になってたんだよね~。大和って変な名前の人が多いっていうか、苗字の後に名前を書くんだよね。だからこの人の名前はヤマモトじゃなくてサヤカ、なんだよね」

「おっ、そうだな」


 そんな誰でも知ってるレベルの話をされても困る。

 まあ、ルミナのドヤ顔を見れただけマシか。

 やっぱりルミナは可愛いなぁ……。


「殺すの、ヤマモト・サヤカ……だけでいいのかな?」

「まあな。さて、ミアは……あれ?」


 さっきまでソファで寝てたミアが、姿を消している。

 一体何やってるんだろうか?


「ミアさん、いないね」

「ああ。……俺たちだけでサヤカを殺すってのはどうだ?」

「いや、流石に無理だって! 大和皇国は飛行魔法で一週間近くかかるんだって! わたし達魔法も使えないし……」


 今のは俺でも無理だと思った。


『シン、聞こえるか?』

『あーまたテレパシーか? 聞こえてるけど』

『殺す相手はもう決めたか?』

『決めたけどお前どこ行ってるんだよ』

『大和皇国の偵察さ』

『それはまたなんで?』

『大和皇国はまだ行ったことが無くてね。ワタシの転移魔法は行ったことのないところには行けないからな』

『今言ったことルミナに伝えていいか?』

『構わんよ』


 そういってテレパシーは終わった。


「シン、何してたの?」

「ああ、ミアとテレパ……オガッ!」


 突然鈍器並みの重さの箒の柄で首を殴られ、つい奇妙な声が出てしまった。


「て、テレパシーしてたんだね!」

「ルミナにはワタシとシンがテレパシーしてるってのを知ってほしくなかったんだが……」

「てかミアさん! いきなりシンの首を箒の柄で殴るのはダメですよ!」

「すまんな」


 ミアはどこまでも掴みどころがなくて、ミステリアスだ。

 年齢も百歳だと明かされてもそんなに驚かない。


『ワタシは千歳越えてるぞ。外見年齢は二十六歳だが』

『嘘でもマジでもあんま驚かないな……』

「もう! まーた二人の世界に入ってる~~っ!!」

「すまんすまん」


 改めて俺らはソファに座り、赤い紙を眺めていた。


「どうせ君たちが選んだのは『ヤマモト・サヤカ』だろ? 大和皇国に行ったワタシが君たちを連れて行くよ。準備が終わったら声をかけてくれ」


 この後、俺とルミナは一生懸命に準備をした。

 小瓶もナイフも地図も全部ある!


「ミア」

「お、二人ともようやく準備が出来たか。では早速皇国に行くぞ」


 パチンとミアが両手を叩くと、気づいたら大和皇国についていた。


「へぇ~……ここが大和皇国かぁ~」


 俺、大和皇国に来たのは初めてなんだよな……それはルミナも同じなのに、彼女は街を駆け回っている。


「シン、ここは純和風な感じでいいだろ? ニホンジンは建築技術も凄いんだよ。初めて来たとき、驚いた」

「そ、そうだな……」

「ヤマモト・サヤカは今、この国のトウキョウの繁華街にいる。年齢は十六。褐色肌で金髪のギャルだ」

「ギャル……? どういう意味だそれ」

「ニホン語でいうと派手で遊び好きな少女のことを指す」

「要はルミナみたいな?」

「違う。説明するより見てもらう方が早いかな」


 ていうか、ルミナはどこだ?

 遊びすぎて迷子とか勘弁してくれよ……。


『取り敢えずトウキョウの繁華街で三人で移動するぞ』

『ルミナが見当たらないんだが……』

『大丈夫だ、もうすぐこっち来る……!?』


 ミアが驚いている。

 そして……え? なんでルミナ、ピンクメッシュの金髪褐色の派手な女を連れてきてるんだ?


「あーしになんか用?」

「え、もしかしたらあなたって……」

「あーしの名前はヤマモト・サヤカだよ~! 今は友達と繁華街で遊んでた~。で、マジであーしを呼んだ理由何?」


 話し方が軽いというかチャラついてる。

 あと、服装も露出度高くて……胸は小さいけど……。

 確かにこれは派手な女だ。


「マジで何も用がないん~? ならあーしを呼ばなくても……」

「付き合ってください!!」

「えっ!?」


 これぐらいしか彼女を止める方法が思いつかない。


「あ、あーし……え、マ? マジで何言ってんの!?」


 彼女に全力で驚かれた。当たり前か……。

 ルミナの方を見ると、ちょっと不機嫌そうな感じがする。


「あ、えっと……げ、ゲームで! ゲームしたいんです!」

「えぇ……別にいいケドさぁ~、あーしに勝てる自信ある~? てか名前教えてよ。この子がルミナなのはしってけどさ~?」

「俺はシンです! サヤカさんみたいな綺麗な人がタイプです!」

「ちょ、なにあんた……急に褒められて照れるんですケド~!」


 ……明らかにルミナから禍々しい視線を送られている。

 俺の好きな女はこんな股の緩そうな女じゃないから安心しろ……と、テレパシーで送りたいが……。


『ゲームって何のゲームだ。田舎者の君に何が出来る』


 ミアからキツめの口調で言われた。


『今からでもいいから嘘を付け! あなたと性行為したいにしろ!』

『わ、分かった!』


「あの、サヤカさん!」

「サヤカでいいし」

「ゲームっていうのは、エッチなゲームです! どちらがより快感を感じるかの勝負です!」


 こんなことを大声言って恥ずかしくないのか、俺!

 案の定周りの視線が痛い。


「へぇ~、ルミルミよりあーしとセックスしたいんだ~? マジウケる~! いいよそのゲーム、乗った!」

「ありがとうございます!」

「じゃあルミルミ、あーしシンちゃんの童貞奪っちゃうから~!」

「……か、勝手にすれば? 別にわたし、シンの事なんて……!」


 涙目になって声も泣いてるのに、意地で頑固に泣いてない雰囲気を出して強がってるルミナがかわいいなと改めて思った。


「じゃホテルいこーねー! シンちゃん、骨抜きにしてア・ゲ・ル!」


 ということで、俺はサヤカとホテルに行くことになった。

 当然、殺す。

 小瓶が入ったバッグも持ってるし、いけるだろ!

 ルミナ、必ずサヤカの首持ち帰るからな……!


「ここがホテル『オーシャン』ね。あーし、セックスには自信あるから~! テクいしぃ~」


 サヤカが俺と手を繋いでいる。

 どうすれば殺せるだろうか……。武器がナイフ一本というのもキツイ。


「二〇三号室ね~」


 辺りを見渡してみると、現代的でなんというか都会っぽい。

 良い匂いもするし、見る景色全てがキラキラしてるように見える。

 これが都会……故郷のアエキウィタス王国の都会とは圧倒的に違う!

 正直大和皇国見下してたんだが、見下してた自分が恥ずかしいレベルだ。

 そして二〇三号室の中身は……ここは天国か!?


「シンちゃん驚いてるぅ~! こーゆうトコ初めて?」

「は、はい……」

「ウブでか~わいい! マジでピにしてもいいかも」

「ピ?」

「彼氏のこ・と。分かったら一緒にシャワー浴びるよ!」


 そういってサヤカは脱ぎだした。

 金髪ウェーブロングだが、染めているのか頂点が黒い。

 ……あ、ヤバい。

 俺、勃起してしまった! こんな雰囲気のせいだ!


「俺、勃起してるからサヤカさん一人でシャワー入ってください」


 勃起してるのは

 サヤカは香水でも使ってるのかいい匂いするし……。


 ハッ!

 そうだ、今殺そう!

 俺はバッグからナイフを取り出し、サヤカの心臓があるとこめがけて突き刺した。


「あっ、かはっ……マ、ジい、いたい……な……」

「俺はお前みたいな女、タイプじゃねーよ! ルミナが好きなんだよ! 馬鹿がよぉ!!」

「は、う……ん……それ、知って……た……あーし、らい、せは……しあ、わせな……お姫様……に、なり、たいな……」


 こうしてヤマモト・サヤカを殺した。

 色は赤紫か。

 俺は服を着て、バッグから赤紫色の小瓶に光球を入れた。


 あとでルミナになんて言おうかな……。


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