Target:3 ミリオネ・カリダ(水色)
ミア・クルックスは絶対に村長なんかじゃない。
村にいたとき、ミアの姿なんて見たことないし、最近村長の家にも行ったけどミアは居なかった。
今はミアの家に泊るしかないが、正直言ってもう出ていきたいところだ。
大体、王都の側の森に住んでる村長ってなんだ。
「シン、どうしたの? そんな難しい顔して」
「……次の殺す女を物色してただけだ」
「う~そだね~。だって目の前にあの紙無いし。……てか、シンに一つ言ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
朝、テーブルに座っている俺の前でルミナは顔を赤らめてモジモジしている。
「み……ミアさんって、絶対にクルックス村の村長じゃないよね?」
「……なんだ、お前も疑ってたのか」
「だって今の村長はレオ・クルックスっていうおじいちゃんだもん」
「ルミナ、記憶力良いな」
「えへへ、ありがと」
ルミナは俺の右隣の椅子に座った。
「で、シン。今日は誰を殺すの?」
「……ミリオネ・カリダってやつ」
「どんな子なんだろうね」
「それは現地に行かないと分からないな」
現地ってなんだよ。
でも、二連続王都にターゲットが居るなんておかしいよな……。
まさか全員王都に? いや、そんなわけがない。
「君たち、指名手配されてるぞ!」
ミアが珍しく汗をかきながら大声で報告してきた。
「えっ、指名手配!?」
「多分レティの両親からの通報だろうな」
「じゃ、じゃあどうすればいいんですか? ミアさん!」
ミアは呼吸を整えたのちにコーヒーを入れて飲んでいる。
そして真剣なオーラを纏った後にこう言った。
「"外見変化"」
「がい、けん……?」
「ルミナ、それぐらい分かれよ。要は見た目を変えて俺とルミナの正体を隠すって作戦だろうな」
「シン、よく分かったな。ワタシもこの王国に来る前に何度も姿を変えて来たよ」
魔女か?
魔女帽子もかぶっているし、村長はそんな簡単に住処を変えたりしない。なんせ寒村だしな。
まあ、今さらそんな事を追求しても仕方ないか。
「さっきミリオネ・カリダといったな。彼女は性奴隷だ。年齢は九歳。黒髪ボブの美少女だ」
「え……なにそれ可哀想……。そんな子を殺さなきゃいけないの?」
ルミナが涙声になっている。
正直言って俺もかなり辛い。九歳なんて幼すぎる。
もうちょっと長く生きられるのに……。
「シン、これをミリオネに食べさせて殺せ。猛毒の飴だ。すぐに飴が口の中で溶けて手軽に殺せる」
「……」
ミアが俺に毒みたいな飴を渡してきた。
流石の俺でも九歳の女の子をナイフで刺したくないしな。
「そんなに睨む必要はないじゃないか。ワタシも幼子を殺すのにはためらいがあるが、クエスト遂行のためには彼女も犠牲になってもらわないといけない」
「い、やだ……」
ルミナがすすり泣きして両手で目を覆っている。
「ルミナ、お前はここでお留守番だ」
「……シン、本当にミリオネちゃんを殺すの? そんなことしたら、シンの事嫌いになりそう……」
「えっ……」
俺が「えっ」とか言ってる間に、ミアはルミナに近づいて彼女の頭を撫でる。
瞬間、ピンク色の光が出てきた。何の魔法なんだろうか?
「シン、大好きだよ!」
「これで満足か?」
「は? ……ま、まあルミナに嫌われるよりはマシだが……」
「では早速王都の外れにある奴隷商店街に行こう。ルミナはお留守番でいいな?」
「いや、わたしも行く……! こういうことから目を背けるのは罪だと思うし……!」
こうして俺たちは身支度をして外に出た。
「今から二人には外見変化の魔法をかける」
そういってミアは俺たち二人の前に立って両手を前に突き出す。
すると銀色の光が出てきて、気づいたら変身していた。
「これが君たちの変身後の姿だ」
ミアに手鏡を配られて早速自分の容姿を確認する。
……すると俺は茶髪で背が少し高い美少年になっていた。
明らかに元の黒髪で普通気味の容姿とは違う。なんだかワクワクする!
「わ……これがわたし? いくら何でも綺麗すぎる……!」
ルミナの方を見てると、胸の大きい背が少し高くなった亜麻色ストレートロングヘアの美女に変身していた。
個人的には元の茶髪ボブカットのルミナの方が好きだが、今のルミナの姿も悪くはない。
「シン、こ、怖いから……手、繋いでくれる?」
「あ。ああ……いいけど……」
変身後とはいえ、ルミナと手を繋げるこの状況が嬉しすぎる。
ルミナも頬を人差し指で掻いて恥ずかしそうにしてる。
「二人とも、さっさと奴隷商店街に行くよ」
「は、はい!」
「はいっ!」
そう言った途端、強烈な死臭と生ゴミのような匂いがする……っ。吐きそうだ……。
てか、いつの間にか移動してたのか。おそらく転移魔法だろう。
鼻をつまんで街の様子を見る。
人間や動物の骨が散らばっていて、紫の瘴気が蔓延してて、うめき声やヒステリックな叫び声が聞こえる。
「ミアさん! 臭いです! ここ臭いです!」
ルミナが必死に訴える。
彼女も俺と同じで鼻をつまんでいる。
「なら匂いを全く感じない魔法でもかけるか」
ミアさんが言った瞬間、青色の光に包まれて、鼻を開けても悪臭がしなくなった。
「さて、入るぞ」
ミアにそう言われて俺たちは商店街にあった。
吊るされた猫、骸骨、散らかり放題のゴミ……この世界で一番汚いと思ってしまった。
床もベタベタしてて歩きにくいし気持ち悪い。
「……あ! 泣いてる子供がいる!」
突如ルミナは『泣いてる子供』の声が聞こえる方向へと走り去った。
俺とミアも彼女についていった。
そこは青い光が特徴的な怪しい店だった。
……綺麗な子、だと思った。
「おーい! ルミナー! ミアー! こっちにこーい!」
人生で一番大きい声を出してしまった。
周りの視線が痛い。
「なにー? ……って、この子じゃないの!?」
「ああ、俺もそう思ったんだ」
「正解だ、二人とも。この少女こそが『ミリオネ・カリダ』だ」
ミリオネの方を見てみる。
黒髪ボブで目が大きい。今は自身の人差し指を咥えてて泣くのを我慢している感じだ。
雑に着せられた汚い茶色のワンピースを着ており、体格が同年代よりも圧倒的に小さい。
「お~、お客さん。ミリオネが気になりますか~?」
後ろから明らかに怪しい小太りなおじさんがニヤけながら話してきた。
「そいつ、見た目こそ可愛いがなぁ~んにも出来っこない無能なんだよな~! 奉仕も下手くそでさ。値段は金貨一枚だから買いたきゃ好きに買っていけ~!」
「はぁ!? 何言ってるのジジイ! こんなかわいい子を奴隷にして無能とか言って!! ほんっとうに最低! ……って、ここミアさんの家のリビング!? なんで!?」
いきなり奴隷商店街の店内から見た目が変わったので驚いた。
気づいたら変身魔法も解けていた。
「あ、あの……」
聞いた事がある声の少女が俺に話してきた。
振り返ると、さっきの奴隷少女……ミリオネが居た。
「ミリオネちゃ~ん!! わたしたち助かったね~!!」
「わわ! そんなに強く抱き締められると痛いです……」
ルミナがミリオネを強く抱き締めている。
……やっぱり、さっきのルミナよりいつものルミナの方が落ち着く。
しかも今気づいたが、ミリオネって結構かわいい声してるんだな。
「ミリオネちゃん! これからどこに行きたい? わたしが連れてってあげる!」
「え……い、行きたいところ……ですか?」
「うん! やっぱりカフェ? それとも遊園地?」
「あの……そんなに一気に言われると分かんない、です……」
ミリオネが苦しそうな声で小さく言葉を吐く。
「おいルミナ、強く抱き締めすぎだぞ。彼女も困惑してるから辞めろ」
「……はぁ~い」
「で、ここはどこですか?」
「ここはね~、まじ……わたし達の村の村長さんの家だよ~。王都まで近い森の中なんだよ!」
「そ、そうなんですか……!」
「あ、わたしちょっとトイレ行ってくるね~!」
そう言ってルミナはリビングから出ていった。
「なあ、ミリオネ」
「……っ! あ、あの……誰ですか?」
「俺はシン・ユーグリッド。クルックス村っていう限界集落出身だ。ルミナも同郷だ」
「へぇ~……そうなんですね……今度行きた……っ!?」
ミリオネが口を開けた瞬間に毒飴を彼女の口に入れた。
彼女は横に倒れ、胸に耳を当てても鼓動が聞こえない。
つまり、死んだ。
本当はいいご飯を食べさせてから殺そうとしたんだが……。
「ミリオネちゃ~……え?」
トイレから帰ってきたルミナが絶望した顔をしている。
「なんで、殺したの……?」
「クエスト達成のため」
そういって俺は水色の光球を水色の小瓶に入れた。
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